難民
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/20 15:35 UTC 版)
難民のイメージとラベル
『「難民である」というのは例えば「日本人である」「女である」というような生まれ持った属性ではなく、社会がつけたカテゴライズであって、本人のアイデンティティーを表すものではない。』と東京大学大学院のとある研究者がコンゴ民主共和国における紛争・暴力をテーマにした映画『女を修理する男』の上映会・トークショー「私たちは私たちの(無)関心と どう付き合うか」の中で述べている(難民支援協会との共催)[25]。
オックスフォード大学の『難民研究ジャーナル』[26]でR・ゼッターが「最も強力なラベルのひとつ」と述べているように、「難民」ラベルの持つ効力が人道支援の必要性を強力に世界へ訴えかける一方、ラベルを援用した実務家らによる人権ビジネスへの加担も指摘されている。そのラベル効力で得た膨大な支援物資や活動費は、人類学者B・E・ハレル=ボンド[27]の言うところの「押し付け援助 (Imposing Aid)」へと繋がり、逆に難民の労働意欲や生活維持力を減退させ、難民キャンプ内をただの「要求集団化」させてしまう[28]。
難民の発生地域と数値
下掲した国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による2024年6月14日公表『Global Trends FORCED DISPLACEMENT IN 2023』の統計[29]では、2023年12月31日時点で世界における難民と庇護申請者の合計(下表の 難民、難民と同等の状況に置かれている者、庇護申請者、その他国際的保護を要する者の総計)は約4,425万人に上る。国内避難民や無国籍者などを含めた場合、約1億2,262万人となり、日本の人口に近い値(約1億2,429.9万人、2023年12月1日時点)[30]となっている。2022年5月以降は、1億人以上いる状況が続いている。
地域別では、中東を含めたアジアが最大の難民(40.1%)を有しており、次いでヨーロッパ(30.3%)、アフリカ(26.0%)の順である。ヨーロッパの場合、2022年ロシアのウクライナ侵攻によって発生したウクライナ出身難民の影響が大きい。
それに対して、庇護申請者(その他、国際的保護を要する者を含む)では南アメリカ(53.1%)が最も多く、次いで北アメリカ(23.9%)、ヨーロッパ(9.5%)の順となる。南アメリカの場合、国外に避難したベネズエラ人達の影響が大きい。
国内避難民や無国籍者などを含めた総数では、アフリカ(37.5%)が最も多く、次いで、アジア(29.0%)、南アメリカ(15.6%)の順となる。
地域名 | 難民(A) | 難民と同等の 状況に置かれている者(B) |
A+B | 庇護申請者 | その他、 国際的保護を 要する者 |
帰還民 (難民) |
国内避難民 | 帰還民 (国内避難民) |
無国籍者 | その他 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アフリカ | 822万6,204 | 0 | 822万6,204 | 106万5,029 | 0 | 63万1,805 | 3,156万7,222 | 314万1,354 | 102万8,694 | 28万3,299 | 4,594万3,602 |
アジア | 884万5,372 | 384万3,295 | 1268万8,667 | 55万7,470 | 0 | 9万5,668 | 1,978万4,857 | 63万1,916 | 282万2,282 | 29万1,730 | 3,561万1,325 |
ヨーロッパ | 776万2,200 | 182万6,894 | 958万9,094 | 119万3,669 | 0 | 32万4,590 | 399万13 | 131万8,794 | 49万1,771 | 97万2,075 | 1,782万314 |
南アメリカ | 38万1,722 | 12万2,075 | 50万3,797 | 111万9,390 | 557万2,863 | 5 | 749万9,374 | 0 | 2,117 | 439万3191 | 1,909万685 |
北アメリカ | 50万7,989 | 7万4,780 | 58万2,769 | 283万5,161 | 18万2,500 | 0 | 31万3,901 | 0 | 5,222 | 2,005 | 392万771 |
オセアニア | 4万1,877 | 5,000 | 4万6,877 | 8万7,780 | 0 | 0 | 9万6,000 | 0 | 8,102 | 3,250 | 23万6,146 |
無国籍又は多国籍 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 |
総数 | 2,576万5,364 | 587万2,044 | 3,163万7,408 | 685万8,4999 | 575万5,363 | 105万2,074 | 6,325万1,367 | 509万2,064 | 435万8,188 | 594万5,550 | 1億2,262万2,849 |
|
「Global Trends FORCED DISPLACEMENT IN 2023」とUNHCR日本支部ホームページに記載の「数字で知る難民・国内避難民の事実」>によれば、難民に関して、以下の事実を重要なポイントとしている [29][31]。
- 約74人に1人、全世界人口の1%以上が難民であること。
- 2018年から2023年の間に、難民から生まれた子供が約200万人誕生したこと。
- 難民4人につき3人(75%)が、中低所得国に逃れていること。
