クモハゼとは? わかりやすく解説

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雲沙魚

読み方:クモハゼ(kumohaze)

ハゼ科海水魚

学名 Bathygobius fuscus


クモハゼ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/04 07:58 UTC 版)

クモハゼ

保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : ハゼ亜目 Gobioidei
: ハゼ科 Gobiidae
亜科 : ハゼ亜科 Gobiinae
: クモハゼ属 Bathygobius
: クモハゼ B. fuscus
学名
Bathygobius fuscus (Rüppell1830)
和名
クモハゼ
英名
dusky frillgoby

クモハゼ (雲鯊、Bathygobius fuscus) は、太平洋インド洋潮間帯に生息するクモハゼ属英語版ハゼの一。第1背びれを縁取る黄色い帯が特徴[1]和名は体側に状の模様を持つことに因む[2]

形態

最大で全長10センチメートル[3][2]から12センチメートル[4]で、標準体長の3割ほどが頭部によって占められる[5]。頭部は縦偏、体幹は側編し[5]、典型的なハゼの体形を持つ[2]。体の前方(第1背びれより前)と腹部は円鱗、それ以外は櫛鱗によって覆われる[5]

第1背びれの上部は太い黄色の帯に縁取られ、その下には黒褐色の帯がある[3]。体側面の中央から下部には黒色斑が並ぶ[3]。体色は周辺の環境に応じて変化する[6]

に比べて大型で[6]、体色が濃く[2]、臀びれが高い[6]。大きく複雑な精嚢を持つ[6]

分布

インド洋および太平洋に広く分布するが、ハワイにはいない[4]日本では千葉県沿岸・若狭湾を北限として与那国島まで分布し、小笠原諸島八丈島にも生息する[3]

生態

河口域や岩礁性海岸、サンゴ礁に生息し、2メートルより浅い潮間帯の砂泥底や潮溜まりに見られる[3]。最大寿命は満4年以上と推定されている[6]エビカニカイアシ類端脚類ヒザラガイ類巻貝類を食べる[6]。18ミリメートル以下の仔稚魚はカイアシ類を主な餌としているが、成魚がカイアシ類のなかでも匍匐性のものを食べるのに対して、仔稚魚は浮遊性のものを食べている[6]

繁殖

雌雄異体[7]九州沿岸での調査によれば、繁殖期は6月から9月[6][8]産卵は半月周性の周期で行われる[9]。 産卵場所は砂泥上の石の下面[6]、岩に開いた穴や割れ目、死んだマガキの殻[9]。雄は巣穴に留まり、近くに来た雌に求愛する。雌が求愛を受けて巣穴に入ると、さらに求愛行動が行われたのちに、産卵が起こる[9]。産卵後、雄は孵化するまでの間、巣穴の入り口に留まって卵を保護し、同種や他種の動物を追い払うが、卵保護中に他の雌と再び繁殖することもある[9]

その一方で、自らは産卵場所を占有しないスニーカー雄は、他の雄の巣穴の近くに隠れ、雌が産卵を始めると巣穴に入り込んで卵を受精させる[9]。スニーカーは産卵場所を占有する雄に比べて小さい傾向にあるが、精巣はより大きく発達する[10]。産卵場所を持つ雄はスニーカーを追い払うが、スニーカーは他のスニーカーが追い払われている隙や、雄が巣穴の中に入った直後などに、侵入に成功することが多い[10]。大きいスニーカーほど巣穴に近い場所で機会を待つので、より侵入に成功しやすい。一方で侵入したスニーカーは巣穴の持ち主によって追い出されることになるが、小さいスニーカーほど長い時間追い出されずに留まる傾向にある[10]。繁殖期の後半に大型の雄が少なくなると、それまでスニーカーだった小型の雄も空いた巣穴を占有することが多くなる[9]

卵は太い棍棒状の沈性付着卵で、長径は約1.8ミリメートル、短径は約0.35ミリメートル[6]。水温摂氏23度から27度では約65時間で孵化し、孵化直後の仔魚は全長約2.3ミリメートル[6]。仔魚は、後部の背側と腹側の両方に黒色胞が並ぶのが特徴[6]

発音

クモハゼは咽頭歯をこすり合わせて出す唸り声のような音(グラント音)と、口腔内に水を流入させて出すポンというパルス音の2種類の音を出す[11]。グラント音は求愛に使われ、繁殖期にしか聞かれない[11]。パルス音も繁殖期に多く発せられるが、こちらは個体間での威嚇や攻撃の際に用いられる[11]

