変形及び強度特性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 15:55 UTC 版)
恒温変態ベイナイトにはいくつかの利点がある。下部ベイナイト域においては、0.1から1.0%の炭素量を持つ鋼に、高い強度と良好な靱性を与える。なお、この鋼はクロムを0から1%、珪素を0.1から0.6%を含んでいる。変態温度を400から600℃にすると降伏比(YR、引張強さTSと降伏応力YSの比)が0.6から0.8に上昇する。焼入れ焼戻しでベイナイト化された調質鋼は焼ならし鋼よりも延性に優れ、その引張強さは850 N/mm2(850 MPa)以上にも達しうる。このベイナイトの良好な機械的性質は低い温度に保持することで得られる。更に破断伸び及び絞り、切欠き破壊靱性についても焼ならし鋼と比較して優れ、クリープ破断強度及び疲労強度、破断寿命もこの熱処理によって良好な影響を受ける。 下部から上部ベイナイトに移行すると、衝撃試験の延性脆性遷移温度(英: ductile-brittle transition temperature、DBTT)は著しく上昇する。高い変態温度で変態した上部ベイナイトは、下部ベイナイトと異なった炭化物構造を示しており、その劈開破面単位の大きさ(有効結晶粒径)はベイナイトコロニーの大きさに一致する。これは(下部ベイナイトにおける)マルテンサイトの存在が劈開破面単位を細かくしているためのようにも見える。 しばしばベイナイト組織を持つ鋼は低い降伏強度を示す。シェーバーは高温で不完全変態させた鋼の降伏応力について研究し、高い温度で変態させた場合に最大となると報告している。降伏応力の他に、疲労限度に対して不完全な変態は敏感であると述べている。 ベイナイト組織を持つ材料はその組織の疲労限度やクリープ強度の利点から、弁や皿ばねとして非常によく用いられる。ベイナイト変態させた試験片の疲労限度は焼入れした試験片よりも大きく、それらは可能な限り完全にベイナイト変態したものと考えられる。このベイナイト組織によって、内外の切欠き並びに破壊の起点となる応力集中点を除けるかもしれない。 ベイナイト変態は良好な機械的性質に限らず、遅れ割れ及び実用的な焼割れのない熱処理の観点から興味深い。ベイナイト組織は比較的高い変態温度であっても、焼入れマルテンサイト組織と同様にその非常に大きい変態の残留応力を緩和するために通常調質が施される。そのうえ、ベイナイト変態はマルテンサイト変態と比べてわずかであるが体積が変化しているのである。
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