転生先
『国家』(プラトン)第10巻 死者の魂たちは、神官の投げ与えたくじの順位に従って、次にどのような生涯を送るかを決める。オルフェウスは白鳥の生涯を、アガメムノンは鷲の生涯を、オデュッセウスは平穏な一私人の生涯を、それぞれ選ぶ。動物たちも、人間に転生したり、他の動物に転生したりする→〔冥界の川〕4。
*→〔誕生〕12の『青い鳥』(メーテルリンク)の「未来の王国」の子供たちは、転生ではないが、何をするか決めてから地上に生まれる、という点で、転生の物語と類似するところがある。
『冥祥記』巻4 死んで地獄へ赴いた者たちは、拷問と処罰が終わった後、受変形城へ行き、転生先を指定される。そこでは数百人の冥吏たちが書類をつきあわせながら、「殺生をした者は蜉蝣(かげろう)にする。朝生まれて夕方死ぬのだ。盗人は豚や羊にして、屠殺されるようにする。淫乱な者は、鶴や家鴨や鹿の類にする。嘘つきは梟やミミズクにする。借金を踏み倒した者は、ロバ・ラバ・牛・馬にする」などと言っていた。
『勝五郎再生記聞』(平田篤胤) 多摩郡程窪村の百姓の子藤蔵は、文化7年(1810)、6歳の時、疱瘡を病んで死んだ。藤蔵は、白髪を長く垂れて黒い衣服を着た翁に導かれ、段々に高い綺麗な芝原へ行って遊んだ。その後、翁は、中野村のある家を指して「あの家に生まれよ」と言った。文化12年(1815)、藤蔵はその家に再生して、「勝五郎」と名づけられた。
『古今著聞集』巻1「神祇」第1・通巻24話 ある人が岩清水八幡宮に通夜して、次のような夢を見た。「御殿の戸が開き、中から気高い声が『武内』と呼ぶ。白髪の老人(=武内宿禰。*→〔長寿〕1aの『因幡国風土記』逸文)が、神前に進み出てかしこまる。気高い声は『世が乱れようとしている。汝はしばらく北条時政の子となって世を治めよ』と命じ、老人は応諾する」。ここから考えると、北条義時朝臣は武内宿禰の御後身(=生まれ変わり)なのであろう。
『今古奇観』第14話「宋金郎団円破氈笠」 宋敦夫妻は子授けを願って娘娘廟に参詣し、帰途、瀕死の乞食僧のために棺桶を買い、葬式代も出してやった。僧は恩に報いるため、宋敦夫妻の子・宋金として生まれ変わった→〔経〕1a。
『酉陽雑俎』巻13-493 詩人・顧況が、17歳の息子の死を悲しむ詩を吟じ、慟哭する。息子の魂はそれを聞いて、「再び顧家の子になろう」と誓う。幾日か後に、誰かが息子の魂をとらえ、ある所へ連れて行き、県吏のような者が「顧家に生まれよ」と裁定した。男児として誕生し、7歳になった時、兄に叩かれたので、「僕はお前の兄だ。なぜ兄を叩くのか」と言った。家中が驚き怪しんだが、前生のことを語ると、ありありとして正確だった。「私(『酉陽雑俎』の著者・段成式)」の友人・顧非熊が、その人である。
★3a.何気ない一言や、死ぬ時に見たものによって、転生先が決まる。
『屍鬼二十五鬼』(ジャンバラダッタ本)第21話 敵が攻めて来たため、夫プラターパセーナは妻ルーパヴァティーを捨てて逃げる。妻は死ぬ時牝象を見たので、牝象に生まれ変わる。夫は牡象に転生し、妻と再び結婚する。しかし象捕獲人を見て夫は逃げ、妻は死ぬ時に見た雌鹿に生まれ変わる。夫は雄鹿に転生し、またしても逃げ、妻は雌鳥を見て死に、雌鳥になる。夫は雄鳥になり、そして逃げ、妻は遊女の水浴を見て死に、遊女の胎内に誕生する。
『日本霊異記』中-41 身が軽く飛ぶ鳥のように速く走る児がいた。父親が喜び「善きかな我が児。疾く走ること狐の如し」と言った。すると、この児は死んだ後、狐に生まれ変わった。
『往生要集』(源信)巻中・大文第6「別時念仏」 臨終時の一念は、百年の修行にも勝るものである。この瞬間を過ぎれば、次に生まれる処が決定する。それゆえ臨終を迎えた者は、一心に念仏を唱えて西方極楽浄土を想い、往生すべきである。
『太平記』巻16「正成兄弟討死の事」 楠正成・正季兄弟は足利の大軍に敗れ、湊川で自害する。正成が「死ぬ瞬間の思いによって転生先が決まるというが、九界(=仏界以外の、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間などの迷いの9つの世界)のうちのどこへ生まれ変わりたいか?」と問うと、正季は「7度までこの人間界に生まれて、朝敵足利を滅ぼしたい」と答える。正成は「我も同じ」と言い、兄弟2人は刺し違えて死ぬ。
*死ぬ時の思いによって、天国へ行くか地獄へ行くか決まる→〔天国〕3の『ある抗議書』(菊池寛)。
『テディ』(サリンジャー) テディは前世はインドにいて、霊的にかなり進んだ人間だったが、死ぬとまっすぐ宇宙原理の梵(ブラフマ)に達して、2度とこの世に戻らなくてもすむ段階にまでは到っていなかった。彼は1人の女性にめぐり会ったために、アメリカ人の肉体に生まれ変わることとなった。アメリカでは、瞑想したり霊的な生活を送ったりすることが非常に難しいからだ。
★5.転生先を間違える。
『転生』(志賀直哉) 夫婦が、「来世に生まれ変わるなら、豚がいいか狐がいいか」と相談し、結局、「夫婦仲の良い動物である鴛鴦(おしどり)になろう」と約束する。何十年か後、夫は死んで、約束どおり鴛鴦になったが、妻は何に生まれ変わるか忘れ、間違えて狐に転生する。狐は鴛鴦と出会い、それを夫と知りつつ、空腹に堪えかねて食ってしまった〔*後年、志賀直哉は、婦人雑誌などのアンケートで「生まれ変わっても現在の奥様と再び結婚したいと思いますか?」という問いがあったら、「家内が望むなら、再び結婚しても良し、望まないならば、それもまた良し」と返事してやろうと、意地の悪いことを考えた。しかしそのことを妻には言わなかった(『妙な夢』)〕。
*→〔転生する男女〕2aの『宝物集』巻5も、夫婦の転生の悲劇。
*間違えて雌豚の胎内に宿る→〔豚〕2cの『西遊記』百回本第8回。
★6.転生先を知らせる。
『浜松中納言物語』 式部卿宮は死後、「私は唐帝の第三皇子に転生した」と息子の中納言に夢告し、中納言は唐へ渡って第三皇子と対面する。中納言は、第三皇子の母・河陽県の后と契りを交わし、生まれた若君をともなって帰国する。河陽県の后は、唐土で病死する(*→〔声〕1a)。彼女は「私は転生して、吉野の姫君(=河陽県の后の異父妹)の胎に女児として宿った」と、日本の中納言に夢告する。
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