焼ならしとは? わかりやすく解説

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焼ならし

normalizing
オーステナイト化空冷する熱処理
備考その目的は、前加工影響除去し結晶核細微化して機械的性質改善することである。鉄鋼の焼ならし加工は、JIS B 6911規定している。

焼ならし(N)

Normalizing)焼ならしの目的は、組織改善である。高温成形熱間加工又は熱間鍛造)されたねじ部品は、高温からの冷却過程において、凝固速度が場所によって不均一であること、肉厚熱間加工後の部分的温度不同等の影響で、異常組織結晶粒粗大化及び不揃い等が起きる。これを、変態点よりやや高い温度再加熱して、空冷することによって、結晶粒生まれ変わり全体微細な組織となり、強さ靭性等の機械的性質向上し残留応力除去される。この操作のことを、「焼ならし」と言う

焼ならし

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/17 08:43 UTC 版)

焼ならし(やきならし、英語: normalizing)とは、を所定の高温まで加熱した後、一般には空冷で冷却して、金属組織の結晶を均一微細化させて、機械的性質の改善や切削性の向上を行う熱処理[1] [2]焼きならし焼き準し(やきならし)、焼準(しょうじゅん)とも表記する[3][4]。 本記事では日本工業規格学術用語集に準じて、「焼ならし」の表記で統一する[1][5]

目的

焼ならし処理により以下のような改善が得られる。

組織の均一微細化

ASTM A285鋼のフェライト・パーライト組織拡大写真、炭素含有量は0.18%のもの
薄い灰色部:フェライト、濃い灰色部:パーライト

鉄鋼製部品の材料となる鋼材は、鋳造鍛造圧延で造られる[6]。しかし、鋳造によるものは冷却および凝固速度が場所によって不均一なため、鍛造あるいは圧延によるものは肉厚不同や熱間加工終了温度の部分的不同のため、過熱異常組織や炭化物の部分的凝集、結晶粒の粗大化や不均一が発生する[6]。焼ならしでは、このような材料に対して所定の処理を行うことにより、組織全体で成分を均一化させ結晶粒を微細化させる[7]

「鋼を標準状態に戻す処理」という意味合いから、焼準という字が当てられるとされるが[8]、得られる組織は鋼の標準組織ではない[9]。鋼の標準組織を得ることができる熱処理は、焼なましの一種である完全焼なまし処理などである[2]。焼ならしで得られる均質微細な組織は焼ならし組織と呼ぶ[10]

室温の鋼の標準組織は、亜共析鋼ではフェライト+パーライト、共析鋼ではパーライトのみ、過共析鋼ではパーライト+セメンタイトで構成される[11]。このパーライトはフェライトとセメンタイトが微視的に層状に並ぶ混合組織である[12]。一方、焼ならし組織は、基本的な組織は標準組織と同じだが結晶粒が微細化されており[13]、特にパーライトは電子顕微鏡でないと層状であることが確認できないような微細パーライトと呼ばれる組織になる[6][14]

機械的性質の改善

鋳造、鍛造、圧延で造られ、上記で述べたような不均一組織を持つ鋼材を焼ならしすると、引張強さ、降伏点、伸び、絞り、衝撃値などの機械的性質が向上する[6]焼なましが鋼を軟らかくする処理で、焼入れが鋼を硬くする処理であるのに対して、焼ならしは鋼にある程度の硬さと粘り強さを与える処理と言われる[8]

特に、機械的性質の改善の内、引張強さの向上はそれほどではないが、衝撃特性はかなり改善される[15]。焼ならしをしたものと鍛造、圧延のままのものを比較すると、それぞれが同じ引張強さでも焼ならし品の方が耐衝撃性が優秀である[16]

熱処理後の鋼の機械的性質は炭素含有量の影響が特に大きい[17]。例として、鋼焼ならし後の機械的性質推定式を以下に示す[18]。適用範囲は炭素含有量 0.20 - 0.65%、マンガン含有量 0.50 -0.90% の範囲における鋼である。

鉄-炭素系平衡状態図

加工欠陥

焼ならしによる欠陥には、酸化によるスケール、脱炭などがある[36]。酸化と脱炭を完全に防止するには鋼と化学反応しない中性ガスで加工品を加熱する方法が必要になる[37]。また、急激な昇温を行うと、加工品内で温度差ができて熱応力により割れが発生することもある[38]。このため、大型加工品や複雑な形状の加工品は階段状に昇温するなどの工夫が取られる[38]。以上の欠陥はいずれも加熱に伴うもので、誤れば焼入れや焼なましなどでも同様に発生し得る。

