ファラデーからベルチェまで
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 15:56 UTC 版)
「ステンレス鋼の歴史」の記事における「ファラデーからベルチェまで」の解説
電磁気学の始祖として知られるイギリスの科学者マイケル・ファラデーは、若かったころには合金鋼の研究を行っており、合金鋼開発黎明期の研究者の一人でもあった。刃物師ジェームス・ストダートからのウーツ鋼の調査依頼をきっかけにして、ファラデーは優れた性質を持つ合金鋼を作る実験を繰り返した。ファラデーは貴金属を含有させることで鋼の性質を改善させるアイデアを思い付き、ニッケル、銀、白金、ロジウム等との鉄合金を作成して1820年に研究成果を発表した。その後、ファラデーとストダートは精力的に試験を繰り返した。彼らの研究成果は先駆的で、今日では合金鋼研究の始まりとも位置付けられる。1820年の研究論文 "Experiments on the alloys of steel, made with a view to its improvement"(参考訳:改良の観点から実施された鋼の合金の研究)は「世界初の合金鋼の研究論文」とも評される。この論文では、ニッケルが鋼の耐酸化性を高めることなどを見出している。 ファラデーとストダートの研究成果は、フランスの鉱山技師ピエール・ベルチェの関心を引き付けることとなった。1820年のファラデーとストダートの論文はフランス語にも翻訳され、ベルチェに研究のヒントを与えた。ベルチェは、鋼に金属クロムを添加した合金を作ることを考え付いた。まずベルチェは、この研究の過程でフェロクロムを初めて生み出した。フェロクロムとは鉄とクロムの合金のことで、現在のステンレス鋼製造における主要原料である。ベルチェはクロム鉱石と鉄鉱石の複合酸化物を木炭中で加熱して還元させて、クロムと鉄の合金、すなわちフェロクロムを作製した。ベルチェが作製したフェロクロムは、クロムを 17 % から 60 % 含むもので、同時に炭素も多量に含んでおり、淡い灰色の結晶だった。作り出されたフェロクロムには、強い酸への耐性があることがわかった。次にベルチェは、作り出したフェロクロムをもとにクロム 1 % と 1.5 % 含有のクロム鋼を作製した。作製したクロム鋼は切れ味に優れることをベルチェは発見し、腐食させて擦るとダマスク模様が現れること、カトラリーの材料に向いていることなどを報告した。 ベルチェは、1821年にフェロクロムとクロム鋼の研究成果を発表した。この論文はファラデーの目にも留まり、ファラデーもクロム鋼を作製した。作製したのは 1 % と 3 % のクロム鋼で、充分な試験はできなかったが、ファラデーも見事なダマスク模様が現れることを確認した。このクロム鋼の試作結果は1822年の論文に加えられ、発表された。しかし、ストダートが1823年に急逝すると、共同研究者を失ったファラデーも1824年を最後に合金鋼の研究から去ることとなる。
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