脂肪酸 脂肪酸の概要

脂肪酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/01 01:41 UTC 版)

脂肪酸の例

分類

脂肪酸は主に炭素数および不飽和結合の有無、幾何異性体の種類によって分類される。

炭素数による分類

炭素数に応じて短鎖・中鎖・長鎖脂肪酸と区別する。

  • 炭素数が6未満:短鎖脂肪酸(short-chain FA; SCFA)
  • 炭素数が6-12:中鎖脂肪酸(middle-chain FA; MCFA)
  • 炭素数が13-21:長鎖脂肪酸(long-chain FA; LCFA)
  • 炭素数が22以上:超長鎖脂肪酸(very long-chain FA; VLCFA)

なお炭素数10以上のものを高級脂肪酸(higher fatty acid)とも呼ぶ。

不飽和度による分類

不飽和度による分類はさまざまであるが、基本的には以下の分類に従う。

また不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって以下の分類がなされる。

  • モノエン脂肪酸(一価不飽和脂肪酸、monounsaturated fatty acid, MUFA) — 二重結合の数が1つである
  • ポリエン脂肪酸(多価不飽和脂肪酸、polyunsaturated fatty acid, PUFA)— 二重結合の数が2つ以上である。二重結合の数が4つ以上のものを高度不飽和脂肪酸と呼ぶ場合もある。

また、二重結合の有無および炭素数の差異によって名称が異なる。脂肪酸#命名法にて述べる。

幾何異性体による分類

不飽和脂肪酸は、幾何異性体にcis型とtrans型がある。天然に存在するのはほとんどがcis型である。trans型のものを特にトランス脂肪酸と呼んで区別することがある。

その他の分類

その他の分類には以下のようなものがある。

  • 分枝脂肪酸 — 分枝鎖を有する脂肪酸
  • 環状脂肪酸 — 環状構造を有する
  • ヒドロキシ脂肪酸 — ヒドロキシ基を含む
  • 奇数炭素脂肪酸 — 偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低い(β酸化)
  • 偶数炭素脂肪酸 — 奇数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が高い

化学的性質

炭素数10以上の飽和脂肪酸の融点は鎖長の順に高くなり炭素数30のトリアコンタン酸の融点は 93.6 ℃だが、炭素数9以下の飽和脂肪酸では解離、水素結合によるクラスター形成等様々な原因で、炭素鎖の長さの順になる訳ではない。炭素数2の酢酸では融点が16.7 ℃なのに対して、炭素数5のペンタン酸が融点が最も低く−34.5 ℃である。

飽和脂肪酸は同じ炭素数の不飽和脂肪酸に比べて高い融点を示す。

代謝

ヒトを含む多くの生体内ではエネルギー源として好気的に代謝される(β酸化)。脂肪酸は体内においてはほとんどが筋肉細胞に存在している。筋肉細胞内において、脂肪酸はカルニチンによってミトコンドリア内部に輸送される。ミトコンドリア内膜はアシルCoAを直接透過しないため、カルニチンが脂肪酸アシル運搬体の役割を果たす(動植物共通)。脂肪酸アシルCoAはカルニチンと一時的に結合し、脂肪酸アシルカルニチンを生成する。この反応はミトコンドリア外膜に埋め込まれたカルニチンアシルトランスフェラーゼIにより触媒される。その後、脂肪酸はミトコンドリア内でβ酸化を受け酢酸にまで分解され、生成したアセチルCoAクエン酸回路を通じてエネルギーに転換される。

マウスを対象とした動物実験において、ある種の脂肪酸には腫瘍細胞の脂肪代謝を阻害することにより抗がん効果がある事例が複数報告されている[2][3][4][5]。 奇数炭素脂肪酸は、偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低いため、白血病患者の骨髄に含まれるがん細胞のエネルギー源である脂肪酸の代謝を阻害する効果がある事が判明しており、がん阻害剤としての効果が期待される[6][7]

脂肪酸はグリセリンとのエステル体(トリグリセリド)の形で摂取されることが多い。例えば医学用語で「脂肪」や「中性脂肪」と言えば、通常「脂肪酸トリグリセリド」のことを指す。長鎖脂肪酸グリセリド(LCT)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)とでは、摂取後全く異なる吸収形態を取る[8]。LCT及びMCTも小腸において、エステラーゼ加水分解され、脂肪酸グリセリンになるまでは共通である。しかしLCTは小腸上皮から摂取後、リンパ管に入って全身循環し、胸管を通じて徐々に血液に入る[9]。これに対してMCTは直接血液循環に入る。従ってMCTはすみやかに代謝されるのに対して、LCTの代謝はMCTより遅い(少なくとも数時間)[10]。俗説ではMCTはすみやかにケトン体に変わりケトン体濃度の増加(生理的ケトーシス)を誘導するが、LCTは中性脂肪になり体内に蓄積するという。MCTはケトン体に変わりやすいのは確かだが、インスリンがMCTがケトン体に変わることを阻害しているため、糖質を摂取する通常の食事ではMCTはケトン体を増加させることはない[11]。すなわちMCTは糖質制限食またはケトン食とともに食べないと、MCTはケトン体を増加させることはない。最近ではケトン食にMCTが取り入れられている。

飽和脂肪酸を取り過ぎると、カロリー不足でない限り血清総コレステロール濃度を上昇させ、虚血性心疾患を起こしやすくすると言われている。飽和脂肪酸は、WHO/FAOが肥満問題に対する戦略のひとつとして摂取制限を挙げている[12]


