雨 雨の性質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/08 00:33 UTC 版)

雨の性質

雨粒の形状

雨粒

落下する雨の水滴を雨粒(あまつぶ)といい、雨滴(うてき)ともいう。雨水が軒などから落ちるのは雨垂れ(あまだれ)、雨だれが落ちて打ち当るところを雨垂落(あまだれおち)という。なお、雨によるものではないが、濃霧の時、森林の中で霧の微小な水滴が枝葉につき、大粒の水滴となって雨のように降り落ちる現象を樹雨(きさめ、きあめ)という。

雨粒の温度は、概ね気温より冷たい傾向にあるが、落下してくる大気の気温や湿度に左右される。地表においては、おおよそ湿球温度に近い温度になると考えられている[29]

雨粒は太陽光を反射分光し、を作ることがある。

雨粒の大きさと形状

雨粒の大きさは、通常は直径1mm前後で、概ね直径0.2 - 6mmの範囲内にある。小さなものほど落下速度が小さく、特に直径0.5mm未満の雨粒が一様に降る状態の雨を霧雨(きりさめ)といい、ほとんど浮遊しているように見えるとされる。一方、直径6mmを超えるような大きな雨粒は分裂しやすく観測されにくい[30][31]

雨が降ってくるとき、雨粒の密度は、1m3あたり10個 - 1,000個程度である[32][33]。雨粒の大きさと密度の関係は、「マーシャル・パルマーの粒径分布」として表せる(マーシャルおよびパルマー、1947年)。実際には全ての場合に適用できる訳ではないが、大きな粒ほど密度が低い、おおよそ指数関数的な分布になっている[34]

雨粒の落下速度は、雨粒の大きさにほぼ比例する。相当半径[注 2]0.1mm(直径0.2mm)では終端速度70cm/s、0.5mm(直径1mm)では4m/s、1mm(直径2mm)では6.5m/sである。2mm(直径4mm)では9m/sに達するがこれより大きくなっても速度はほとんど変わらず、約9m/sが最大値である[30]

雨粒が空気中を落下するとき、雨粒が半径1mm(直径2mm)より小さい場合は、表面張力のためにほぼ球形をしている。これより大きくなると、表面張力が小さくなる代わりに空気抵抗が増し、雨粒の底面が平らなまんじゅうのような形状となるうえ、落下時に振動し始めて不安定となり、分裂しやすくなる。大きくなるほど壊れやすいため、実際に地上で観測されている雨粒は、最大でも直径8mm程度までである[18][30]

雨がしばしば涙滴形で描かれているのは、木の葉の先から露が落ちるときや、窓ガラスを伝う水滴が涙形をしているためである。1951年に北海道大学の孫野長治博士が空中を落下する雨粒の写真撮影に成功し、「まんじゅう形」を世界で初めて確認した。

雨水の化学成分

雨水は大部分が水であるが、微量の不純物を含んでいる。不純物の量は、雨水1リットル中に数mg - 数十mgのオーダーである。不純物の濃度は、雨の降り始めに濃い傾向があり、降り続くに従い、また雨量が増えるに従い薄くなっていく。また、季節や場所により大きく変動し、工業地帯では濃度が高い[3]

不純物の成分はなどの燃焼由来の有機物硫黄酸化物硫酸)、窒素酸化物塩素ナトリウム土壌由来の成分などで、重金属類が含まれることもある[5][35]。これらは雲が発生する際(レインアウト)、あるいは雨となって地上に落ちてくる際(ウォッシュアウト)、周囲の空気から取り込まれる。降水量の多い日本では、大気中から地表への沈着物質の6 - 7割が雨による湿性沈着だと考えられている[35]

また核実験の後などには、雨水中に放射性物質が含まれることがある[5]

雨水中の水を構成する水素酸素の同位体比は、海水に比べるとやや軽い同位体の比率が高く、大気中の水蒸気と比べるとやや重い同位体の比率が高い。また、気温が低いほど、緯度が低いほど、標高が高いほど、海岸から離れるほど、それぞれ同位体比は低くなる[36]

