ゴム材料の疲労特性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:18 UTC 版)
ゴム材料では疲労による内部構造の変化は、充填剤と高分子との界面における不均一構造の変化や高分子同士の絡み合いの減少に由来する。疲労特性の評価の中心は損失正接の温度依存性となる。この点で、粘弾性の変化が中心であるプラスチック材料の疲労特性評価と異なる。 カーボンブラック補強加硫ゴムの内部構造における、高分子で構成された部分は次の3つの相に分かれる。 A相 カーボンブラック粒子から離れており、高分子は比較的自由に動くことができる。相全体は常温で液体状態であり、ゴムに柔軟性を与える。 B層 架橋した高分子の集まり。 C層 カーボンブラックとの界面およびその周辺。高分子の運動はカーボンブラックとの相互作用により束縛されている。相全体は常温で順ガラス状態であり、A相よりも硬い。ゴムはC層の硬い構造により補強され、弾性率などの力学的性質は大きな影響を受けている。 カーボンブラック補強加硫ゴムが外力による変形を繰り返すとA相とC相は構造変化する。A相は変形を受けると高分子が緊張し、その張力により高分子の絡み合いや弱い分子結合が部分的に失われる。すると、高分子の運動が活発になり、A相のエントロピーは増大する。一方、C相において繰り返しの変形は相を安定化させ、分子間相互作用を増大させる。そして、C相はより稠密な構造となる。 構造変化により、充填剤入りゴムは疲労を進行させ、その動的粘弾性の特性を軟化へと変化させる。疲労が進行するほど同じひずみでの動的弾性率(貯蔵弾性率と損失弾性率)の値は小さい。また、一般にポリマーの動的貯蔵弾性率はひずみの増加とともに減少するが、疲労回数が大きいほど充填剤入りゴムの動的貯蔵弾性率の下げ幅は低下する。これは、充填剤入りゴムの疲労が弾性率のひずみ依存性を低下させ、ゴムを軟化させていることを表す。また、A相で網目を形成する弱い物理結合の数は、疲労回数の増加により減少する。 ガラス転移領域での損失正接の温度依存性はゴム分子中の緩和成分の分布を反映する。また、ガラス転移での損失正接の極大値はゴム分子中の無定形領域の存在分率に比例する。したがって、疲労の進行によるA相の弱い物理結合の減少は緩和成分の分布を低下させる。同時に、損失正接のピーク幅(半値幅)は狭くなり、高さ(極大値)は増加する。また、損失正接が極大値を示す温度は低くなる。以上のように、充填剤入りゴムの疲労のパラメータには動的貯蔵粘弾性、損失正接の極大値と半値幅、極大値温度がある。
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