『バス』はチェロかコントラバスか?
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 17:07 UTC 版)
「ディヴェルティメント K.136」の記事における「『バス』はチェロかコントラバスか?」の解説
3つのディヴェルティメントの編成はモーツァルトによって、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、バスと指定されているが、バスは何の楽器を指しているのか明らかにされていないのは述べたとおりである。おそらくチェロまたはコントラバスであろうと目されたが、他の楽器の可能性もを完全に捨てきれなかった。しかし、3つのディヴェルティメントで用いられる音域には、当時16歳のモーツァルトがそれまでのオーケストラ作品で使った最高音を超えるものは存在しないため、楽曲編成は各パート1人の弦楽四重奏である可能性が強く、また第2ヴァイオリンやヴィオラは室内楽的な動きを濃厚に示しており、「バス」の声部はチェロを念頭に書かれていたのだと推測できる。当時の用語法では「バス」は低音楽器全般を指す集合名詞であり、先述したように弦楽器に限っても実際に使われる楽器には多くの選択肢が残されていた。つまり、 「チェロとコントラバスか、両方か、補強にファゴットを加えるか?」 ということである。可能性の低そうなファゴットは除くにしても、残り3つの可能性は編成人数や所属ジャンルにかかわる。 チェロのみ→各パート1人の室内楽であり、所属ジャンルは弦楽四重奏曲。 コントラバスのみ→各パートの人数は関係なく、野外音楽のセレナーデ類。 チェロ+コントラバス→弦楽五重奏曲か、弦楽合奏曲。 3つのディヴェルティメントでは最低音域が多用され、オクターヴを上げると具合が悪くなる、主題的に重要な音がそこに含まれるので、結果として、 「バス」=チェロ という結論に達した。下のC音まであるチェロに比べて、コントラバスは記譜上のE音までしかなく、モーツァルトの時代にはさらに最低音が高い小型の楽器も好んで用いられたため、彼はコントラバスの使用が明らかな作品においては最低音域の使用を注意深く避け、使用するときでもオクターヴを上げてもかまわないところで用いている。よって彼の通常の作曲様式範囲内ではこの作品群においてのコントラバスの使用は考えられず、3つのディヴェルティメントは元々弦楽四重奏曲として書かれた物との結論に帰結する。しかし、弦楽四重奏曲であることがほぼ確実なこの3つの曲は、弦楽合奏でも演奏は十分可能で、しばしばそのようにして演奏され、カラヤンもその形態で録音されたCDを遺している。しかしその場合、声部間の掛け合いに室内楽的な親密さを保ち、しばしば現れる対位法的な処方を明快に造形することが不可欠で、よほどの強力な指揮者と練習時間が得られるならまだしも、多人数は決して得策とはいえない。
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