『手引き(エイサゴーゲー)』
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「テュロスのポルピュリオス」の記事における「『手引き(エイサゴーゲー)』」の解説
ポルピュリオスは哲学的業績で最も知られている。ネオプラトニズムの基本的な文献である『理解の学習の手引き(Sententiae Ad Intelligibilia Ducentes)』の著作をおけば、彼は、しばしばアリストテレスの『範疇論』の注釈だとそのタイトルから思われている非常に短い著作「範疇の手引き(Introductio in Praedicamenta)」によって評価されている。しかしながら、バルネス(2003年)によれば、『範疇の手引き』の正しい題名は「手引き(εἰσαγωγή)」であって、この本は特に「範疇」ではなく一般に『オルガノン』全体に対する手引きであり、実際には命題、定義、証明の理論を内容とするという。この手引きでは物体に与る性質がどのように分類されるかが論じられ、実体という哲学的概念が「類」、「種」、「種差」、「固有性」、「付帯性」の五つに分けられる。 ポルピュリオスの最も影響力の強い哲学的功績は、『範疇への手引き』でアリストテレスの論理学をネオプラトニズムと合体させたこと、特に、範疇という概念を実体的に理解したこと(後の哲学で言う普遍)である。ボエティウスによる『エイサゴーゲー』のラテン語訳は中世ヨーロッパの学校・大学で標準的な教科書となり、それらの学校・大学で中世の論理学や普遍論争が哲学的・神学的に進展することとなった。エイサゴーゲーのうちで極めて重要な「ポルピュリオスの樹(Arbor porphyriana)」は彼の論理学における実体の分類を図示したものである。今日に至るまで、分類学は生物の分類においてポルピュリオスの樹の恩恵を受けている(系統樹、分岐学を参照)。 エイサゴーゲーはイブヌル・ムカッファによって、当時存在したシリア語版からアラビア語へ翻訳された。アラビア語化された題名「イサーグージー(إيساغوجي)」の下にイスラーム圏において長い間論理学の手引きとなる標準的な教科書として扱われ、神学、哲学、文法学、法哲学に影響を与えた。この著作の翻案や縮図の他にも、論理学に関する独立した著作がムスリムの哲学者によって多く書かれ、しばしば「イサーグージー」という題名が付けられた。ポルピュリオスの「付帯性」に関する議論を端緒として、「付帯性」と「固有性」の適用に関する長きにわたる論争が起こった。
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