余接束とは? わかりやすく解説

余接束

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/10 15:38 UTC 版)

数学、特に微分幾何学において、滑らかな多様体余接束(よせつそく、英語: cotangent bundle)は、多様体のすべての点におけるすべての余接空間からなるベクトル束である。それはまた接束双対束として記述することもできる。

余接層

余接束の滑らかな断面は微分 1-形式である。

余接層の定義

M滑らかな多様体とし M × MM の自身とのカルテジアン積とする。対角写像 ΔM の点 pM × M の点 (p, p) に送る。Δ の像は対角線 (diagonal) と呼ばれる。 を対角線上消える M × M 上の滑らかな関数のとする。このとき商層 はより高次の項を法として対角線上消える関数の同値類からなる。余接層はこの層の M への引き戻し英語版である。

テイラーの定理によって、これは M の滑らかな関数の芽の層に関して加群の局所自由層である。したがってそれは M 上のベクトル束余接束 (cotangent bundle) を定義する。

多様体における反変性

多様体の滑らかな射 M 上の引き戻し層英語版 を誘導する。ベクトル束の誘導される写像英語版 が存在する。

相空間としての余接束

余接束 X=T*Mベクトル束であるから、それはそれ自身多様体と見ることができる。T*M の定義が底空間 M微分トポロジー (differential topology) に関係づける方法のために、 X は自然な 1-形式 θ (canonical one-form あるいは tautological one-form あるいは symplectic potential)を有する。θ外微分は斜行 2-形式 (symplectic 2-form) であり、そこから非退化体積形式 (volume form) が X に対して構成できる。例えば、結果として X は常に向き付け可能な多様体である(つまり X の接束は向き付け可能なベクトル束である)。座標の特別な集合を余接束上定義できる。これらは自然座標 (canonical coordinates) と呼ばれる。余接束はシンプレクティック多様体 (symplectic manifold) と考えることができるから、余接束上の任意の実関数はハミルトニアンであると解釈することができる。したがって余接束はハミルトン力学が演じる相空間であると理解できる。

自然 1-形式

余接束は自然 1-形式 (tautological one-form) θPoincaré 1-形式あるいは Liouville 1-形式とも呼ばれる)をもっている。(この形式は、混乱を招くこともあるが、canonical one-form とも呼ばれる。)これが意味するのは、T*M をそれ自身多様体と見たときに、T*M 上のベクトル束 T*(T*M) の断面が存在するということである。

この断面はいくつかの方法で構成することができる。最も初等的な手法は局所座標 (local coordinates) を使うことである。xi を基礎多様体 (base manifold) M 上の局所座標系とする。これらの基礎座標系の言葉で言うと、ファイバー座標系 pi が存在する: T*M の特定の点における 1-形式は(アインシュタインの縮約記法を使って)pidxi の形をしている。なので多様体 T*M はそれ自身局所座標 (xi, pi) をもっている、ただし x は基礎上の座標で p はファイバーにおける座標である。自然 1-形式はこれらの座標系において

によって与えられる。本質的には、T*M の各固定された点での自然 1-形式の値は引き戻し英語版として与えられる。具体的には、π: T*MM を束の射影 (projection) としよう。Tx*M の点を取ることは M の点 xx における 1-形式 ω を選ぶことと同じであり、自然 1-形式 θ は点 (x, ω) に値

を割り当てる。つまり、余接束の接束におけるベクトル v に対して、自然 1-形式 θ(x, ω) における v への適用は vdπ: TT*MTM を使って x における接束に射影し ω をこの射影に適用することで計算される。自然 1-形式は基礎 M 上の 1-形式の引き戻しではないことに注意する。

斜交形式

余接束は、自然 1-形式英語版symplectic potential、の外微分として、それ上の自然な斜交 2-形式 (symplectic 2-form) をもつ。この形式が実際に斜交であることの証明は、斜交であることは局所的な性質であることを注意することによってできる。余接束は局所的に自明であるから、この定義は 上でチェックされるだけでよい。しかしそこで定義される 1-形式は の和であり、微分は自然な斜交形式、 の和である。

相空間

多様体 M力学系における可能な位置の集合を表していれば、余接束 T*M を可能な位置運動量の集合と考えることができる。例えば、これは振り子の相空間を記述する方法である。振り子の状態は、その位置(角度)と、その運動量(あるいは同じことだが、その速度、なぜならばその質量は変わらないから)によって決定される。全状態空間はシリンダーのように見える。シリンダーは円の余接束である。上のシンプレクティックな構成は、適切なエネルギー関数と一緒に、系の物理の完全な決定を与える。より多くの情報はハミルトン力学を、動きのハミルトニアン方程式の明示的な構成は en:geodesic flow の記事を参照。

関連項目

参考文献

  • Abraham, Ralph; Marsden, Jerrold E. (1978). Foundations of Mechanics. London: Benjamin-Cummings. ISBN 0-8053-0102-X 
  • Jost, Jürgen (2002). Riemannian Geometry and Geometric Analysis. Berlin: Springer-Verlag. ISBN 3-540-63654-4 
  • Singer, Stephanie Frank (2001). Symmetry in Mechanics: A Gentle Modern Introduction. Boston: Birkhauser 

余接束

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 03:09 UTC 版)

可微分多様体」の記事における「余接束」の解説

詳細は「余接束」を参照 ベクトル空間の双対空間ベクトル空間上の実数線型写像集合である。ある点での余接空間はその点での接空間双対であり、余接束はすべての余接空間集まりである。 接束と同様余接束は再び可微分多様体である。ハミルトニアンは余接束上のスカラーである。余接束の全空間シンプレクティック多様体構造を持つ。余接ベクトルを「余ベクトル」(covector) と呼ぶことがある。余接束を M から R への関数の 1-jet の束として定義するともできる余接空間の元を無限小変位考えることができる。f が微分可能な関数であれば各点 p において余接ベクトル dfp定義することができる。これは接ベクトル XpXp に伴う f の微分に送る。しかしながらすべての余ベクトル場がこのように表現できるわけではないそのようにできるものを完全微分形と呼ぶ。与えられ局所座標 xk集合対し微分 dx kp は p における余接空間基底を成す。

※この「余接束」の解説は、「可微分多様体」の解説の一部です。
「余接束」を含む「可微分多様体」の記事については、「可微分多様体」の概要を参照ください。

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