M60パットン M60パットンの概要

M60パットン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 01:10 UTC 版)

M60 パットン
性能諸元
全長 9.309m[1]
車体長 6.946m[1]
全幅 3.6m
全高 3.3m
重量 52t
懸架方式 トーションバー方式
速度 48km/h
行動距離 450km
主砲
M60/A1/A3
51口径 105mm M68
副武装
M60/A1
M60A1RISE/A3
装甲
M60
砲塔
  • 最大 178mm
車体
  • 前面上部93mm
  • 前面下部85mm-143mm
  • 側面36-74mm
  • 上面前部 36mm
  • 機関室上部20mm
  • 底面前部19mm
  • 底面後部13mm
  • 後面上部41mm
  • 後面下部30mm
M60A1/A3
砲塔
  • 防盾114.3mm
  • 前面最厚部178mm
  • 側面76.2mm
  • 後面51mm
  • 上面前部45mm
  • 上面後部51mm
  • 銃塔型キューポラ 25-35mm
車体
  • 前面上部93mm
  • 前面下部85mm-143mm
  • 側面36-74mm
  • 上面前部 36mm
  • 機関室上部20mm
  • 底面前部19mm
  • 底面後部13mm
  • 後面上部41mm
  • 後面下部30mm
エンジン コンチネンタル AVDS-1790-2
4ストロークV型12気筒ターボディーゼル
750HP(560kW)
乗員 4名
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概要

ソ連T-54/55に脅威を覚えた[3]アメリカ陸軍が、1956年に開発を開始した。

それまで、出力重量比が良い事や構造が簡易な事から戦車用にガソリンエンジンを採用して来たアメリカ軍も、本車に至り被弾時の安全性や燃費の良さから最初からディーゼルエンジンを採用し、主砲90mm戦車砲からイギリス105mm戦車砲L7A1に換装し、攻撃力を格段に向上させた。

演習で西ドイツの村落を通過するM60A1
防盾上には白色光/赤外線投光器が装備されている。(1982年の撮影)

数々の改良点はあるものの、M48との根本的な差異はなく、総合的にはM48の改良型である。本来は、ソ連のT-55に対抗しうる本格的な次期主力戦車が登場するまでのストップギャップであり、短期間で引退する予定であったが、肝心のMBT-70計画の頓挫により長期に渡って使用される事となり、各型の合計生産台数は約2万輌を数え、アメリカ軍のみならず西側諸国の標準的主力戦車となった。

アメリカ軍では、1991年湾岸戦争まで使用され、その後も現在に至るまで各国で改良を重ねられて運用されている傑作戦車であることは間違いないが、旧式化も進行しているため、様々な近代化改修プランが各国のメーカーから提案されている。

特徴

M60はM48戦車の発展形であり、各部の構成もほぼ同一だが、M48の車体前部が丸みを帯びた鋳造製であるのに対し、M60では直線的な楔形の鋳造製となっていた。また、転輪やフェンダーなどにアルミ合金を採用し軽量化を図った[注 2]砲塔はM48のものを引き継いだ形状[注 3][注 4]の亀甲型鋳造砲塔で、改良型のA1型からは"ニードル・ノーズ"(Needle Nose:細鼻形)もしくは"ロング・ノーズ"(Long Nose:長鼻形)と呼ばれる、全体的に細く絞った形状ものに変更された。

1970年代には、M60A1に「RISEReliability Improvements for Selected Equipment:信頼性向上および装備近代化)」と呼ばれる近代化改修が施された。更に射撃管制装置(FCS)を中心に改良したM60A3が開発され、M1エイブラムスが配備された後も1990年代まで現役で使用された。アメリカ海兵隊イスラエル国防軍の使用車両には、爆発反応装甲も装着された。

パットンシリーズの比較
M46 M47 M48 M60
画像
世代 第1世代 第2世代
全長 8.48 m 8.51 m 9.30 m 9.309 m
全幅 3.51 m 3.65 m 3.60 m
全高 3.18 m 3.35 m 3.10 m 3.30 m
重量 44 t 46 t 49 t 52 t
主砲 50口径90mmライフル砲 50口径90mmライフル砲 43口径90mmライフル砲(A1-A3)
51口径105mmライフル砲(A5)
51口径105mmライフル砲
副武装 12.7mm重機関銃M2×1
7.62mm機関銃M1919A4×1
12.7mm重機関銃M2×1
7.62mm機関銃M73×1(A1-A3)
7.62mm機関銃M60E2×1(A5初期)
7.62mm機関銃M240C×1(A5後期)
 12.7mm重機関銃M85×1
7.62mm機関銃M3/M60E2×1(A1)
7.62mm機関銃M240×1(A1RISE/A3)
エンジン 空冷4サイクルV型12気筒
ガソリン
空冷4サイクルV型12気筒
ツインターボチャージャーガソリン(A1/A2)
ツインターボチャージドディーゼル(A3/A5)
空冷4サイクルV型12気筒
ツインターボチャージド・ディーゼル
最大出力 810 hp 810 hp(ガソリン) / 750 hp(ディーゼル) 750 hp
最高速度 48 km/h
懸架方式 トーションバー
乗員数 5名 4名
装填方式 手動

