魚の腹
『頭てん天口有(あたまてんてんにくちあり)』(四方山人) 秋葉神社からの魔風に連判状が吹き飛ばされ、生簀に落ちる。葛西太郎が芦の葉で筏を組んで池に浮かべ、鯉を1本取り出して洗鯉としたところ、鯉の腹の中から連判状が出た。
『石山寺縁起』巻5 東国の人が所領争いの訴訟のため上京し、安堵(=所有公認)の院宣を得て帰国する。ところが、下人がうっかりして大事な院宣を川中へ落としてしまう。困った下人は石山寺に参籠し、「宇治川辺で魚を買えば院宣が出る」との夢告を得る。下人は宇治川に駆けつけ、3尺の鯉を買って腹を割くと、中から院宣が見つかる。
『グレゴーリウス』(ハルトマン)第4~5章 贖罪を求めるグレゴリウスの脚に鉄の足枷がはめられ、その鍵を漁師が海中に投ずる。17年後、漁師の釣った魚の腹から鍵が見出され、グレゴリウスの罪が神によって許されたことが明らかになる。
『シャクンタラー』(カーリダーサ)第5~6幕 シャクンタラーは、ドゥフシャンタ王から与えられた記念の指輪を、聖水を拝む時に落として失う。仙人の呪い(*→〔呪い〕8)によって、その指輪が見つかるまでの間、ドゥフシャンタ王はシャクンタラーを忘れる。シャクンタラーが王宮を訪ねても、王は彼女が誰だかわからない。後に、漁師の捕らえた鯉の腹中から指輪が出て来て、ドゥフシャンタ王の手に渡る。王はシャクンタラーを思い出す。
『太平記』巻23「大森彦七が事」 悪七兵衛景清が壇の浦で落とした刀を、江豚(いるか)が呑みこむ。江豚は讃岐の宇多津の沖で死に、刀は海底に沈んで百余年を経て後、漁師の網に引かれて大森彦七の手に入る。
★2.魚の腹から珠が出る。
『南総里見八犬伝』第3輯巻之2第23回 犬飼現八(幼名玄吉)が誕生した七夜の祝いに、父糠蔵が鯛を釣って包丁を入れると、腹中から「信」の文字のある珠が出た。
★3.魚の腹に物を隠す。
『宇治拾違物語』巻15-1 大友皇子が、吉野山にこもった皇太子〔*後の清見原天皇=天武天皇〕を殺そうと謀る。皇太子の娘(=大友皇子の妃)がこれを知り、危険を知らせる手紙を、鮒の包み焼き(=鮒の腹に昆布・柿・栗・胡桃などを入れて焼いたもの)の中に隠して、父(=皇太子)に送った。皇太子は吉野山を脱出し、軍勢を集めて大友皇子を討った。
『猿源氏草紙』(御伽草子) 昔、内裏へ魚を売りに行った男が、美女今出河の局に心奪われ、鮒の腹に恋文を入れて奉った。焼いた鮒の腹から出た文を見て今出河の局はあわれと思い、位を捨てて魚売りと契りを結んだ(猿源氏が南阿弥に語る挿話)。
『史記』「陳渉世家」第18 秦に対して反乱を起こそうとする陳勝・呉広が、絹に「陳勝、王たらん」と朱書して魚の腹中に入れておいた。何も知らぬ兵卒がその魚を煮て食べ、腹中の書を見つけて不思議がった。
『史記』「刺客列伝」第26 刺客専諸は焼き魚の中に匕首(あいくち)を隠し、酒宴の席で呉王僚を暗殺した。
『太平記』巻4「呉越軍の事」 囚われの越王を励ますため、忠臣范蠡は魚売りに変装し、書を魚腹に収めて獄中に投げ入れた〔*『三国伝記』巻6-11に類話〕。
『今昔物語集』巻2-20 継母の手で川につき落とされた少年ハクラは、魚に呑まれる。その魚は釣り上げられ市に出されて、ハクラの父がそれを買う。魚の腹を開くとハクラが出てくる。ハクラは後に出家して、160歳まで健康に過ごした。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第5日第8話 森へ捨てられた兄妹が離れ離れになる。妹ネッネッラは大魚に呑みこまれ、ある島まで運ばれる。そこで兄ニッニッロが大公に仕えているのを、大魚の口の奥からネッネッラは見つけ、兄妹は再会する→〔道しるべ〕1a。
『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「海の冒険」第3話 「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」は地中海で泳いでいた時、大魚に呑まれた。「ワガハイ」は大魚の胃袋の中で、激しく足踏みをして踊ったので、大魚は苦しんで水面から半身を出し、イタリア商船に銛で撃たれた。大魚は甲板に上げられ、「ワガハイ」は腹中から出た。「ワガハイ」が大魚の腹中にいたのは、2時間半ほどだった。
『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「その他のめざましい冒険」 「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」は、大勢の乗組員の乗る船ごと大怪魚に呑みこまれた。魚の胃の中にはすでに、各国出身の1万人の人々がいた。「ワガハイ」たちは、魚があくびをした時に帆柱をつっかい棒にし、魚が口を閉じないようにしておいて、35隻の船団で脱出した。
『ヨナ書』 ヨナは嵐の海に投げこまれ(*→〔くじ〕2a)、巨大な魚に呑まれた。ヨナは3日3晩、魚の腹の中にいて神に祈る。神が魚に命じ、ヨナを陸に吐き出させる。ヨナは神の命令に従い、預言者となった〔*後に、イエス=キリストが自らの死と3日後の復活について、「ヨナが3日3晩、大魚の腹の中にいたように、私も3日3晩、大地の中にいることになる」と予告する(『マタイによる福音書』第12章)〕。
『しっかり者の錫の兵隊』(アンデルセン) 窓ぎわへ置かれた一本足の錫の兵隊が、窓から落ち溝を流れ、大きな魚に呑みこまれる。暗く狭い魚の腹の中で、錫の兵隊は鉄砲をかついだ姿で横たわる。
『ピノキオ』(コローディ) ジェペット爺さんが作った人形ピノキオは、学校へ行く途中で教科書を売り払い、遊びに出かけて、行方知れずになる。ジェペット爺さんはピノキオを捜して海に行き、フカに呑まれる。ピノキオもさまざまな冒険の後にフカに呑まれ、フカの腹の中でピノキオとジェペット爺さんは再会する。
- 魚の腹のページへのリンク