  1. ^ IUPAC Gold Book - fatty acids
  2. ^ 磯田好弘, 西沢幸雄, 山口茂彦, 平野二郎, 山本明彦, 沼田光弘「脂質の抗がん効果 : マウスの移植がんに関する局所投与遊離脂肪酸の抗がん活性」『油化学』第42巻第11号、日本油化学会、1993年、923-928頁、doi:10.5650/jos1956.42.923 
  3. ^ 五十嵐美樹, 宮澤陽夫「脂質がガンを抑える 共役脂肪酸の有効性」『化学と生物』 2000年 38巻 8号 p.529-531, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.38.529, 日本農芸化学会
  4. ^ 北浦靖之、「異なる脂肪酸を組み合わせることで強力にがん細胞を死滅させる
  5. ^ 白血病細胞は脂肪代謝によって細胞死を避ける/M.D.アンダーソンがんセンター
  6. ^ <ページが見つかりません>アボカド由来の成分が抗がん剤の効果を高めることを発見 順天堂大学 [リンク切れ]
  7. ^ Tabe, Yoko; Saitoh, Kaori; Yang, Haeun; Sekihara, Kazumasa; Yamatani, Kotoko; Ruvolo, Vivian; Taka, Hikari; Kaga, Naoko; Kikkawa, Mika; Arai, Hajime; others (2018). “Inhibition of FAO in AML co-cultured with BM adipocytes: mechanisms of survival and chemosensitization to cytarabine”. Scientific reports (Nature Publishing Group UK London) 8 (1): 16837. doi:10.1038/s41598-018-35198-6. https://doi.org/10.1038/s41598-018-35198-6. 
  8. ^ Wanten GJ, Naber AH. Cellular and physiological effects of medium-chain triglycerides. Mini Rev Med Chem. 2004 Oct;4(8):847-57. doi:10.2174/1389557043403503. PMID 15544546
  9. ^ Croteau E, Castellano CA, Richard MA, Fortier M, Nugent S, Lepage M, Duchesne S, Whittingstall K, Turcotte ÉE, Bocti C, Fülöp T, Cunnane SC. Ketogenic Medium Chain Triglycerides Increase Brain Energy Metabolism in Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis. 2018;64(2):551-561. doi:10.3233/JAD-180202. PMID 29914035.
  10. ^ Ari C, Murdun C, Koutnik AP, Goldhagen CR, Rogers C, Park C, Bharwani S, Diamond DM, Kindy MS, D'Agostino DP, Kovács Z. Exogenous Ketones Lower Blood Glucose Level in Rested and Exercised Rodent Models. Nutrients. 2019 Oct 1;11(10):2330. doi:10.3390/nu11102330. PMID 31581549; PMC 6835632.
  11. ^ Fukao T, Lopaschuk GD, Mitchell GA. Pathways and control of ketone body metabolism: on the fringe of lipid biochemistry. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2004 Mar;70(3):243-51. doi:10.1016/j.plefa.2003.11.001. PMID 14769483.
  12. ^ 5.2 Recommendations for preventing excess weight gain and obesity, DIET,NUTRITION AND THE PREVENTION OF CHRONIC DISEASES, pp.61-71, Joint WHO/FAO Expert Consultation, 2003.
  13. ^ Markowiak-Kopeć, Paulina; Śliżewska, Katarzyna (2020-04-16). “The Effect of Probiotics on the Production of Short-Chain Fatty Acids by Human Intestinal Microbiome” (英語). Nutrients 12 (4): 1107. doi:10.3390/nu12041107. ISSN 2072-6643. PMC 7230973. PMID 32316181. https://www.mdpi.com/2072-6643/12/4/1107. 
  14. ^ Stamatopoulou, Panagiota; Malkowski, Juliet; Conrado, Leandro; Brown, Kennedy; Scarborough, Matthew (2020-11-28). “Fermentation of Organic Residues to Beneficial Chemicals: A Review of Medium-Chain Fatty Acid Production” (英語). Processes 8 (12): 1571. doi:10.3390/pr8121571. ISSN 2227-9717. https://www.mdpi.com/2227-9717/8/12/1571. 
  15. ^ 『世界大百科事典』、必須脂肪酸、平凡社、1998年
  16. ^ 板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年 ISBN 4-254-43514-2
  17. ^ a b I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは?脂質栄養学の新方向とトピックス
  18. ^ 浜崎智仁「13:00 ~13:40脂質と精神」金城学院大学/日本脂質栄養学会共催シンポジウムの抄録 6章p10『 脂質栄養学の新方向とトピックス
  19. ^ a b Stender, Steen; Astrup, Arne; Dyerberg, Jørn (2008-01). “Ruminant and industrially produced trans fatty acids: health aspects” (英語). Food & Nutrition Research 52 (1): 1651. doi:10.3402/fnr.v52i0.1651. ISSN 1654-6628. PMC 2596737. PMID 19109659. http://foodandnutritionresearch.net/index.php/fnr/article/view/1118. 
  20. ^ a b c d e f g h IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature (CBN) Nomenclature of Lipids(Recommendations, 1976)
  21. ^ 日本油脂化学協会(同協会編、『油脂化学便覧』、丸善、1998年)ではω9式ではなくω-9式の表記が示されている。
  22. ^ 板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年 ISBN 4-254-43514-2






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