室温における繰り返し変形(疲労)挙動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 15:55 UTC 版)
「ベイナイト」の記事における「室温における繰り返し変形(疲労)挙動」の解説
鋼の疲労はマッカーチ(Macherauch)によると次の4つの疲労段階: 弾塑性繰り返し荷重変位過程及び微小亀裂の発生過程、亀裂伝播過程、最終的な疲労破壊に分類される。焼入れ鋼は疲労破壊に先立って起きる、繰り返し荷重変位過程及び微小亀裂発生が支配的である。焼ならし鋼或いは調質鋼は亀裂伝播速度を保ったまま許容応力を大きくして、ある重要部品の寿命を伸ばせるかもしれない。 弾塑性繰り返し荷重変位によって、図17に示す応力‐全ひずみ関係のヒステリシス曲線から、材料特性のパラメーターが得られる。応力制御の疲労試験では、繰り返し数Nの疲労荷重を与えたときの全ひずみ振幅εa,t及び塑性ひずみ振幅εa,pを求める。繰り返し荷重による硬化(軟化)はεa,p及びεa,tの減少(増加)として得られる。一方、ひずみ制御の疲労試験ではそれに対して応力振幅σa及び塑性ひずみ振幅εa,pの大きさを求める。繰り返し荷重による硬化(軟化)はεa,pの減少(増加)として得られる。横軸を破断したときの繰り返し数(限界繰り返し数)の対数に、縦軸に従属変数として応力振幅をプロットした結果は、一般にS-N曲線と呼ばれる。従属変数対のσaとεa,p、またはεa,tの関係性から、繰り返し応力‐ひずみ線図が得られる。これによって引張試験の応力‐ひずみ曲線のように、繰り返し引張のひずみと降伏応力を除けるかもしれない。 繰り返し荷重‐変位曲線は帰納的に繰り返し荷重時の材料特性を与える。焼ならし鋼は大抵、準弾性のある繰り返し回数の潜伏期間の後に、疲労限が繰り返し荷重による加工硬化と結びついて不安定化する様子が認められる。この不安定化は均一ひずみ域において発生し、その引張方向に沿って疲労リューダース帯が観察される。 調質鋼においても、潜伏期間を持った不安定化が認められ、亀裂の発生が促される。応力振幅の増大とともに潜伏期間は短くなり、寿命も短くなる。既存の非常に高い転位密度のために新たな転位の生成はありえそうになく、塑性変形するためには既存の転位構造を再配置しなければならない。硬化した材料の状態は、非平衡濃度の炭素原子と弾性変形の相互作用によって転位が集積する機会を与えるために、繰り返し荷重による加工硬化をもたらす。調質は固溶した炭素の濃度を低下させ、転位と炭素原子の相互作用の可能性を下げるともに、転位構造を変化させて軟化させる。 定常的な亀裂伝播段階においては、亀裂先端の繰り返し塑性変形が重要である。亀裂伝播は応力拡大係数ΔKに支配される。荷重変化に対する亀裂長さの増加は、定数c及びnを用いて、 d a d N = c ( Δ K ) n {\displaystyle {\frac {da}{dN}}=c(\Delta K)^{n}} と表わされる。dA/dnとΔKを両対数プロットすると両者の間に直線関係が認められる。閾値ΔK未満においては亀裂は一切増加しない。非常に高いΔKは、破面が不安定な亀裂成長となりやすい。
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