偽変形体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/18 02:28 UTC 版)
飢餓状態などになると、アメーバ細胞は集合して子実体形成を始める。ただしアンモニアなどの存在によって、子実体形成過程が停止、逆転することもある (培養時には木炭を入れることでアンモニアを吸収させ、その子実体形成阻害を防ぐことがある)。アメーバ細胞は集合物質 (chemoattractant、集合フェロモン) を分泌し、その走化性によって集合する (aggregation) (上図2c)。この集合物質はアクラシン (acrasin) と総称されるが、タマホコリカビ類ではcAMP、葉酸、プテリン、グロリン (ジペプチドの1種) など系統群によって異なる物質である。また、物質が同定されていない系統群も少なくない。アクラシンを受け取ったアメーバ細胞は、自身でもアクラシンを合成・分泌する。このようにして情報は次々と伝搬していき、集合体が形成される。凝集時には、個々のアメーバは細長くなる (上図2b)。独立した細胞が集合する場合もあるし、キイロタマホコリカビのように細胞が放射状に連なってストリーム (stream) とよばれる構造を形成する場合もある (上図2c, d)。集合した細胞はマウンド (mound) とよばれる半球形の構造となり、その中で、子実体の柄や胞子になる細胞の分化が始まる (予定柄細胞 prestalk cell、予定胞子細胞 prespore cell)。また形成された細胞の集合体がいくつかの塊に分かれるものもいる (そこから形成される子実体は群生することになる)。このような細胞の集合体は、変形菌の変形体とは異なり個々の細胞の独立性が保たれているため、偽変形体 (ぎへんけいたい、pseudoplasmodium, pl. pseudoplasmodia) ともよばれる。偽変形体は多数 (ときに10万個) の細胞からなる"多細胞体"であり (大きさは数mm以下)、セルロースや糖タンパク質からなる粘液鞘 (slime sheath) で覆われ、食作用は示さない。細胞が集合してそのまま子実体を形成する場合もあるが、走光性や走温性を伴い移動 (migration)するものもいる (キイロタマホコリカビなど)。このような運動能をもつ偽変形体は、移動体またはナメクジ体 (slug, grex) ともよばれる (下図3a, b)。移動体がすでに柄を形成していることもある。移動体の移動速度は時速 2 mm に達することもある。移動体の通った跡には粘液質が残る (上図2e)。 3a. キイロタマホコリカビの移動体 (ナメクジ体) 3b. キイロタマホコリカビの移動体 (ナメクジ体) 3c. キイロタマホコリカビの子実体形成 3d. キイロタマホコリカビの子実体 3e. キイロタマホコリカビの子実体
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