嘔吐
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/06 04:21 UTC 版)
嘔吐 | |
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概要 | |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | R11 |
ICD-9-CM | 787 |
一般に過度の飲酒(飲み過ぎ)や摂食(食べ過ぎ)、腐敗・変質した食品の摂取(食中毒)、過度の運動、体調不良などの際にまず脳内の「嘔吐中枢」が刺激され、「吐き気」を催し、それに続いて嘔吐する。ただし、特に乳幼児や泥酔している場合など、吐き気が来ないままいきなり嘔吐する場合もある。
また、車や船舶、遊園地の遊具などで長時間もしくは激しく揺れる環境下にあった場合、「乗り物酔い」が発生して嘔吐に至る場合がある。この他、高温になる閉所、きつすぎる衣服(特に着物)、帽子、ヘルメット、日本髪の鬘などの重量があったり蒸れたりする物を長時間着用した場合や、他者の嘔吐(いわゆる「もらいゲロ」)、吐瀉物や排泄物などを見たり聞いたり各種の悪臭を嗅いだり、不快な映像・音声を見たり聞いたりした場合にも、精神的なストレスから、吐き気・嘔吐を引き起こす場合が多い。嘔吐行為を強制的に停止させようとするとパニック状態に陥る場合がある。
診断
診断の手掛かりとなる情報としては24時間以内に摂取した食物や旅行歴の他、腹痛、下痢、便秘といったその他の腹部症状、排ガス(屁など)や冷や汗の有無など重要である。排ガス、排便がなければ閉塞性の消化器疾患が疑われる。既往歴に腹部の手術歴や心疾患、糖尿病、産婦人科的な疾患歴などがある場合はそれが影響している可能性がある。周囲に同様の症状の人がいれば食中毒の可能性もあり、アルコール多飲歴はAKAの手掛かりとなる。内服薬も嘔吐の原因の手がかりになる。
バイタルサインでは意識障害、呼吸不全が認められる場合や、高血圧な割に徐脈というクッシング徴候が認められる場合は中枢性疾患を疑う。発熱が認められれば感染症、徐脈や不整脈が認められれば心血管疾患、呼吸不全が認められるときはDKAといった代謝性疾患も疑う。発熱、嘔吐を伴い消化管感染を特に疑う下痢の症状がない場合は髄膜炎も疑われる。髄膜炎を疑う不随意運動や皮質症状、高熱、髄膜刺激症状が認められる場合は頭部CT撮影後、腰椎穿刺を行う。特に細菌性髄膜炎は緊急疾患である。
経口摂取、経口薬の内服が不可能であり、脱水している場合があるため原則としては採血、点滴を行う。 検査では閉塞性疾患を考える場合はまずは腹部単純X線撮影をおこなう。排ガスや排便の停止が認められる場合は非常に重要な検査となる。重篤な疾患の見落としを避けるには頭部CTや心電図、尿検査を行う。血糖値が250mg/dlであればDKAを疑い、動脈血液ガスや尿中ケトン体を測定する。機能的な閉塞は腹部単純X線撮影が分かりやすい。これは必ず立位と臥位で撮影を行う。機械的な閉塞、大腸癌や絞扼性イレウスを疑う場合は造影CTを検討する。絞扼性イレウスの場合は腹水の貯留が認められることが知られ、単純CTでも見分けることができることもある。
鑑別診断
悪心、嘔吐は延髄にある嘔吐中枢によって制御されている。消化器、心臓、前庭、脳実質の障害によって嘔吐は誘発される。中枢神経系の障害による嘔吐は悪心を伴わないのが一つの特徴である。消化器の異常が最も多いがそれ以外の疾患も数多い。特に急性冠症候群が悪心、嘔吐のみしか認められないことがあり注意が必要である。診断学上は下痢といった下部消化器症状の有無が重要である。下部消化器症状が認められる場合は中毒(特に薬物ではジゴキシンやテオフィリンが有名)によるもの以外は消化器疾患である可能性が高い。特に見逃すと重篤な疾患としては脳内病変としては脳出血や髄膜炎があげられる。無痛性心筋梗塞は糖尿病患者や高齢者で多いとされている。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)、腎盂腎炎、妊娠、敗血症、絞扼性イレウス、急性胆嚢炎、急性膵炎などが重要である。これらの疾患は下痢といった下部消化器症状を伴わないことが多い。
