脂肪酸の活性化とミトコンドリア内への輸送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 07:39 UTC 版)
「β酸化」の記事における「脂肪酸の活性化とミトコンドリア内への輸送」の解説
細胞内に取り込まれた脂肪酸は、その安定なC-C結合を克服するため、ミトコンドリア外膜の細胞質側に存在する酵素アシルCoAシンテターゼ (acyl-CoA synthetase) により触媒され、次の反応によって活性化される。 脂肪酸 + CoA + ATP ⇌ {\displaystyle \rightleftharpoons } 脂肪酸アシルCoA + AMP + PPi アシルCoAシンテターゼは脂肪酸チオキナーゼ (fatty acid thiokinase)と も呼ばれる。この反応は2つのステップで起こる。まず脂肪酸のカルボン酸イオンがATPのリン酸(β、γリン酸)と置換することで脂肪酸アシルアデニル酸 (fatty acyl adenylate) とピロリン酸 (PPi)が生成する。次に補酵素Aのチオール基がアシル基の炭素を求核攻撃し、脂肪酸アシルCoAとAMPを生成する。脂肪酸アシルCoAは高エネルギー化合物の一種であり、脂肪酸と補酵素Aに加水分解したときの標準自由エネルギー変化は ΔG'° ≈ {\displaystyle \approx } −31 kJ/molである。生成した脂肪酸アシルCoAはミトコンドリア内膜(植物の場合、グリオキシソームという細胞内小器官の場合もある)に運搬され、β酸化を受けるか、若しくは細胞質ゾルでの膜脂質の合成に利用される。 ミトコンドリア内膜はアシルCoAを直接透過しないため、カルニチン(膜中に保持される補因子様物質、ビタミンBTといわれていたこともある)が脂肪酸アシル運搬体の役割を果たす(動植物共通)。脂肪酸アシルCoAはカルニチンと一時的に結合し、脂肪酸アシルカルニチンを生成する。この反応はミトコンドリア外膜に埋め込まれたカルニチンアシルトランスフェラーゼI (carnitine acyltransferase I) により触媒される。脂肪酸アシルカルニチンは膜間スペースで生成される場合と外膜の細胞質ゾル側で生成する場合が考えられるが、今のところどちらの機構であるのかよく分かっていない。脂肪酸アシルカルニチンはアシルカルニチン/カルニチントランスポーター (acyl-carnitine/ carnitine transporter) を介する促進拡散により内膜を通過し、マトリックス内に移行する。そして脂肪酸アシル基が内面に局在する酵素カルニチンアシルトランスフェラーゼII (carnitine acyltransferase II) の触媒により、カルニチンからミトコンドリア内に存在する補酵素Aに転移されることで、脂肪酸アシルCoAが再生する。遊離のカルニチンはアシルカルニチン/カルニチントランスポーターを介して再び膜間スペースへと移動する。このような脂肪酸アシルCoAも輸送系をカルニチンシャトルという。ミトコンドリア内に入った脂肪酸アシルCoAはマトリックス内の酵素によって酸化を受ける。
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