完全微分とは? わかりやすく解説

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完全微分

(完全微分形 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/27 05:19 UTC 版)

完全微分(かんぜんびぶん、: exact differential)とは、関数の全微分として書ける1次の微分形式の事で、多様体論などの数学の分野では(1次の)完全形式と呼ばれる。本項では主に物理学に応用する事を想定して直観的に完全微分を説明する。より厳密な取り扱いは微分形式外微分等の項目を参照されたい。

概要

定義

直観的な定義 (微分形式) ― Mn次元ユークリッド空間

微分形式は原点で(有限かつ微分可能な値としては)定義できない関係で、のポテンシャルを全域に拡張しようとすると、図のような多価関数になってしまう。
実際、を極座標表示に変換すると、と書ける事から、のポテンシャルは点を対応させる関数となるので、 ()分の多価性がある。

一般には上記の定義で局所的に存在を保証されたAMの全域に拡張しようとすると、A多価関数になってしまう。

例えばが原点以外の2次元平面で定義されているとき[注 11]には原点の周りを「右回り」の曲線に沿ってAを拡張したのか、「左回り」の曲線に沿ってAを拡張したかによってAの値は変わってしまう場合がある(右図)。同様にMトーラスであればトーラスの周りを「右回り」にAを拡張したのか、「左回り」に拡張したかによってAの値は変わってしまう場合がある。

M単連結であれば(あるいはより一般に1次のコホモロジー群0であれば)、このような多価性の問題は生じず、AMの全域に拡張できる。詳細はド・ラームコホモロジーの項目を参照されたい。

偏微分関係式

三次元空間上の定義された滑らかな実数値関数により定義される曲面

を考える。上述の曲面上の点に対し、であれば、陰関数定理よりについて解いた

の近傍で定義できる。同様にであれば、

の近傍で定義可能である。

定理 ― 記号を上述のように定義する。このとき、における偏微分は以下を満たす:

  • 相反関係式[10]:670[11]
  • 輪環関係式[10]:670[11]

輪環関係式は三重積の微分法則英語版とも呼ばれる。

相反関係式は変数をサイクリックに入れ替えた

も成立する。

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ たとえば一般相対性理論ではMが多様体でxがその局所座標である場合を考える必要がある。
  2. ^ なお本項では詳しく扱わないが、2次の微分形式とは2つの微小量のウェッジ積を用いて
    とかけるものの事である。3次以上の微分形式も同様に定義する。詳細は微分形式の項目を参照されたい。
  3. ^ M弧状連結な場合。一般の場合は連結成分毎に定数Cが異なってもよい。
  4. ^ この定理は数学的には外微分の概念が局所座標の取り方によらず多様体上well-definedである事を意味している。同様に次の系は完全微分の概念が局所座標の取り方によらず多様体上well-definedである事を示している。
  5. ^ 暗にM弧状連結な事を仮定している。弧状連結でない場合は、弧状連結成分毎に同一の議論をすれば良い。
  6. ^ ここでは状態を記述する物理量としていわゆるUVN系を選んだ。他にエントロピー、体積、物質量で記述するSVN系もある。また相転移をうまく扱えない事を許容して圧力温度、物質量で記述する場合もある。
  7. ^ 内部エネルギー、体積、物質量はいずれも負の値を取れないので、厳密にはM全体ではなくその部分集合。
  8. ^ 厳密には前述のように、線積分の終点のみならず基点にも依存し、基点の選び方により定数項分のずれが生じる。 温度であれば基点を絶対零度に選ぶという規約を授けることでこの定数項分のずれを消す。
  9. ^ 単に「関数」といった場合は一価の関数を意味し、多価関数は含めない。
  10. ^ すなわち、ω閉形式である。
  11. ^ あるいは全域で定義されているものの、原点でになったり、原点で微分不能になったりしてしまうとき

出典

  1. ^ a b c 清水明『熱力学の基礎 第2版 I: 熱力学の基本構造』東京大学出版会、2021年3月31日、125頁。ISBN 978-4130626224 
  2. ^ a b 新井朝雄『熱力学の数理』日本評論社、2020年、100頁。 ISBN 978-4535789180 
  3. ^ Herbert B. Callen『Thermodynamics; Intro Thermostatics』(2版)John Wiley & Sons、1985年8月29日、20頁。 ISBN 978-0471862567 
  4. ^ キャレン, H.B.『熱力学および統計物理入門 上』(第2版)吉岡書店〈物理学叢書 81〉、1998年11月1日、25頁。 ISBN 978-4842702728 
  5. ^ a b c 金川哲也. “工学システム学類 “熱力学” 講義資料”. p. 41, 注241. 2025年2月20日閲覧。
  6. ^ 深谷賢治『電磁場とベクトル解析』 17巻、岩波書店〈岩波講座「現代数学への入門」〉、2000年1月20日、18頁。 ISBN 978-4000109598 
  7. ^ *田崎晴明『熱力学―現代的な視点から』培風館〈新物理学シリーズ〉、2000年、32頁。 ISBN 978-4-563-02432-1 
  8. ^ H.B. キャレン『熱力学および統計物理入門 上 第2版』 81巻、吉岡書店〈物理学叢書〉、1998年11月1日、27頁。 ISBN 978-4842702728 
  9. ^ 新井朝雄『熱力学の数理』日本評論社、2020年、103-105頁。 ISBN 978-4535789180 
  10. ^ a b c d Çengel, Yunus A.; Boles, Michael A. (1998) [1989]. “Thermodynamics Property Relations”. Thermodynamics - An Engineering Approach. McGraw-Hill Series in Mechanical Engineering (3rd ed.). Boston, MA.: McGraw-Hill. ISBN 0-07-011927-9 
  11. ^ a b Helrich, Carl S.『Modern Thermodynamics with Statistical Mechanics』Springer、2010年10月19日、46-47頁。 ISBN 978-3642099090 

参考文献

  • Perrot, P. (1998). A to Z of Thermodynamics. New York: Oxford University Press.
  • Zill, D. (1993). A First Course in Differential Equations, 5th Ed. Boston: PWS-Kent Publishing Company.

外部リンク




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