動原体-微小管結合の検証
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 06:08 UTC 版)
S期の間に、細胞は染色体に保存されているすべての遺伝情報を複製し、この過程はDNA複製と呼ばれる。この過程の終わりには、各染色体には姉妹染色分体が含まれ、この2つの染色分体は完全で同一なDNA分子である。2つの染色分体は、染色体分離が起こる後期までコヒーシン複合体によって結合したままである。染色体分離が正しく起こると、各娘細胞は染色分体の完全なセットを受け取る。そのためには、各姉妹染色分体はそれぞれ紡錘体の反対側の極で形成された微小管へと固定されている必要がある。この構成はアンフィテリック(amphitelic)または二方向性(bi-orientation)と呼ばれている。しかし、固定の過程で正しくない構成が生じることもある。 モノテリック(monotelic): 染色分体の1つだけが微小管に固定されており、2つ目のキネトコアは固定されていない。この場合、セントロメアで張力が発生しないためスピンドルチェックポイントが活性化され、後期の開始が遅れてエラーの修正が行われる。修正が行われなかった場合には、固定されていない染色分体は2つの娘細胞のどちらかにランダムに移動して染色体異数性が生じる。すなわち、一方の娘細胞には過剰な染色体が、他方では染色体の不足が生じることとなる。 シンテリック(syntelic): 双方の染色分体が同じ極からの微小管に固定される。この場合もセントロメアの張力が生み出されず、スピンドルチェックポイントが活性化される。修正されなかった場合、双方の染色分体が同じ娘細胞へ移動し、異数性が生じる。 メロテリック(merotelic): 少なくとも1つの染色分体が同時に双方の極からの微小管に固定されている。この場合はセントロメアの張力が生み出されるため、スピンドルチェックポイントは活性化されない。修正されなかった場合、双方の極に結合している染色分体は後期に中央部に取り残され、最終的には2つの断片へと破壊さて娘細胞へ分配され、異数性が生じる。 モノテリック型とシンテリック型の配置ではセントロメアの張力が生み出されないため、スピンドルチェックポイントによって検出される。対照的に、メロテリック型配置はこの制御機構では検出されない。しかし、こうしたエラーの大部分は細胞が後期に入るまでに検出されて修正される。こうした固定のエラーの修正に重要な因子は染色体パッセンジャー複合体(chromosomal passenger complex)であり、オーロラBキナーゼ(英語版)、その標的かつ活性化サブユニットであるINCENP(英語版)、他の2つのサブユニットサバイビンとBorealin/Dasra B(CDCA8(英語版))が含まれる。ドミナントネガティブ変異体、RNAi、抗体マイクロインジェクションや選択的薬剤を用いてこの複合体の機能を破壊した細胞では、染色体固定のエラーが蓄積する。多くの研究によって、オーロラBは不正確なキネトコア-微小管固定の不安定化に必要であり、アンフィテリック型の結合の形成を促進することが示されている。オーロラBの酵母ホモログ(Ipl1p)は、キネトコアの構成的タンパク質であるNdc10pやNdc80複合体、Dam1-DASH-DDD複合体のメンバーなどをリン酸化する。Ndc80複合体の構成要素のリン酸化は、キネトコア微小管固定の不安定化を引き起こす。その機能にはオーロラBの局在が重要であることが提唱されている。オーロラBはキネトコアの内部領域(セントロメアヘテロクロマチン)に局在しているため、セントロメアの張力が確立されて姉妹キネトコアが分離された際にはオーロラBはその基質に到達することができず、その結果キネトコア微小管は安定化される。オーロラBはいくつかのがんのタイプで高頻度で過剰発現しており、現在抗がん剤の開発の標的となっている。
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