悪心、嘔吐を起こす疾患としては具体的には以下のような疾患が考えられる。
分類 | 疾患 |
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閉塞性消化器疾患 | イレウス、幽門狭窄、便秘 |
非閉塞性消化器疾患 | 急性胃炎、急性胃腸炎、急性膵炎、消化管穿孔、急性胆嚢炎 |
感染症 | 敗血症など |
眼科疾患 | 緑内障など |
耳鼻咽喉疾患 | 良性発作性頭位めまい症、乗り物酔いなど |
心血管疾患 | 急性冠症候群、急性大動脈解離など |
神経疾患 | 脳血管障害、髄膜炎、頭蓋内圧亢進症など |
代謝内分泌疾患 | 尿毒症、糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス |
泌尿器疾患 | 腎炎 |
産科疾患 | 妊娠性悪阻 |
薬物 | ジゴキシン、テオフィリン、カルバマゼピン |
中毒 | きのこ中毒 |
アレルギー疾患 | 消化管アレルギーやアナフィラキシー |
精神疾患 | 拒食症、過食症など |
早期の治療が必要な場合
- 前述した要因に当てはまらず、頭痛など他の部位の症状を伴う嘔吐の場合には、臓器や脳・神経系の損傷などといった、別の病因による副次的な症状である可能性があり、場合によっては生命の危険に関わる。このため早急な医師の診察が必要である。
- 一般的に嘔吐した場合、吐瀉物は胃酸を中心に胃の内容物である。胃炎や胃潰瘍などの病気により発生した場合には、それら以外に血液を含む場合がある。状態によって以下のような、それぞれ別の原因によるものである。
- 茶褐色である(胃酸と反応するため)
- 鮮血を吐く(赤い・量が多いなど)
- 咳き込んだ際にも血液が混じる
吐き方・吐かせ方
嘔吐物が気管に入らないように頭を下に向けて吐かせる。吐くだけ吐いてすっきりさせる。気分が悪く吐きそうだが吐けないなどの場合は、指を舌の奥に入れるなどの嘔吐反射を用いる。特に臭気が不快感を催させるため、吐瀉物の処理はし尿など汚物全般に準じ、また嘔吐に際して着衣が汚れないよう注意を必要とする。吐いた後は十分に水分および塩分補給をすべきであるが、その際に冷たいものを飲ませるとそれが胃に刺激を与え、さらに吐いてしまう場合がある。そのため、体温程度に温めたスポーツドリンクなどを与えるのが望ましい。
意識を失っている場合や、意識がはっきりしない場合などは、嘔吐の後に窒息する危険性があるため、喉の奥や鼻腔の中に吐瀉物が詰まっていないか注意する必要がある。緊急的には指でかき出したり、後ろから抱きかかえて鳩尾(みぞおち)を斜め後ろ上方に押し込んだりするなど、喉の奥にモノが詰まった時同様の処置をする。乳幼児の場合などでは、逆さにして背を強く叩いたり、大人が口で幼児の鼻と口を覆って吸い出したりすることも行われる場合がある。
吐かせた、または吐いた後は、患者に回復体位を取らせるのが望ましい。回復体位を取らせるのが難しい場合は、嘔吐物により窒息しないために、身体を横に向けて寝かせる。特に意識が朦朧としている場合や意識を失っている場合、嘔吐物が気管に入り、窒息の危険がより高まるために仰向けに寝かせてはならない。
また、飲み込んだ物を強制的に吐かせるために催吐薬を用いる場合もある。
- ^ 酔客の「落とし物」マシンで処理/嘔吐物清掃 求人難で開発/JR子会社 来年2月にも配備『東京新聞』朝刊2018年12月18日(社会面)2018年12月23日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “バスの車内で吐く寸前になってしまったら…?【ご質問に回答します!】”. www.bushikaku.net. 2022年6月3日閲覧。
- ^ スンクス嘔吐実験モデルの確立とその応用
- ^ 実験動物スンクスの紹介
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