航空機による機銃掃射
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/04 05:56 UTC 版)
基本的に航空機は、低速の機体であっても地上や海上を移動する物体よりも速いことが多いため、一度狙われたら十分な強度を持つものの陰に隠れるか、対空機関銃砲・高射砲・地対空ミサイルなどの対空兵器で返り討ちにする以外に振り切ることは困難である。航空機による機銃掃射は地上銃撃、地上砲撃とも呼称される。 戦闘機を筆頭とする軍用機が携行できる航空機関銃砲の銃砲弾の数量は、機種にもよるが1銃砲あたり大口径弾100-300発、小口径弾で500発程度であり、発射速度が高く携行数に限りがある航空機関銃砲ゆえに、掃射時間は連続時間にして数秒-数十秒程度である。しかし、大口径の対物対人弾による機銃掃射は制圧力が非常に高く、軽装甲の戦闘車両や列車・輸送船舶や待避壕などの装甲は容易に貫通するうえ、人体に命中すれば致命傷を負わせることになり、効果は非常に高い。 また、操縦士が航空機関銃砲で破壊できると判断したものは全て掃射の目標になり、ロケット弾などのより強力な攻撃手段を有する場合、移動しない状態にある物体や移動できない物体は、格好の攻撃目標になる。なお、7ミリメートル (mm)クラス程度の銃火器では、撃たれることを前提にして重要部分が装甲化された攻撃機型の軍用機に対して十分に対抗することは難しい。 トーチカなどの重防護設備などは、銃砲弾の貫徹力不足があり攻撃対象には向いていないが、軽装甲・非装甲のもののほか、戦車であっても上面装甲は薄いために機銃掃射の対象となる。また、心理的制圧力などから、必ずしも目標物の破壊や殺傷を目的としない機銃掃射も盛んに行われる。 第二次世界大戦中においては、特に機銃掃射を重視した機体としてB-25G/H ミッチェルが開発され、太平洋戦線に投入された。B-25Hは、前方に向けた75mm砲1門のほか、12.7mm機銃8丁を装備し、B-25Jも12.7mm機銃6丁を装備し、日本軍の地上部隊・艦船攻撃に威力を発揮した。 機銃掃射の絶好の攻撃目標は、燃料タンクや燃料輸送車両・輸送船団・製油所・パイプラインなどであり、あるいは武器弾薬の輸送部隊や補給基地・備蓄倉庫など引火性・爆発性のある攻撃対象には極めて有効である。そのほかにも移動する物体の中で特に狙われやすいものを以下に掲げる。 列車 列車は、基本的にレール上しか移動せず、ジグザグ走行や急激なハンドル操作などの自動車や戦車が当然のように行う回避行動ができないため、移動中であっても移動先を簡単に予測して見切り射撃ができることから、航空機が兵器として確立して以来、機銃掃射で狙われやすい目標になった。 第二次大戦時までは装甲列車や列車砲なども用いられており、列車輸送が兵站の中心でもあった。このことから、連合軍は防空力の低下したドイツおよび日本の勢力圏内において、機関銃の他にロケット弾を使用して積極的に列車を牽引する動力となる機関車を破壊し、列車の足を止めた上で路線を不通にしたり、積荷や客車などへの攻撃を行った。 列車側は、編成に組み込んだ対空兵器を積載した貨車から応戦しながら、トンネルに逃げ込むなどの方法がある。 船舶 船舶は、小型の高速ボートであっても一般に考えるより回避能力が小さいため、機銃掃射の目標になりやすい。また、潜水艦に対しても機銃掃射を仕掛けているケースもある。外洋では隠れる場所がないため、複数機により、空中戦のロッテ戦術の要領で反復して攻撃された場合は、敵機が弾切れや燃料切れを起こして帰還するまで逃げ回るか、船舶に装備された機関銃などの武器で撃墜する以外には、なす術がない。 特に輸送船のように防御力の低い艦船は、ブリッジを攻撃されて機能を失った場合は撃沈の憂き目を見ることにつながりかねない。また、たとえ対空戦闘能力を有し、防御力のある戦闘艦艇であっても、対空砲の砲座などに対する機銃掃射は有効であり、第二次世界大戦中のアメリカ海軍では、航空機が日本海軍の軍艦を相手にする際は、事情が許す限り、雷撃などの本格的な攻撃を繰り出す前に対空機銃座に向かって機銃掃射とロケット弾による攻撃を行うことによって、対空機銃座を沈黙させるのが常であった。 なお、日本海軍の駆逐艦「如月」のように、アメリカ海軍のF4F ワイルドキャット艦上戦闘機の12.7mm弾の機銃掃射が「撃沈」の一因となった例もある(魚雷ないし爆雷の誘爆)。 人間 兵士や民間人に対する恐怖攻撃として実施するもの。人間は、車両・船舶に比較して標的が小さいものの、開けた場所を動き回る人間は、低空まで降下した航空機のパイロットの目には非常に目立つため、これも機銃掃射の目標となる。 特にアメリカ軍は、太平洋戦争において日本軍に対して航空機の機銃掃射による対人攻撃を積極的に行った。輸送船などの防御力の低い艦船やその乗員、地上に展開する兵士への攻撃が繰り返された結果、有効な対空兵器をほとんど装備していなかった日本軍が受けた被害は甚大なものとなった。
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