ヒルベルト空間上の作用素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/23 06:00 UTC 版)
「作用素ノルム」の記事における「ヒルベルト空間上の作用素」の解説
空間 H を実あるいは複素ヒルベルト空間であるとする。もし作用素 A : H → H が有界線形作用素であるなら ‖ A ‖ op = ‖ A ∗ ‖ op {\displaystyle \|A\|_{\text{op}}=\|A^{*}\|_{\text{op}}} ‖ A ∗ A ‖ op = ‖ A ‖ op 2 {\displaystyle \|A^{*}A\|_{\text{op}}=\|A\|_{\text{op}}^{2}} が成立する。ここで A∗ は作用素 A の共役作用素を表す(それは標準内積を持つユークリッドヒルベルト空間における、行列 A の共役転置行列に対応する)。 一般に、作用素 A のスペクトル半径 ρ ( A ) {\displaystyle \rho (A)} は、作用素ノルム ǁAǁop により上から抑えられる。すなわち ρ ( A ) ≤ ‖ A ‖ op {\displaystyle \rho (A)\leq \|A\|_{\text{op}}} が成り立つ。ここで常に等号が成立するわけではないことを見るには、有限次元の場合で行列のジョルダン標準形について考えればよい。優対角線(主対角線の一つ上)に非零な成分を持つものが存在するから、等号は成立しない可能性がある。また、等号が成立しない例からなるクラスとして準冪零作用素が挙げられる。ゼロでない準冪零作用素 A のスペクトルは {0} であるため、スペクトル半径は ρ(A) = 0 となるが、このとき作用素ノルムに対しては ǁAǁop > 0 が成立する。 しかし、行列 A が正規のとき、そのジョルダン標準形は(ユニタリ同値の違いを除いて)対角行列である(スペクトル定理)。このとき ρ ( A ) = ‖ A ‖ op {\displaystyle \rho (A)=\|A\|_{\text{op}}} が成立することを見るのは容易。 そのようなスペクトル定理は、より一般の正規作用素の場合へと拡張され、上の等式は任意の有界正規作用素 A に対しても同様に成立する。以上の議論および関係式は、有界作用素 A が与えられたときにその作用素ノルムを計算する際に、しばしば利用される。すなわち、エルミート作用素 H = A∗A を定義し、そのスペクトル半径を計算し、その平方根を計算することで、そのような作用素ノルムを得る、という方法が利用可能となる場合がある。 空間 H 上の有界作用素全体の成す空間に作用素ノルムの誘導する位相を入れたものは、可分でない。例えば、ヒルベルト空間 L2[0,1] を考え、0 < t ≤ 1 に対して Ωt を閉区間 [0, t の特性関数とし、Pt を Ωt により与えられる乗算作用素、すなわち P t ( f ) = f ⋅ Ω t {\displaystyle P_{t}(f)=f\cdot \Omega _{t}} ‖ P t − P s ‖ op = 1 ( t ≠ s ) {\displaystyle \|P_{t}-P_{s}\|_{\text{op}}=1\quad (t\neq s)} が成立する。しかし集合 {Pt} は非可算であるため、空間 L2[0,1] 上の有界作用素からなる空間は作用素ノルムに対して可分でないことが分かる。この結果は同様に数列空間 l ∞ が可分でないという事実にも対応される。 ヒルベルト空間上の有界作用素全体の成す集合は、作用素ノルムおよび共役演算を伴い、C*-代数をなす。
※この「ヒルベルト空間上の作用素」の解説は、「作用素ノルム」の解説の一部です。
「ヒルベルト空間上の作用素」を含む「作用素ノルム」の記事については、「作用素ノルム」の概要を参照ください。
- ヒルベルト空間上の作用素のページへのリンク