『祭暦』
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六巻のエレギーア詩が現伝する『祭暦』(Fasti、ファスティ)は、オウィディウスが追放の憂き目に遭ったまさにその時に携わっていた二つ目の野心作である。オウィディウスはローマ暦の年中行事を韻文で歌い上げるという、過去のラテン文学に前例のない試みを完遂させようとしたのであるが、自身の追放により中断され、現伝するものは半年分、1月から6月までの六巻しかない。後述する「トリスティア」2.549–52 では自分の作品が六巻で邪魔されたと歌う部分がある。追放先のトミスでは、作り上げた六巻の校訂に励んでいたと考えられている。『祭暦』は『変身物語』のように長詩となるはずだった。そして、カッリマコスやプロペルティウスらの起源神話を題材にした詩作を踏襲するものとなるはずだった。 本作はローマ暦に従って重要なローマの祭の起源と習慣を説明する。時おり神話伝承を交えながら、季節に応じて天文や農事に関する情報が挿入される。本作はアウグストゥス帝の息子「誉れ高きゲルマニクス」に捧げられているが、これには、当初、帝に奉呈するつもりであったが帝の崩御によってそれが叶わず急遽奉呈先をゲルマニクスに変更したという事情があるかもしれない。本作では、詩人は自らを司祭と自己言及し、暦についてあれこれ語るため、神々に直接お話をお聞きしてまじめに調べる、という文学的仕掛けが用いられる。また、詩人はプレブス(貴族)好みは前面に出さず、祭の野卑な伝統を肯定的に歌い上げている。これにアウグストゥス帝の風俗改良政策への控えめな抵抗を読み取る学者もいる。ローマ時代の文物は史料がよく保存されているので、本作はこれまでのところずっとローマの宗教や文化を調べる者の役に立たないとされてきた。しかし近年ではオウィディウスの最良の文学作品であり、ラテン語エレギーア詩に類い稀な実りをもたらした作品として捉えられるようになっている。
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