密教的実践
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 16:46 UTC 版)
また、仏陀の境地を速やかに達成するための特別な方便として、各宗派においてインド後期密教の流れを汲む無上瑜伽タントラの実践が行われている。一般的に新訳派では無上瑜伽タントラを、本尊の観想を中心とした生起次第を重視する父タントラ、身体修練によって空性大楽の獲得を目指す究竟次第を重視する母タントラ、それらを不可分に実践する不ニタントラの三段階に分類する。密教の最奥義に相当するものにはニンマ派のゾクチェン(大究竟)、サキャ派のラムデ(道果)、カギュ派のマハームドラー(大印契)などがあり、各派に思想的特徴が見られる。 これら顕密併習の修道論として、最大宗派のゲルク派にはツォンカパの著した『菩提道次第』(ラムリム)と『秘密道次第論』(ンガクリム)があるが、各宗派においてもそれらとほぼ同種の修道論が多数著されている。 無上瑜伽タントラの実践においては、タントラ文献の記述や後述のヤブユムのイメージなどから、一部でセックスを修行に取り入れているという道徳的観点からの批判もあるが、これは在家密教修行者集団内でのことである。中世にはカダム派(英語版)を中心とした出家者集団の復興が行われて以降、性的実践を行なわずに密教を修行する傾向が強まった(後述)。その影響が各派に及び、現在の出家僧団においてはあくまで観念上の教義として昇華され、なおかつ一般の修行と教学を修得した者のみに開示される秘法とされた。このような呪術的、性的な要素については、出家僧団内においては実際的な行法としては禁止されたものの、その背景にある深遠な哲学自体は認められたため、教学および象徴的造形としては残されたということに留意すべきである。現在では顕教を重視するゲルク派が最大宗派となっていることからも、全体として密教的な修行法よりも、「教理問答」のような言語的コミュニケーションと、仏教教学の厳密な履修が重要視される傾向が高まっているといえる。
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