ゲシュトップフトの奏法や音高に関する混乱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/16 23:20 UTC 版)
「ゲシュトップフト」の記事における「ゲシュトップフトの奏法や音高に関する混乱」の解説
前述のように、「手を深く差し入れて音色を変える特殊奏法」にはゲシュトップフトとハーフ・ストップの2種類がある。前者は金属的な音色を伴って音程が変化し、後者は暗いくぐもった音色を伴って音程が変化する。両者の演奏効果は対照的であるが、ハンドホルンにおいては両者が併用されたという歴史もあり、しばしば混同されている。 音程の変化に関しての混乱も存在する。ハーフの場合は「開口端補正の変化」と「手による管長の延長(完全に塞がない事によって、手が管の役割を果たし、結果、物理的には管が延長された状態が形成される)」という比較的単純・明解な物理現象の結果であるせいか、半音下がるという認識は一般的である。これに対してゲシュトップフトの場合は、「閉開管から閉閉管への変化(これによって振幅の特性が変わる{振動モードの変化}が起こる)」と「手での開口部閉鎖による管長の短縮」という若干複雑な2つの現象の相互作用による結果である事と、音程が下がる方向で考えると,その変化幅がハーフの時と比較して大きくなってしまうという事情から、音程が下がるのか上がるのかの認識の仕方は、人によって大きな差がある。 物理現象の側面で捉えれば、ある基準とする音の1つ上の倍音が基準の半音上まで下がってくる(基準がFなら、第五倍音のAがこの手技をすることで音程が下がりFisになる)と考えるのが正しい。しかし音楽教育の側面でとらえると、F管の場合は運指の考え方からして、Fが半音上がったと捉えた方が、この手技を使いながら譜面通りの音程を出す時に分かりやすく覚えやすい(半音下の運指と考えれば良い)ので、簡便上半音上がると捉える事も多分にあるという事情に繋がっている。 またこの手技については、演奏家によって管長が短くなっている事だけを捉えて(本来は閉閉管になる事で音程が下がり、その下げ幅が管長短縮による音程上昇より大きいので、総合的に考えて音程が下がっていると考えるのが、物理学上は自然な事なのだが)半音上がると捉えてしまっている場合がある。逆に物理学者は運指等々の演奏家事情(演奏家の場合、半音上がると考えると譜面通りの音程を出す場合に半音下の運指をすれば良く運指が楽になるので、音楽教育上は半音上がると考えるのが簡便的であり自然な事)など関係無いので、純粋に倍音が下がっていると捉えるため、それら両者の認識の違いが混乱に繋がっている。 バリー・タックウェル著『ホルンを語る』には、開口部を完全にふさいだときに音が上がるのか下がるのかという点で、演奏者・物理学者のあいだで混乱があると記されている。多くのホルン奏者は、経験的に、あるいは指導を受けてゲシュトップフトの(すなわち開口部をぴったりと塞いだ状態の)音を、簡便上、開放状態の音よりも半音ほど高いものとして扱う事に慣れている。一方、複数の音楽辞典にゲシュトップフトの説明として、「音色が暗くなると同時にピッチが半音下がる」(音楽の友社『新編 音楽中辞典』「ゲシュトップト」誤記ではなく、これが項目名になっている、の項より)などと説明されているが、これは音色変化が「暗くなる」と書かれている事から、ハーフストップをゲシュトップとして記載したものと推測される。
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