- 難民の69%が、近隣国に逃れていること。イランは約380万人近くの難民を、トルコは約330万人の難民を受け入れている。
- 無国籍の難民が約436万人存在し、ミャンマーから逃れた人々が多くいること。
- 18歳未満の未成年難民が、難民全体の約40%を占めていると推計されること。
国内避難民に関しては、国際移住機関(IOM)駐日事務所の2024年5月17日付のニュース[32]より、国連難民高等弁務官事務所が発表した国内避難民数の約6,325万人でなく、約7,590万人と発表した上で、以下のことについて発表している。
- 紛争や暴力に起因する国内避難民(約2,050万人)の内、約3割がスーダン紛争による国内避難民(約600万人)で占めた他、2023年10月より紛争が生じたガザ地区では、2023年末までの3カ月間だけで、全体の約17%にあたる340万人にまで国内避難民が生じた。
- 災害による国内避難民は、アフリカ南東部を襲ったサイクロン「フレディ」、トルコ・シリア地震、ミャンマーなどを襲ったサイクロン「モカ」などの影響で約2,640万人いること。2023年の新規難民及び国内避難民全体の半分以上 (約56%) を災害に関連した国内避難民であった。
次に、国別でみた場合、2023年末時点で最も多い難民(難民と同等の状況に置かれている者も含む)の出身国は、アフガニスタン(640万3,144人)である。次いで、シリア(635万5,788人)、3番目がウクライナ(596万362人)であり、4番目が南スーダン(229万2,482人)、5番目がスーダン(149万6,923人)であった。上位3カ国で約59.2%を占め、南スーダン・スーダンを含めた場合、約71.2%となる[29]。特にアフガニスタンとウクライナは、前者はターリバーンの武力による復権、後者は2022年ロシアのウクライナ侵攻により2021年から急激に増加している[33][34]。
国内避難民や無国籍者などを含めた総数では、最も多い国は、シリア(1,398万6,433人)である。次いで、ウクライナ(1,231万5,028人)であり、その次がスーダン(1,082万2,866人)、4番目がベネズエラ(1,059万6,489人)であり、5番目はアフガニスタン(1,004万5,243人)であった。上位3カ国で約30.3%を占め、ベネズエラとアフガニスタンを含めた場合、約47.1%となる。また、シリアとスーダンは、国内避難民の方が多い[29]。但し、ベネズエラ出身難民の場合は、約54%が「その他、国際的保護を要する者」に分類されていることに留意する。
国別でみた国外へ避難した難民の出身国と避難先の国で見た場合、2023年末時点で、最も多かったのが、アフガニスタンからイランへ避難している人は375万2,317人であり、約5人に3人がUNHCRにより支援された。次いで、シリアからトルコの321万4,780人であり、約3人に1人がUNHCRにより支援された。
また、世界の難民(難民及び難民と同等に置かれた者を含めた数)及びその他、国際的保護を要する者を合わせた数全体では、2023年で37,38 万2,657人である。その内、難民(難民及び難民と同等に置かれた者を含めた数)に属するグループでUNHCRに支援されたのは、全体の約54.1%(3,127万292人中1,692万7,573人[注釈 11])であった[35]。
難民出身国 | 避難先国 | 難民数 | UNHCRが支援した 難民数 |
UNHCR 支援率(%) |
---|---|---|---|---|
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3,752,317 | 2,264,234 | 60.3 |
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3,214,780 | 1,070,000 | 33.3 |
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2,852,294 | - | - |
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1,987,717 | 1,987,717 | 100.0 |
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1,227,554 | 43,017 | 3.5 |
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1,097,503 | 0 | 0 |
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1,048,528 | - | - |
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971,964 | 971,964 | 100.0 |
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955,891 | 254,380 | 26.6 |
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923,607 | 923,607 | 100.0 |
- 難民数は、難民及び難民と同等に置かれた者を合計した数である。
- この表でのベネズエラ出身難民は、難民だけでなく、その他国際的保護を要する者も含めた数である。また、UNHCR支援率はその他国際的保護を要する者の支援率が不明であるため、「-」としている。なお、難民及び難民と同等に置かれた者のグループのみで見た場合は、コロンビアは約0.9%(1,134人中10人)、ペルーは約34.8%(4,906人中1,707人)であった。
難民の種類