雨自体に臭いはないが、雷により産生されるオゾン、湿度が上昇することによって粘土から出されるペトリコールや、土壌中の細菌が出すゲオスミンが雨が降るときの臭いの元だと言われている[37][38]

通常でも雨水は大気中の二酸化炭素を吸収するため、pH(水素イオン指数)は6前後とやや酸性を示す。雨が硫黄酸化物や窒素酸化物などを大気中から取り込み、強い酸性を示すものもある。一方、土壌や燃焼に由来するアンモニウムカルシウム成分を取り込み、pHが中和されることもある。中国東部では、石炭資源が豊富なためその利用により硫黄酸化物が大量に排出されると同時に土壌から黄砂などに由来するアンモニウムやカルシウムが排出され、汚染のポテンシャル自体が高い割に酸性雨の被害は顕著ではない。大気中の二酸化炭素濃度を考慮した平衡状態がpH5.6であることから、この値以下のものを酸性雨と呼ぶが、pH5.0以下とする定義もある[35]

特異な雨

魚の雨を描いた絵、シンガポール

通常とは違い、異物を含んだ雨、色の付いた雨が降ることがあり、俗に怪雨(かいう)と呼ばれる[5]

黄砂などの土壌由来の成分()や火山灰を含み、黄色や赤色を呈する雨が降ることがあり、泥雨(でいう)と呼ばれる。また赤色の場合は血雨英語版(けつう)とも呼ばれる。工業地帯の煤煙を含んだ雨は黒雨(こくう)と呼ばれる[5][39]

特殊な例として、雨と一緒にカエル穀物、木の実が降るような現象が世界各地で報告されており[39]、"falls from the skies"の頭字語ファフロツキーズと呼ばれる。

核攻撃核実験が行われた場所では、放射性降下物を含む黒い雨が降った例がある。1945年8月6日、広島市への原子爆弾投下の後、高レベルの放射能を持つ黒い雨が降った。この雨は触れただけで放射線障害の原因となり、二次被曝を引き起こした。核爆発により放出される大量の熱やその後の市街地の火災が上昇気流を起こし、大量の粉塵が混じったことで黒色を呈した。長崎市への原子爆弾投下後においても、黒い雨が降っている[40]


注釈

  1. ^ 配色は「気象庁ホームページにおける気象情報の配色に関する設定指針」(令和2年7月一部改訂)での解析雨量・降水短時間予報・レーダー・ナウキャストのものを使用した[28]
  2. ^ 大きな雨粒は変形するため、それを球形に換算した半径のこと。
  3. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  4. ^ METARTAF

