雨
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/03 20:56 UTC 版)
観測・報告

観測機器
雨の観測は主に雨量計や気象レーダーにより行われる。雨量計は標準化されており、日本では直径20cmの円筒形の器具が最も用いられている。雨量計は地点ごとの正確な雨量が分かるが、雨量は地域により大きく偏ることがあり雨量計だけでは雨の全体像を把握できない。一方、気象レーダーは面的に雨の強さの分布が分かるが、雨粒の大きさを測定できないため実際の雨量と大きな誤差が出てしまう。防災面では、両者の欠点を補うため雨量計やレーダーの情報を組み合わせてコンピューター処理した上で活用する[5][40]。
日本の場合、防災を目的に気象庁のアメダス雨量計が国内約1,300か所に設置されている[41]。また気象庁の気象レーダーは20か所に設置され、国内ほぼ全域をカバーしている[42]。このほか国土交通省、都道府県、鉄道会社、電力会社などが、独自の雨量計やレーダーなどを保有している[40]。
雨の観測の歴史は古く、最古のものとしては紀元前4世紀、マウリヤ朝時代の古代インドで行われた観測記録がカウティリヤの著書に記されている。15世紀、李氏朝鮮では世宗が銅製の計器を用いて観測を行わせたとされる。中国でも15世紀に観測が行われた。ヨーロッパでは、17世紀に雨量計が考案され、ロバート・フックが行った観測記録などが残っている。日本では、18世紀初めに徳川吉宗が雨量を観測させたとされるが、記録自体は残っていない[3][43]。
連続した雨量の観測記録の中でもっとも古く信頼できるものは、イギリス・ロンドン郊外のキューにおけるもので、1697年からの記録がある。このデータは、気候変動を論じる上で、降水量の長期変動を示す資料として引用されている。また日本では、1875年6月1日(気象記念日)に当時東京気象台で雨量の観測が始まった[43]。
気象レーダー
気象レーダーは、波長5 - 10cmの電波(マイクロ波)を放射して雨粒からの反射を検知し、半径およそ300 - 500kmの領域内の降雨分布を調べるものである。レーダー電波の反射強度は、雨粒の直径の6乗と大気中の個数(密度)の積で表される。同程度の雨量でも雨粒の大きさが異なるために誤差が生じることがあり、レーダーのみで正確な雨量は求められない[5][40][44]。
なお、雪が融けて雨に変わりつつあるとき、電波が屈折してしまうためその高度のレーダー反射は強くなる。これをブライトバンドという。さらに、雨粒以外のもの、例えば鳥や昆虫などの小動物、空気の乱れなどで異常な観測結果がみられることがあり、このようなものをエンジェルエコーと呼ぶ[40]。
気象衛星
実用投入されている気象衛星は赤外線により雲の観測を行うもので、雨の直接観測は行っていない[44]。衛星による雨の直接観測が可能となったのは1990年代であり、熱帯降雨観測衛星(TRMM)は熱帯の雨の観測を行った。その後、国際的な協力により複数の衛星による全球降水観測計画(GPM)が展開されている。
報告
観測記録や通報では、直径0.5mm以上の水滴が降る場合を「雨」と呼び、直径0.5mm未満の水滴が一様に降るものは「霧雨」として区別する[31]。さらに、対流性の雲(積雲、積乱雲)から降る雨は「驟雨」、過冷却水滴の雨は「着氷性の雨」として区別する。
国際気象通報式[注 3]では、観測時に降っているか止んでいるか、雪・霰・雹を伴うかどうか、雷を伴う否か、雨の3段階強度や雷の3段階強度などの組み合わせで区分される天気から選択して報告する。強度の3区分は、時間雨量3mm未満で弱い雨、3mm以上15mm未満で並の雨、15mm以上で強い雨。雨を表す基本の記号は[45][46]。
ラジオ気象通報などの日本式天気図では、観測時に雨が降っている場合に天気を「雨」とする。天気記号は()。ただし、時間雨量に換算して15mm以上の強度で雨が降る場合は「雨強し」(
ツ)、対流性の雲から降る雨(驟雨)は「にわか雨」に分類する。また、霰や雹、雷を伴う場合はそちらを優先して報告する[47][48]。
航空気象の通報式[注 4]では「降水現象」の欄のRAが雨を表す略号。強度を表す付加記号、驟雨や着氷性の雨を表す略号もある[49]。
注釈
出典
- ^ 岩槻、p216
- ^ a b 気象観測の手引き、p61
- ^ a b c d e f g h i j k l グランド現代大百科事典、大田正次『雨』p412-413
- ^ 荒木、p42-43
- ^ a b c d e f g h i j k l 世界大百科事典、内田英治『雨』p475-476
- ^ a b 荒木、p75-77
- ^ a b 岩槻、p112, p118-120
- ^ Robert Fovell (2004年). “Approaches to saturation” (pdf). University of California in Los Angelese. 2015年4月7日閲覧。
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- ^ 小倉、p78-88
- ^ 荒木、p116-128
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- ^ 武田、p31-34
- ^ 小倉、p87-88, 98
- ^ a b c d 荒木、p132-148
- ^ a b 小倉、p92-99
- ^ a b 小倉、p86, 89
- ^ 荒木、p77-82, 129-131
- ^ 荒木、p23-38
- ^ 荒木、p103-104
- ^ 武田、p139-140, 142-153
- ^ 日本大百科全書、礒野謙治「雨量の分布」
- ^ a b c d 武田、p142-153
- ^ 『キーワード 気象の事典』初版、p247、朝倉書店、2002年。ISBN 4-254-16115-8
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- ^ a b 気象観測の手引き、p61
- ^ 荒木、p78-79
- ^ 武田、p24-25
- ^ 武田、p14-15
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- ^ レインガーデン(雨水浸透緑地帯) | グリーンインフラ
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- ^ 「金星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧
- ^ 「土星の衛星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧
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