『忠魂義烈・實録忠臣蔵』でのエピソード
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「伊井蓉峰」の記事における「『忠魂義烈・實録忠臣蔵』でのエピソード」の解説
マキノ省三は『忠魂義烈・實録忠臣蔵』の大石役に当初、関西歌舞伎の名家實川延若 (2代目)を予定したが断られ、次に松本幸四郎 (7代目)と交渉したが、延若に遠慮した幸四郎にも断られた。交渉にあたった浅草劇場主の堀倉吉は若手の阪東壽三郎 (3代目)に白羽の矢を立て、壽三郎もその気だったが松竹側が延若に遠慮して断られた。最終的にちょうど新派を離れたばかりの伊井の名が上がり、ようやく大石役が決まることになった。これだけの難航だったため、マキノ自身も伊井に気を使わざるを得ない状況だった。 まず、大石と立花左近の対決の場面が天橋立でロケされた。金屏風の前で大石が白紙で芝居を見せる名場面で、左近に一同が斬りかかり、これに気づいた大石が止めに入る場面、大石役の伊井は新派俳優なのにもかかわらず、いきなり「待てェ!」と叫んで「ターッ、ポン、ポン、ポン」と歌舞伎の「六方」を踏んでしまった。マキノ監督は「大石内蔵助が六方を踏むとは」と慌ててしまい、「カット」も言わず、呆然としていた。そのまま伊井はいい気で六方を踏みながらダーッとやって来る。移動車を押していたマキノ雅弘は「本当にアホらしくなった」とこのときの様子を語っている。やり直しを言っても伊井は「もうやれん」との返事で応じず、マキノ監督もカメラマンもがっくり来てしまったという。 仕方なくマキノ監督は雅弘らに「伊井に活動写真の演出について説明してやってくれ」と頼んだが、伊井は耳も貸さずさっさと帰ってしまった。これをみた玉木潤一郎が口止めされたにもかかわらずジャーナリストにばらしてしまい、伊井はカンカンになって怒ってしまった。マキノは玉木が自分のために怒ってこれを暴露したと知っていたが、「玉潤、すまんがお前、このシャシン上映するまでしばらく馘になってくれ」と頼まなければならなかった。伊井一人のために、マキノは有能なスタッフを外す羽目になったのである。 『忠魂義烈・實録忠臣蔵』で伊井と共演した嵐寛寿郎は、「だいたい芸名からしていい容貌でっしゃろ、うぬぼれ度が過ぎてますワ」と語っているが、実際撮影時でも、「活動写真」を理解しようとしないこの「新派の大統領」に周りは振り回され続けた。アラカンや片岡千恵蔵は、この伊井の姿を見て幻滅し、「マキノを辞めよう」とひそかに決心したという。
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