核型

染色体数は24対48本(2n=48)で、いずれの染色体も単腕(動原体が端に付着する)である[12]

分類

クモハゼはハゼ科クモハゼ属に分類されている。クモハゼ属にはほかにスジクモハゼ、ヤハズハゼ、クロヤハズハゼ、シジミハゼ、クサビハゼなどが含まれるが、クモハゼはなかでもクロヤハズハゼと多くの特徴を共有する[5]。この2種の明確な識別点は色彩で、第1背びれの模様が異なることと、クロヤハズハゼの体側の黒色斑は下部に伸びないことで区別できる[3][5]。またクモハゼのほうが頭部がやや短く、第1背びれがより前傾する[5]

分子系統学によればクモハゼ属はヒトミハゼ属に近縁であると推定されている[13]。形態の比較から、ほかにウロハゼ属英語版、サザレハゼ属との近縁性が指摘されている[13]

参考文献

  1. ^ 岡村収・尼岡邦夫(監修)『日本の海水魚』山と溪谷社、1997年、616頁。ISBN 4635090272 
  2. ^ a b c d 林公義、白鳥岳朋(写真)『ハゼガイドブック』阪急コミュニケーションズ、2003年、117頁。ISBN 4484034018 
  3. ^ a b c d e f 鈴木寿之・渋川浩一(解説)、矢野維幾(写真)、瀬能宏(監修)『決定版 日本のハゼ』平凡社、2004年、282頁。ISBN 4582542360 
  4. ^ a b Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2011). "Bathygobius fuscus" in FishBase. November 2011 version. 2012年7月16日閲覧。
  5. ^ a b c d e f 明仁親王、目黒勝介「日本で採集されたクモハゼ属Bathygobius6種について」『魚類学雑誌』第27巻第3号、1980年、215-236頁、ISSN 00215090NAID 40000758754JOI:JST.Journalarchive/jji1950/27.215 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l 道津喜衛「クモハゼの生活史」『九州大學農學部學藝雜誌』第15巻第1号、1955年、77-86頁、NAID 110001553751 
  7. ^ Cole, Kathleen S. (1990). “Patterns of gonad structure in hermaphroditic gobies (Teleostei Gobiidae)”. Environmental Biology of Fishes英語版 28 (1-4): 125-142. doi:10.1007/BF00751032. 
  8. ^ Taru, Masanori; Kanda, Takeshi; Sunobe, Tomoki (2005). “Competition for spawning sites between two gobiid fishes, Bathygobius fuscus and Eviota abax, derived by alteration of mating tactics of the former”. Ichthyological Research 52 (2): 198-201. doi:10.1007/s10228-005-0273-7. ISSN 13418998. NAID 10015667744. 
  9. ^ a b c d e f Taru, Masanori; Kanda, takeshi; Sunobe, Tomoki (2002). “Alternative mating tactics of the gobiid fish Bathygobius fuscus”. Journal of Ethology 20 (1): 9-12. doi:10.1007/s10164-002-0047-x. ISSN 02890771. 
  10. ^ a b c Takegaki, Takeshi; Kaneko, Takashi; Matsumoto, Yukio (2012). “Large- and small-size advantages in sneaking behaviour in the dusky frillgoby Bathygobius fuscus”. Naturwissenschaften英語版 99 (4): 285-289. doi:10.1007/s00114-012-0899-z. ISSN 00281042. 
  11. ^ a b c 張国勝、竹村暘「クモハゼBathygobius fuscusの音響生態学的研究」『長崎大学水産学部研究報告』第66号、1989年、21-30頁、NAID 40002770872 
  12. ^ Arai, Ryoichi; Kobayashi, Hiromu (1973). “A chromosome study on thirteen species of Japanese gobiid fishes (日本産ハゼ科魚類13種の核型について)” (PDF). Japanese Journal of Ichthyology(魚類学雑誌) 20 (1): 1-6. ISSN 00215090. NAID 40017671996. JOI:JST.Journalarchive/jji1950/20.1. http://www.wdc-jp.biz/pdf_store/isj/publication/pdf/20/201/20101.pdf. 
  13. ^ a b Thacker, Christine E.; Roje, Dawn M. (2011). “Phylogeny of Gobiidae and identification of gobiid lineages” (PDF). Systematics and Biodiversity 9 (4): 329-347. doi:10.1080/14772000.2011.629011. ISSN 14772000. http://www.nhm.org/site/sites/default/files/ichthyology/pdf/Thacker%26Roje2011.pdf. 


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