実戦での運用

M60はアメリカ軍に採用されたが、激化するベトナム戦争には投入されず、主にヨーロッパ派遣部隊で使用された。M1エイブラムスが導入されるまではアメリカ軍戦車の代表として、ヨーロッパでの演習の報道を始めとしてメディアに多く露出する車両でもあった。M1の制式採用後もアメリカ海兵隊では永らく装備されていた[注 5]が、湾岸戦争を最後にほとんどが退役した。

イスラエルに供与された車両は、第四次中東戦争以後の数々の紛争に投入され、近代化改修を加えられた車両は現在も使用されている。アラブ諸国に導入された車両は、第四次中東戦争を始めとしたイスラエルとの戦闘に投入され、M60同士の交戦も発生している。アラブ側がT-72を投入した際にはイスラエル側はブレイザーERA装備型のM60で対抗したが、数両が撃破されるなど少数の被害が出ている[3]

イランに供与された車両は、イラン・イラク戦争イラクの装備するソ連製戦車と交戦している[注 6]

21世紀に入ると世界的に退役が進んでいるが、トルコに供与された車両は、2014年においても過激派組織ISILの進撃に備えて展開した姿が見られている。

本車は、車内容積にかなりの余裕があり、幾度の改良にも対応でき、同時期に出現したソ連のT-62との戦力差に関しては、第四次中東戦争にてイスラエルが鹵獲した車両を分析したアメリカ軍はM60の方が性能面でリードしていると評した。M60はT-62に比べて砲塔高があるために全高が1メートル近く高く、被発見率や被弾性において不利であるとされていたが、砲塔高があることは主砲俯角を大きく取る事が可能であり、実戦ではM60の方が地形を利用して車体を晒さずに砲撃を行う事が可能であり、T-62に対し有利であったとされる。


注釈

  1. ^ M60およびM60A1は"スーパーパットン"(SuperPatton)の名称で記述されていることがあるが、これはあくまで非公式の愛称である。また、M60A1は"シャイアン"、M60A3は"スーパーシャイアン"と呼ばれていることがあるが、これは、タミヤ模型が発売したプラモデルキットに付けた商品名である
  2. ^ もっとも、このため熱帯のジャングルのような地域では、M48よりも走破性で劣ると乗員は評価している。そのため、一部車両は車輪をM48用の鋼製転輪に換装している
  3. ^ ほぼ同一の形状ではあるが、M48の砲塔を砲だけ換装したわけではなく、装甲厚が全体的に増しており、砲塔側面上端から天面にかけてのラインが異なる。外見上の識別点は、3箇所の吊り下げ用フックの位置が異なっている(M48は前部上面1ヶ所/後部側面2ヶ所、M60では前部側面2ヶ所/後部上面1ヶ所、と逆になっている)ことである。
  4. ^ M60の生産車のうち230両はM48より改装されて製造されているため、M48と同一の砲塔を搭載している
  5. ^ M1の陸軍への配備が優先されたためと、海兵隊ではガスタービンエンジンを始めとする新機構の多いM1の信頼性に疑問が持たれていたことによる
  6. ^ 乗員の練度や軍の作戦指揮能力ではイラク側が優れており、イラン側の損害が大きいという結果となった。この戦争でイラク側に鹵獲されたM60は、他の鹵獲イラン軍戦車と共に「戦勝記念」として報道陣に公開されており、2003年のイラク戦争の後にはイラク軍のスクラップヤードで発見されている
  7. ^ M60A1E4は文献によっては"M60E2"の名称で記載されている。
  8. ^ M60A2は"チェロキー"の名称で記述されていることがあるが、これはM60A1を"シャイアン"と呼ぶのと同様にタミヤ模型が発売したプラモデルキットに付けた商品名である

出典

  1. ^ a b Foss, p. 166
  2. ^ a b Hunnicutt pp. 6, 408.
  3. ^ a b T-72戦車”. combat1.sakura.ne.jp. 2020年5月8日閲覧。
  4. ^ 2010年8月チェコ、レシャニ(Lesany)の軍事技術博物館での撮影
  5. ^ 1991年1月湾岸戦争時の撮影


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