アクラシス科とは? わかりやすく解説

アクラシス科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/27 06:09 UTC 版)

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アクラシス科
Acrasis rosea
分類
ドメ
イン
: 真核生物 Eukaryota
: エクスカバータ Excavata
: ディスコーバ門 Discoba
: ヘテロロボサ綱 Heterolobosea
階級なし : Tetramitia
: アクラシス科
学名
Acrasidae
Poche, 1913[1]
シノニム

エツキナメクジカビ科[注釈 1] Guttulinaceae Zopf in A.Schenk, 1888[3]

アクラシス科(Acrasidae, Acrasiaceae)はヘテロロボサ綱に属するアメーバ様生物の1群。生活環の一時期に累積子実体を形成することから細胞性粘菌として認識されてきた生物群の1つであるが、実験生物として良く知られたタマホコリカビ類とは異なる系統に属している。2属10種程度と小さい群である。

特徴

胞子から発芽したアメーバは葉状仮足によって運動するナメクジ型で、細菌などを捕食して増殖する。アメーバが集合して累積子実体を形成し、その際に柄の細胞と胞子の細胞が形態的に分化するが、タマホコリカビ類とは異なりどちらも生存していて再びアメーバとなる能力がある[4][5]

分類

古典的には植物分類学の立場から変形菌門アクラシス綱アクラシス目などのように位置付け[6]、また動物分類学では原生動物門肉質鞭毛虫亜門菌虫綱アクラシス亜綱アクラシス目などの所属とした[4]。現在は分子系統解析に基づき、エクスカバータ・ディスコーバ・ヘテロロボサ・テトラミチアに位置づける[7]

  • ジュズダマカビ属[注釈 1] Acrasis van Tieghem, 1880[8]
    子実体柄の先端で胞子塊が数珠状に繋がり、ときどき分枝する。タイプ種であるAc. granulataは記載されて以降ほとんど発見されていない。そのほかに子実体の形態と分子系統で区別可能なAc. rosea, Ac. kona, Ac. takarsan, Ac. helenhemmesaeの4種がある[9]
  • ホソエナメクジカビ属[注釈 1] Pocheina Loeblich & Tappan, 1961[10]
    子実体柄の先端に球形の胞子塊をつける。当初はGuttulina Cienk. in Levakovsky, 1874と命名されたが、有孔虫で先に使われていることから改名された[注釈 2]。タイプ種であるP. roseaAc. roseaの種内形態変異である可能性が指摘されている[9]。ほかに2種知られているが詳細は不明[4]

また分子系統解析によってAllovahlkampfia Walochnik & Mulec, 2009[12]が含められるようになった。これは鞭毛を持たずシストを作るアメーバで、なかでもAl. minutaはシストを作る際に集合する性質がある[13]。またヒトの眼に角膜炎を起こすことが知られているAl. spelaeaでは[14]、単純な子実体の形成が報告されたことがある[9]

歴史

1873年にチェンコフスキーがロシアで見出した生物にGuttulina roseaと命名したのが最初である[11]。つづいて1880年にヴァン・ティガンAcrasis granulataを記載した[8]。これにより細胞性粘菌という生物群が認識されるようになり、それにアクラシス目やアクラシス綱などといった分類群が充てられるようになった[9]。アクラシス科が設立されたのは1913年である[1]。しかしタマホコリカビ類真性粘菌のアメーバが糸状仮足を出すのに対し、アクラシス科などいくつかの群では葉状仮足で運動することから、20世紀の後期からこれらは異なる系統に属する独立した生物群だと考えられるようになった[4]。さらに21世紀に入ると、これらはアメーバ運動を行う多様な真核生物がそれぞれ独立に累積子実体の形成をするようになったことが明らかになった[15]。その結果、アクラシス目やアクラシス綱、あるいはアクラシス菌門といった高次分類群は解体されて使われなくなり、系統を反映した分類群としてはアクラシス科にわずか2属(しかも再現良く見付かるのはAcrasis属のみ)となった。一方で様々なアメーバ様生物の系統的位置が明らかになった結果、2012年にAllovahlkampfia属を含める提案がなされている[9]

注釈

  1. ^ a b c 和名は山田(1971)[2]による。
  2. ^ 植物分類学の立場では動物である有孔虫と属名が同じでも差し支えはなく、不必要な改名となる。Pocheina国際藻類・菌類・植物命名規約において保存名とする提案が出されている[11]