上述した通り難民には様々な形態があり、また国連機関、国家当局、国際NGOが捉える難民観に差異があるため、各組織を貫いて難民を理解するには無理が生じている。以下、様々な難民の類型を二項対立で示したが、二項のはざまに布置された人々や、難民に酷似しながら類型に含められない人々も存在している。
- 「真の難民 (Bona Fide Refugee)」と「偽の難民 (Mala Fide Refugee)」
- 「伝統難民 (Traditional Refugee)」[注釈 12]と「新難民 (New Refugee)」[注釈 13]
- 「避難民 (DP: Displaced Person)」と「国内避難民 (IDP: Internally Displaced Person)」
- 「条約難民 (Convention Refugee)」と「非条約難民 (Non-convention Refugee)」
- 「自発的難民 (Voluntary Refugee)」と「非自発的難民 (Involuntary Refugee)」
- 「政治難民 (Political Refugee)」と「経済難民 (Economic Refugee)」
- 「法定難民 (Statutory Refugee)」と「マンデート難民 (Mandate Refugee)」[注釈 14]
- 「海路難民 (Boat People)」と「空路難民 (Air People)」
- 「庇護申請者 (Asylum Seeker)」と「支援対象者 (POC: People of Concern)」
- 「強制移動民 (Forced Migrant)」と「自発移動民 (Voluntary Migrant)」[28]
- 「事前避難型難民 (Anticipatory Refugee Movement)」と「事後避難型難民 (Acute Refugee Movement)」[36]
注釈
- ^ 外務省はパンフレット「難民条約」を、「難民の地位に関する条約」と「難民の地位に関する議定書」に加入時に発行[8]、2004年3月[9]に増刷されている(A5判 68ページ)。改訂版は巻末に「難民の地位に関する条約」「難民の地位に関する議定書」のほか、参考資料として「条約及び議定書の締約国一覧」「条約と国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所規程との関係」が付属してある[10]。
- ^ 日本における法令番号は、「昭和56年条約第21号」。発効は、1982年1月1日。
- ^ ノン・ルフールマン原則:(避難民の)送致・送還の禁止の原則。
- ^ 緒方貞子は1991年から2000年の間、第8代国連難民高等弁務官を3期務め、「金の鳩賞」国際賞[20]を受賞。
- ^ 日本における法令番号は、「昭和57年条約第1号」。発効は、1982年1月1日。
- ^ 「出入国管理及び難民認定法」第2条第3号の2[21]において難民の用語が「第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう」と定義されており、当然に実運用も同一である[22]。
- ^ 災害難民は多くの場合、被災者が国内の別の地域に移動するため国内避難民と呼ばれることがある。
- ^ 避難民 (DP):Displaced Person。
- ^ 庇護申請者 (Asylum Seeker):UNHCRによれば、自国を追われ、他国で難民としての地位と保護を求める人々を言う。UNHCRが難民と認定した場合でも、第一次庇護国の政府が難民と認めない場合がある。
- ^ 国内避難民 (IDP):Internally Displaced Person) — 難民は、国境を越えて初めて認定される。しかし、UNHCRによれば「国内に留まりながらも故郷を追われ、難民と同じような境遇にある人々」が多数存在するとしている。
- ^ 避難先の国で、避難した同じ出身国の1000人以上の難民グループを対象としており、全世界の難民(同等に置かれている者も含む。)の約99%をカバーしている。
- ^ 伝統難民:難民条約の定義に該当する難民のこと。政治難民と同義。
- ^ 新難民:東西冷戦終結後、世界各地で顕在化した民族紛争を起因として生じる難民のこと。
- ^ マンデート難民:条約難民だけでなく、UNHCRが独自の解釈で認めた難民のこと (生命・身体の保全・自由に対する重大で無差別な脅威、なおかつ一般に広まる暴力や公的秩序に対する深刻な混乱から生じる脅威の理由によって、本国外におり本国に帰還できない国際的保護を要する者)。
- ^ ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和20年勅令第5412号)
- ^ 難民調査官の指名を受けるには[62]、「出入国管理及び難民認定法」(昭和26年政令第319号)第2条第11号、第12号及び第12号の2の規定に基づいて定められた「難民調査官を指定する訓令」第3項に従い(平成13年1月6日施行)、入国審査官であり行政職俸給(一)4級以上[63]とされている。
- ^ 初年度の2010年受入れは5家族27名として[66][67]、一行は体調不良の2家族9名を除いて予定の2010年9月28日に来日した。同2家族も遅れて2010年10月13日に到着[68]。
- ^ 1997年、当時の南アフリカ共和国大統領ネルソン・マンデラは「アフリカ難民の日」(現「世界難民の日」)である6月20日にアフリカ各国に協力を訴え、難民や避難民が発生する紛争解決を呼びかけている。また同氏は2001年、ブルンジ内戦の平和的解決を進める課程でタンザニア西部の難民キャンプを訪れ、ブルンジ難民の声に耳を傾けた[80]。
出典
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