一方で、焼入れと異なりマルテンサイト変態や急激な冷却が必須ではないので、焼ならしは冷却時の焼割れや焼曲りの危険が少ないという利点がある[8]

脚注

  1. ^ a b c d 日本工業標準調査会 編『JIS B 6905 金属製品熱処理用語』1995年、3頁。 
  2. ^ a b 日本機械学会 編『機械工学辞典』(第2版)丸善、2007年、1307頁。ISBN 978-4-88898-083-8 
  3. ^ 「焼き準し」の意味 デジタル大辞泉”. goo辞書. NTTレゾナント. 2014年10月4日閲覧。
  4. ^ 焼きならしの意味・解説 大車林”. Weblio辞書. 三栄書房、Weblio. 2014年10月4日閲覧。
  5. ^ オンライン学術用語集検索ページ”. 学術用語集. 文部科学省・国立情報学研究所. 2014年9月21日閲覧。
  6. ^ a b c d e f 熱処理ガイドブック 2013, p. 118.
  7. ^ a b 新・知りたい熱処理 2001, p. 105.
  8. ^ a b c 熱処理技術マニュアル 2008, p. 41.
  9. ^ 熱処理技術マニュアル 2013, p. 114.
  10. ^ 熱処理技術マニュアル 2008, p. 114.
  11. ^ 熱処理技術入門 1080, p. 5.
  12. ^ 熱処理技術入門 1980, p. 5.
  13. ^ 熱処理技術入門 1980, p. 15.
  14. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 79.
  15. ^ a b c 熱処理ガイドブック 2013, p. 85.
  16. ^ 新・知りたい熱処理 2001, p. 130.
  17. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 12.
  18. ^ 荘司郁夫・小山真司・井上雅博・山内啓・安藤哲也『機械材料学』丸善出版、2014年7月10日、181-182頁。 ISBN 978-4-621-08840-1 
  19. ^ 坂本卓 2007, p. 22.
  20. ^ 藤木榮 2013, p. 40.
  21. ^ a b c 機械工作法Ⅰ 2002, p. 182.
  22. ^ a b c d e f 熱処理ガイドブック 2013, p. 120.
  23. ^ a b c d e 機械工作法Ⅰ 2002, p. 183.
  24. ^ 藤木榮 2013, p. 60.
  25. ^ 新・知りたい熱処理 2001, p. 121.
  26. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 121.
  27. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 179.
  28. ^ a b 熱処理ガイドブック 2013, p. 119.
  29. ^ 藤木榮 2013, p. 12.
  30. ^ a b c 熱処理技術マニュアル 2008, p. 42.
  31. ^ 坂本卓 2007, p. 58.
  32. ^ a b 熱処理ガイドブック 2013, p. 86.
  33. ^ 藤木榮 2013, p. 61.
  34. ^ 新・知りたい熱処理 2001, p. 107.
  35. ^ a b c d 熱処理技術マニュアル 2008, p. 107.
  36. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 172.
  37. ^ 熱処理ガイドブック 2013, p. 173.
  38. ^ a b 坂本卓 2007, p. 55.

参考文献

  • 大和久重雄、2008、『熱処理技術マニュアル』増補改訂版、日本規格協会  ISBN 978-4-542-30391-1
  • 日本熱処理技術協会、2013、『熱処理ガイドブック』4版、大河出版  ISBN 978-4-88661-811-5
  • 日本熱処理技術協会・日本金属熱処理工業会、1980、『新版熱処理技術入門』初版、大河出版
  • 朝倉健二・橋本文雄、2002、『機械工作法Ⅰ』改訂版、共立出版  ISBN 4-320-08105-6
  • 不二越熱処理研究会、2001、『新・知りたい熱処理』初版、ジャパンマシニスト社  ISBN 4-88049-035-0
  • 藤木榮、2013、『絵で見てわかる熱処理技術』初版、日刊工業新聞社  ISBN 978-4-526-07170-6
  • 坂本卓、2007、『絵とき 熱処理の実務 ―作業の勘どころとトラブル対策―』初版、日刊工業新聞社  ISBN 978-4-526-05946-9

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