参考文献

  1. ^ a b Poche, F (1913). “Das System der Protozoa”. Archiv für Protistenkunde 30: 125-321. 
  2. ^ 山田卓三「細胞性粘菌の系統と発生」『遺伝』第25巻第4号、1971年、 9-16頁、 NAID 20000871712
  3. ^ Schenk., A. (1888). Handbuch der Botanik. 3. 712. https://www.biodiversitylibrary.org/item/47370#page/156. 
  4. ^ a b c d Olive, L. (1970). “The Mycetozoa: A revised classification”. Bot. Rev. 36 (1): 59-89. doi:10.1007/BF02859155. 
  5. ^ 山田卓三「細胞性粘菌の分類と生活史」『遺伝』第32巻第5号、1978年、 10-15頁、 NAID 20000871712
  6. ^ 宇田川俊一ほか『菌類図鑑』上巻、講談社、1978年。 ISBN 978-4-06-129961-0
  7. ^ Adl, S. M. et al. (2019). “Revisions to the Classification, Nomenclature, and Diversity of Eukaryotes” (pdf). J. Eukaryot. Microbiol. 66 (1): 4-119. doi:10.1111/jeu.12691. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jeu.12691/pdf. 
  8. ^ a b van Tieghem, P. (1880). “Sur quelques Myxomycètes á plasmode agrège”. Bulletin de la Société Botanique de France 27 (8): 317-322. doi:10.1080/00378941.1880.10825913. 
  9. ^ a b c d e Brown, et al. (2012). “A contemporary evaluation of the acrasids (Acrasidae, Heterolobosea, Excavata)”. Eur. J. Protistol. 48 (2): 103-123. doi:10.1016/j.ejop.2011.10.001. 
  10. ^ Loeblich, A.R. Jr. and Tappan, H. (1961). “Suprageneric Classification of the Rhizopodea”. J. Paleontol. 35 (2): 245-330. JSTOR 1301036. 
  11. ^ a b Doweld, A.B. (2013). “(2208-2209) Proposals to conserve the names Pocheina against Guttulina and Pocheinaceae against Guttulinaceae (Acrasiomycetes (Acrasiales) vel Acrasiea (Protista))”. Taxon 62 (6): 1327-1328. doi:10.12705/626.19. 
  12. ^ Walochnik, J. and Mulec, J. (2009). “Free-living Amoebae in Carbonate Precipitating Microhabitats of Karst Caves and a New Vahlkampfiid Amoeba, Allovahlkampfia spelaea gen. nov., sp. nov.”. Acta Protozool. 48 (1): 25-33. http://www.ejournals.eu/pliki/art/4746/pl. 
  13. ^ De Obeso Fernandez Del Valle & Maciver (2017). “Allovahlkampfia minuta nov. sp., (Acrasidae, Heterolobosea, Excavata) a New Soil Amoeba at the Boundary of the Acrasid Cellular Slime Moulds”. Acta Protozool. 56 (3): 181-189. doi:10.4467/16890027AP.17.016.7497. 
  14. ^ Tolba, et al. (2016). “Allovahlkampfia spelaea Causing Keratitis in Humans”. PLoS Negl. Trop. Dis. 10 (7): e0004841. doi:10.1371/journal.pntd.0004841. 
  15. ^ Brown, Matthew W., and Silberman, Jeffrey D. (2013). “The Non-dictyostelid Sorocarpic Amoebae”. In Romeralo, Baldauf, Escalante (eds.). Dictyostelids: Evolution, Genomics and Cell Biology. pp. 219-242. doi:10.1007/978-3-642-38487-5_12. ISBN 978-3-642-38487-5. 

アクラシス科

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細胞性粘菌」の記事における「アクラシス科」の解説

詳細は「アクラシス科」を参照 アメーバ細胞前端葉状の単仮足をもち (リマックスアメーバ)、噴出するような非常に活発な仮足形成を行う。移動速度速い鞭毛細胞形成する種もいる。ミトコンドリア粗面小胞体囲まれクリステは盤状。ゴルジ体一般的な層状構造形成しない子実体形成にはふつう明暗周期が必要である。子実体形成時には細胞集合し、共通の粘液質覆われる集合体立方形の細胞単列複数列にならんだ柄を形成しその先端で細胞単列胞子鎖 (しばしば多数分枝) または塊状胞子塊を形成する (高さ 0.1–0.8 mm) (右図)。胞子同士接す部分には環状のへそ状構造 (hilum, pl. hila) が存在する (Allovahlkampfia の胞子には存在しない)。Acrasis kona において核ゲノム塩基配列報告されている (約44 Mbp; Mbp = 100万塩基対)。有性生殖未知であるが、ゲノム情報からはその存在示唆されている。落葉植物体に付いた枯葉樹皮洞窟土壌などから単離されている。 アクラシス科は、エクスカバータ、ディスコーバのペルコロゾア門ヘテロロボサ綱属する (上図)。ヘテロロボサ綱は、もともとアクラシス科と子実体形成しない近縁生物研究をもとに提唱され分類群である。またアクラシス科を含む分類群名としてアクラシス目用いられることもある。2017年現在、アクラシス科には4属10種ほどが知られこの中には子実体形成知られていない種も含まれる。 アクラシス科の属までの分類体系一例 (2020年現在)ディスコーバ Discobaペルコロゾア門 Percolozoa Cavalier-Smith, 1991ヘテロロボサ綱 (ヘテロロボセア綱) Heterolobosea Page & Blanton, 1985アクラシス目 Acrasida J. Schroter, 1886 [Acrasiales Tieghem ex J. Schroter, 1886]アクラシス科 Acrasidae Tieghem, 1880 [Acrasiaceae Poche, 1913]ジュズダマカビ属 Acrasis Tieghem, 1880 ホソエナメクジカビ属 Pocheina (Cienk.) A.R. Loeblich & Tappan, 1961(= Guttulina Cienkowski, 1873 non d'Orbigny, 1839) Allovahlkampfia Walochnik & Mulec, 2009 Solumitrus Anderson, Wang, B.i.Faucher & Shuman, 2011

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「アクラシス科」を含む「細胞性粘菌」の記事については、「細胞性粘菌」の概要を参照ください。

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