実二次形式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/05 06:49 UTC 版)
「シルベスターの慣性法則」および「定符号二次形式」も参照 任意の n-次実対称行列 A に対して、n-元二次形式 qA が q A ( x 1 , … , x n ) = ∑ i , j = 1 n a i j x i x j {\displaystyle q_{A}(x_{1},\ldots ,x_{n})=\sum _{i,j=1}^{n}a_{ij}{x_{i}}{x_{j}}} によって与えられる。逆に、n-元二次形式が与えられたとき、その係数を並べて n-次の対称行列が得られる。二次形式論における最も重要な問いは、変数の斉次線型変換によって二次形式 q がどの程度まで簡約できるかということである。ヤコビによる基本定理は任意の二次形式 q が対角線形式 (diagonal form) λ 1 x ~ 1 2 + λ 2 x ~ 2 2 + ⋯ + λ n x ~ n 2 {\displaystyle \lambda _{1}{\tilde {x}}_{1}^{2}+\lambda _{2}{\tilde {x}}_{2}^{2}+\cdots +\lambda _{n}{\tilde {x}}_{n}^{2}} に直せることを注意している。ゆえに対応する対称行列は対角行列であり、これは直交行列による変数変換で実現できる。この場合、係数 λ1, λ2, …, λn は実は番号の並べ替えの違いを除いて一意に決まる。変数変換が(必ずしも直交でない)正則行列によって与えられるならば係数 λi を 0, 1, −1 の何れかにすることができる。シルベスターの慣性法則 によれば 1 および −1 の数は(どんな対角化によっても変わらないという意味で)二次形式の不変量である(1 の数を p, −1 の数を q とするとき、組 (p, q) を二次形式の符号数 (signature) という)。すべてのλi が同じ符号を持つ場合は特に重要で、すべて 1 となるとき二次形式は正定値 (positive definite) であるといい、すべて −1 のとき負定値 (negative definite) であるという。また、0 となる項が存在しないとき、二次形式は非退化 (nondegenerate) であるといい、これには正定値、負定値、不定値(不変量が 1 も −1 も含む)の場合が含まれうる。あるいは同じことだが、非退化二次形式とはその付随する対称双線型形式が非退化であるものをいう。符号数 (p, q) をもつ不定値で非退化な二次形式をもつ実ベクトル空間は、しばしば Rp,q と表され、特に物理学における時空の理論などで用いられる(ミンコフスキー空間の項などを参照せよ)。 以下、これらの結果を異なるやり方で再定式化しよう。 q を n-次元実ベクトル空間上で定義される二次形式とする。V の基底をえらび、A をその基底に関する二次形式 q の係数行列とする。これは x を与えられた基底に関してベクトル v を座標表示した列ベクトルとすれば A が q ( v ) = t x A x {\displaystyle q(v)={}^{t}xAx} を満たす対称行列であるという意味である。基底変換を行えば、列ベクトル x には左から n-次正則行列 S が掛かり、対称行列 A は別の対称行列 B に A → B = S A t S {\displaystyle A\to B=SA\,{}^{t}S} に従って変換される。任意の対称行列 A は、適当な直交行列 S を選ぶことにより、対角行列 B = ( λ 1 0 ⋯ 0 0 λ 2 ⋯ 0 ⋮ ⋮ ⋱ 0 0 0 ⋯ λ n ) {\displaystyle B={\begin{pmatrix}\lambda _{1}&0&\cdots &0\\0&\lambda _{2}&\cdots &0\\\vdots &\vdots &\ddots &0\\0&0&\cdots &\lambda _{n}\end{pmatrix}}} に変換することができる。このとき B の対角成分は一意に決まるというのがヤコビの定理である。S として任意の正則行列をとることを許せば、B の対角成分はさらに 0, 1, −1 の何れかにすることができて、対角成分の 1 の個数 n+, 0 の個数 n0, −1 の数 n− のは A のみに依存して決まる。これはシルベスターの慣性法則の定式化の一つであり、n+ および n− はそれぞれ正および負の慣性指数 (indices of inertia) と呼ばれる。ここでの定義は基底の選び方および対応する実対称行列 A のとり方に依存する形で述べたが、シルベスターの慣性法則は(それらのとり方に依存せず)これらの指数が二次形式 q の不変量であることを述べるものである。 二次形式 q が正定値(あるいは負定値)となるのは 0 でない任意のベクトル v に対して q(v) > 0(あるいは q(v) < 0)を満たすつまり、正の定符号(あるいは負の定符号)を持つときにいう。。 q(v) の値が正にも負にもなるとき、q は不定値 (indefinite) 二次形式であるという。ヤコビの定理やシルベスターの定理で示されることは、n-変数の任意の正定値二次形式が適当な正則線型変換によって n-個の平方数の和に書けるということである。幾何学的に言えば、任意の次元において正定値実二次形式がただ「ひとつ」存在し、その等距変換群はコンパクトな直交群 O(n) となる。これは不定値二次形式の場合とは対照的で、たとえば不定値二次形式に対応する不定値直交群 O(p, q) は非コンパクトである。さらに言えば、Q および −Q の等距変換群は(O(p, q) ≈ O(q, p) なる意味で)同じであるが、付随するクリフォード代数は(したがってピン群も)異なる。
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