出典

  1. ^ 岩槻、p216
  2. ^ a b 気象観測の手引き、p61
  3. ^ a b c d e f g h i j k l グランド現代大百科事典、大田正次『雨』p412-413
  4. ^ 荒木、p42-43
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 世界大百科事典、内田英治『雨』p475-476
  6. ^ a b 荒木、p75-77
  7. ^ a b 岩槻、p112, p118-120
  8. ^ Robert Fovell (2004年). “Approaches to saturation” (pdf). University of California in Los Angelese. 2015年4月7日閲覧。
  9. ^ 岩槻、p180-184
  10. ^ 小倉、p78-88
  11. ^ 荒木、p116-128
  12. ^ 小倉、p81, p85-92
  13. ^ 荒木、p77-82, p128-129
  14. ^ 武田、p31-34
  15. ^ 小倉、p87-88, 98
  16. ^ a b c d 荒木、p132-148
  17. ^ a b 小倉、p92-99
  18. ^ a b 小倉、p86, 89
  19. ^ 荒木、p77-82, 129-131
  20. ^ 荒木、p23-38
  21. ^ 荒木、p103-104
  22. ^ 武田、p139-140, 142-153
  23. ^ 日本大百科全書、礒野謙治「雨量の分布」
  24. ^ a b c d 武田、p142-153
  25. ^ 『キーワード 気象の事典』初版、p247、朝倉書店、2002年。ISBN 4-254-16115-8
  26. ^ 雨の強さと降り方 平成12年8月作成、平成14年1月一部改正」気象庁、2015年4月18日閲覧
  27. ^ a b 天気予報等で用いる用語 降水
  28. ^ 気象庁ホームページにおける気象情報の配色に関する設定指針」気象庁、2020年7月、2023年2月5日閲覧
  29. ^ 武田、p8-9
  30. ^ a b c 荒木、p77-82
  31. ^ a b 気象観測の手引き、p61
  32. ^ 荒木、p78-79
  33. ^ 武田、p24-25
  34. ^ 武田、p14-15
  35. ^ a b c 地球と宇宙の化学事典、p154
  36. ^ 地球と宇宙の化学事典、p149
  37. ^ Daisy Yuhas. "Storm Scents: You Can Smell Oncoming Rain", Scientific American, 2012-07-18, 2015年4月20日閲覧
  38. ^ あの独特な「雨の匂い」の正体、知ってる?”. TABI LABO編集部. TABI LABO (2023年11月2日). 2023年11月3日閲覧。
  39. ^ a b 日本大百科全書、礒野謙治「珍しい雨」
  40. ^ 「原爆の記録 黒い灰・黒い雨」、長崎市、2015年4月19日閲覧
  41. ^ a b c d 武田、p16-20
  42. ^ 地域気象観測システム(アメダス)」気象庁、2015年4月18日閲覧
  43. ^ 気象レーダー」気象庁、2015年4月18日閲覧
  44. ^ a b 日本大百科全書、礒野謙治「降雨の記録」
  45. ^ a b 日本大百科全書、礒野謙治「雨の観測と予報」
  46. ^ 国際式の天気記号と記入方式」、気象庁、2023年2月5日閲覧。
  47. ^ 過去の気象データ検索 > 「天気欄と記事欄の記号の説明」、気象庁、2023年2月5日閲覧。
  48. ^ 理科年表FAQ > 山内豊太郎「天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。」、理科年表オフィシャルサイト(国立天文台、丸善出版)、2008年3月、2022年2月5日閲覧。
  49. ^ 宮澤清冶『最新天気図と気象の本-天気図を見るとき読むとき書くとき』、国際地学協会、1991年。ISBN 978-4771810068
  50. ^ METAR報とTAF報の解説」、那覇航空測候所、2023年2月5日閲覧。
  51. ^ 地球と宇宙の化学事典、p151, p155
  52. ^ 日本大百科全書、礒野謙治「雨と人間」
  53. ^ 日本大百科全書、礒野謙治「人工増雨」
  54. ^ a b c d e f g 世界大百科事典、飯島吉晴、吉田敦彦『雨』p475-476
  55. ^ a b c d e f 日本大百科全書、竹内利美「雨の民俗」、板橋作美「世界の伝承と俗信」
  56. ^ Rain Gardens”. Soak Up the Rain. EPA (2016年4月28日). 2023年4月7日閲覧。
  57. ^ 雨水浸透・貯留機能の高い植栽基盤を用いた外構創出技術
  58. ^ レインガーデン(雨水浸透緑地帯) | グリーンインフラ
  59. ^ France, R. L. (Robert Lawrence) (2002). Handbook of water sensitive planning and design. Lewis Publishers. ISBN 978-1-4200-3242-0. OCLC 181092577 
  60. ^ Evapotranspiration and the Water Cycle”. www.usgs.gov. 2019年8月16日閲覧。
  61. ^ 金星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧
  62. ^ 土星の衛星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧



雨…

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雨…」(あめ)は小柳ルミ子の27枚目のシングル1978年11月25日SMS Recordsから発売された。




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