地理的定義に対する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/12 16:55 UTC 版)
「バルカン半島」の記事における「地理的定義に対する批判」の解説
バルカン半島という用語はヨーロッパ南東部の多民族の政治的領域を指し示す用語として、地理的ではなく地政学的に定義されているという批判がある。地理学的用語としての半島は水域による境界が陸地境界よりも長くなければならず、また陸地側の境界はそれを構成する三角形の中で最短でなければならない。だが、これはバルカン半島に当てはまらない。オデッサからマタパン岬(約1230-1350キロメートル)と、トリエステからマタパン岬まで(約1270-1285キロメートル)という東と西の水域の隣辺はトリエステからオデッサに至る陸地の隣片(約1330-1365キロメートル)よりも短い。学術的に半島であると言い切るには大陸とつながる陸地の境界線が長すぎる。オデッサからの距離はトリエステよりもバルト海沿岸のシュテッティン(920キロメートル)やロストック(950キロメートル)が近いが、それでもその西側の陸地は別個のヨーロッパ半島とはみなされていない。19世紀末-20世紀初頭の文献においては、半島と大陸の間の正確な境界が知られていなかったので,、河川がそれを定義しているものとみなしてよいかどうかという問題もある。研究においては、バルカンの自然境界、特にその北部の境界はしばしば言及を避けられ、André Blancは『バルカンの地理(Geography of the Balkans)』(1965年)で「厄介な問題」としている。また、ジョン・ランプ(John Lampe)とマーヴィン・ジャックマン(Marvin Jackman)は『バルカン経済史(Balkan Economic History)』(1971年)において、「現代の地理学者たちは『バルカン半島』という古い考え方を捨て去ることに合意していると思われる」と述べている。バルカン山脈の大部分が北部ブルガリアに位置していることからバルカンという名前には別の問題がある。この山脈はディナル・アルプス山脈と異なり、その長さと領域において地域を支配するような地形ではない。最終的な結論としてバルカン半島は「ギリシャ=アルバニア半島(Greek-Albanian Peninsula)」と名付けられ得るであろうバルカン山脈の南側の領域と考えることができるが、しかしギリシャは地理学的にも国際関係においてもバルカンとは別枠で取り扱われることも珍しくない。バルカン半島という用語は「東南ヨーロッパ」の意味に影響を与えているが、この用語もまた地理的要因による明確な定義はされておらず、その境界はつまるところバルカンの歴史的な境界である。 クロアチアの地理学者とアカデミズムはバルカンの地理学的、社会政治学的、歴史学的文脈の中にクロアチアを包含することについて極めて批判的であり、同時に「西バルカン諸国」という新造語はヨーロッパの政治権力によるクロアチアへの侮辱として認識されている。M. S. Altićによれば、この「西バルカン諸国」という用語には2つの異なる意味があり、「1つは地理学的意味であって、これは究極的には未だ定義されていない。もう1つは文化的意味であって、これは極めてネガティヴであり、また近年の政治的状況に強い影響を受けている」という。クロアチア大統領コリンダ・グラバル=キタロヴィッチは2018年に、「西バルカンという用語は地理的意味だけではなく、ネガティヴな意味合いを含むため使用しない。西バルカンと呼ばれる地域はヨーロッパの一部であり東南ヨーロッパと呼ぶべきことが知覚されねばならない」と声明を出した。
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