実在気体の状態方程式について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/21 09:55 UTC 版)
「ビリアル展開」の記事における「実在気体の状態方程式について」の解説
理想気体の場合は圧縮因子が1であるが、実在気体はそうではないのでそのずれを補正する項として圧力 P や体積の逆数 1/V の冪級数で表した(つまりビリアル展開した)のがビリアル方程式である。 Z = P V m R T = 1 + B V V m + C V V m 2 + ⋯ {\displaystyle Z={\frac {PV_{\mathrm {m} }}{RT}}=1+{\frac {B_{\mathrm {V} }}{V_{\mathrm {m} }}}+{\frac {C_{\mathrm {V} }}{V_{\mathrm {m} }^{2}}}+\dotsb } または P の冪級数では Z = P V m R T = 1 + B P P + C P P 2 + . . . {\displaystyle Z={\frac {PV_{\mathrm {m} }}{RT}}=1+B_{P}P+C_{P}P^{2}+...} で表される。ここで、P は圧力、Vm は1モルあたりの体積(モル体積)、R は気体定数、T は温度である。B, C, ... は温度など分子間の相互作用に依存し、実験的に求められる各温度での気体ごとの定数で、ビリアル係数(英語版)という。それぞれ第2ビリアル係数 (second virial coefficient)、第3ビリアル係数、……と呼ばれる。理想気体の場合、または実在気体でも圧力0の極限では Z は1になり、圧力が上がるごとに、高次の P の項の寄与が大きくなる。それぞれのビリアル係数は温度の関数である。第2項 B/Vm は2分子間相互作用に、第3項 C/V 2m は3分子間の相互作用に由来している。ビリアル方程式は、ジョセフ・エドワード・メイヤー(英語版)とマリア・ゲッパート=メイヤーのクラスター展開の理論(1940年)によると、 P v k T = 1 − ∑ n = 1 ∞ n n + 1 β n ρ n {\displaystyle {\frac {Pv}{kT}}=1-\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {n}{n+1}}\beta _{n}\rho ^{n}} と表せる (ρ = 1/v)。ここで、v = V/NA, k = R/NA なので、PVm/RT = Pv/kT である。βn は既約クラスター積分と呼ばれるもので以下のように定式化される。 β n = 1 n ! 1 V ∫ Σ ( s ) Π f i j d r 1 ⋯ d r n , f i j = exp ( − U i j k T ) − 1 {\displaystyle \beta _{n}={\frac {1}{n!}}{\frac {1}{V}}\int \Sigma ^{(s)}\Pi f_{ij}\mathrm {d} r_{1}\dotsb \mathrm {d} r_{n},\quad f_{ij}=\exp \left(-{\frac {U_{ij}}{kT}}\right)-1} ここで、U は分子間ポテンシャルを、添字は分子の番号を表し、分子間ポテンシャル U には、実験値にあうようなものがいくつか提案されている。 上に挙げた既約クラスター積分は、具体的に計算すると β 1 = 1 V ∬ f 12 d r 1 d r 2 β 2 = 1 2 V ∭ f 12 f 23 f 31 d r 1 d r 2 d r 3 β 3 = 1 3 ! V ⨌ ( 3 f 12 f 23 f 34 f 41 + 6 f 12 f 23 f 34 f 41 f 13 + f 12 f 23 f 34 f 41 f 13 f 24 ) d r 1 d r 2 d r 3 d r 4 {\displaystyle {\begin{aligned}\beta _{1}&={\frac {1}{V}}\iint f_{12}\mathrm {d} r_{1}\mathrm {d} r_{2}\\\beta _{2}&={\frac {1}{2V}}\iiint f_{12}f_{23}f_{31}\mathrm {d} r_{1}\mathrm {d} r_{2}\mathrm {d} r_{3}\\\beta _{3}&={\frac {1}{3!V}}\iiiint (3f_{12}f_{23}f_{34}f_{41}+6f_{12}f_{23}f_{34}f_{41}f_{13}+f_{12}f_{23}f_{34}f_{41}f_{13}f_{24})\mathrm {d} r_{1}\mathrm {d} r_{2}\mathrm {d} r_{3}\mathrm {d} r_{4}\end{aligned}}} のようになる。このように、β1 は2分子間、β2 は3分子間、β3 は4分子間の相互作用を表していることがわかる。これより、第2ビリアル係数は、 B V = − N A 2 β 1 = − N A 2 ∫ f 12 d r 12 = 2 π N A ∫ 0 ∞ r 2 [ 1 − exp ( − U 12 k T ) ] d r {\displaystyle B_{\mathrm {V} }=-{\frac {N_{\mathrm {A} }}{2}}\beta _{1}=-{\frac {N_{\mathrm {A} }}{2}}\int f_{12}\mathrm {d} r_{12}=2\pi N_{\mathrm {A} }\int _{0}^{\infty }r^{2}\left[1-\exp \left(-{\frac {U_{12}}{kT}}\right)\right]\mathrm {d} r} と表される。この式は、ファン・デル・ワールスの状態方程式に現れる物質係数 a, b をミクロに導くときに重要となる。 気体がファンデルワールスの状態方程式に従うとするならば、圧縮因子 Z は以下のようになる。 Z = P V m R T = 1 1 − b / V m − a R T V m {\displaystyle Z={\frac {PV_{\mathrm {m} }}{RT}}={\frac {1}{1-b/V_{\mathrm {m} }}}-{\frac {a}{RTV_{\mathrm {m} }}}} また |x| < 1 のときのマクローリン展開 ( 1 − x ) − 1 = 1 + x + x 2 + x 3 + ⋯ {\displaystyle (1-x)^{-1}=1+x+x^{2}+x^{3}+\dotsb } を用いて状態方程式の 1/1 − b/Vm の項を級数に展開し、圧縮因子 Z を用いた式で表すと以下のようになる。 Z = P V m R T = 1 + ( b − a R T ) 1 V m + b 2 V m 2 + ⋯ {\displaystyle Z={\frac {PV_{\mathrm {m} }}{RT}}=1+\left(b-{\frac {a}{RT}}\right){\frac {1}{V_{\mathrm {m} }}}+{\frac {b^{2}}{V_{\mathrm {m} }^{2}}}+\dotsb } この式を使うと、実験で求めた第2ビリアル係数の定数部分から b が、温度に反比例する部分から a が求められる。
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