真空管
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 12:44 UTC 版)
概要
構造としては、一般的にガラスや金属あるいはセラミックスなどで作られた容器内部に複数の電極を配置し、容器内部を真空もしくは低圧とし、少量の稀ガスや水銀などを入れた構造を持つ。
原理や機能としては、電子を放出する電極(陰極)を高温にして熱電子放出効果により、陰極表面から比較的低い電圧により容易に電子を放出させ、この電子を電界や磁界により制御することにより、増幅、検波、整流、発振、変調などができる。
二極管が発明されたイギリスを中心とした欧州で主に、その電極の数により、二極管のことをダイオード[注釈 4]、三極管のことをトライオード[注釈 5]、四極管のことをテトロード[注釈 6]、五極管のことをペントード[注釈 7](以下同様)という。さらに二極管の中でも整流に用いるものを特にレクティファイア[注釈 8]と呼ぶこともある。
発明、多様化、小型管に対する代替用語の登場
真空の管の構造をした小型管で増幅などを行う素子は、発明当時から真空管(vacuum tube)と呼ばれて発展したが、後になって(真空のガラス管という構造では同じでも)大型管、ブラウン管、マイクロ波管など機能が異なるものや、似た機能を持っているが内部が真空でない放電管などが出現し、これらを電子管(electron tube)と総称するようになり、従来「真空管」と呼ばれた小型管は、受信管(receiving tube)と呼ばれるようになった[3]。
つまり「真空管」という言葉は、古風な用い方としては狭義に、もっぱら小型の真空管を指すが、今では広義に、小型のものに限らず、真空もしくは低圧雰囲気空間における電界や磁界による電子の様々な振る舞いを利用する素子全般を総称する用法もある(蛍光灯などの光源目的としたものを除く)。容器内部を真空もしくは低圧とした陰極線管(ブラウン管など)、プラズマディスプレイ、放射線源管(代表的なものとしてX線管)、放射線検出管(代表的なものとしてGM計数管)なども真空管のひとつである。
日本語の略呼法や助数詞
日本語では専門用語で「球(たま)」、あるいは白熱電球と同様に「管球(かんきゅう)」[4]とも呼ばれる。例えば、トランジスタ使用のアンプに対して真空管使用のものを「球(たま)のアンプ」と言う。また、セット(電気回路による装置)に使っている真空管の本数を称して「n球(きゅう)」という言い方をする。例えばAMラジオ受信機の代表的な構成の一つである、真空管を5本使用したスーパーヘテロダイン受信機を「5球スーパー」と呼ぶ[5]。なお、単に数えるとき(たとえば部品在庫数)の助数詞は「本[6](ほん)」。いっぽう、真空管の代替として発明されたトランジスタなどの半導体素子は専門用語で「石(いし)」と呼ぶことがあり、回路での使用数をあらわす助数詞は「石(せき)」が用いられた[7](単に数えるときには「個[6](こ)」)。
利用の減少および現在も続く特殊目的での利用
21世紀では、一般的な電気電子回路において汎用的(整流、変調、検波、増幅など)に用いる目的の素子としては、多くが半導体素子に置き換えられ、真空管はその役割をほぼ終えているが、半導体では実現が難しい高周波/大電力を扱う特殊な用途での増幅素子として現在でも使われており、日本でも放送局用、また防衛省向けとして製造されている。またオーディオアンプや楽器用アンプなどでは、現在も真空管による増幅回路がしばしば用いられるため、それらの用途のための真空管が現在も製造されている。
一方、特殊な真空管の一種であるマグネトロンは、強力なマイクロ波の発生源として、電子レンジやレーダーなどに使われ、現在でも大量生産されている。テレビ受像機などに用いるブラウン管も広義の真空管であり世界で量産されているが、薄型テレビへの移行から減少傾向にあり日本国内での生産はオシロスコープなどの測定機などを除き終了している。
他にも、X線を発生させるX線管や、高精度光計測に用いる光電子増倍管、核融合装置のマイクロ波発生源など、真空管は高度で先端的な用途に21世紀現在も使われている。プラズマディスプレイや蛍光表示管 (VFD) などには、長年に渡り蓄積された関連技術が継承されている。東日本大震災で事故を起こした福島第一原発の現場では、真空管はトランジスタより放射線の影響を受けにくい性質を利用して、人が安全に立ち入ることが困難な場所における現状確認と廃炉作業のためのロボットに搭載するカメラなどに真空管を用いる事が予定されている[8]。また、MOS型FETやバイポーラトランジスタと真空管の構造をあわせ持つ真空チャネルトランジスタの実用化も徐々に現実味を帯びつつあり、デジタル回路の高速化のほか、高速動作を生かしたテラヘルツ波の送受信回路、そして真空管同様に放射線(宇宙線)の影響を受けにくいことを生かした人工衛星への利用も期待されている[9]。
注釈
- ^ 英: electron tube
- ^ 英: thermionic valve
- ^ 「電子管」は熱電子を利用しないものなど、より広い範囲の素子を指して使われることもある。
- ^ 英: diode
- ^ 英: triode
- ^ 英: tetrode
- ^ 英: pentode
- ^ 英: rectifier
- ^ どちらも直熱型三極管
- ^ 後のUZ-2A5。
- ^ 英: Nuvistor
- ^ GTは「glass tube」の略とされる。
- ^ 油脂等の汚れがフィラメントからの熱を吸収し、その部分の温度を上げることでガラスを歪ませるため。製造管理の行き届いた現代の白熱電球においてもハロゲンランプなど、大きさの割には消費電力の大きい電球は、同じく油脂汚れ厳禁である[23]。日本放送協会編 ラジオ技術教科書(1946〜1947年)、電気学会編 電気材料(1960年)にも記述がある。
- ^ 高周波での増幅特性で半導体素子を凌駕する事は現在でも珍しくはない。事実、高信頼性と低消費電力が要求される放送衛星や通信衛星等の人工衛星では現在でも送信用に真空管の一種である進行波管が使用される
出典
- ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文
- ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文の後の叙述文
- ^ 平凡社『世界大百科事典』vol.14, p.261【真空管】
- ^ "管球". 精選版 日本国語大辞典(小学館). コトバンクより2021年5月22日閲覧。
- ^ 用例: “論文検索 "球スーパー"”. 日本の論文をさがす. 国立情報学研究所 (NII). 2021年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月22日閲覧。
- ^ a b 用例:通商産業大臣官房調査統計部(編)「1 生産動態統計」『平成元年 1989 機械統計年報』、通商産業省、1990年、286-288頁、2021年5月22日閲覧。
- ^ "石". 精選版 日本国語大辞典(小学館). コトバンクより2021年5月22日閲覧。: 「せき【石】(2)〘接尾〙(2)」
- ^ http://www.at-s.com/news/article/economy/shizuoka/456410.html デブリ撮影に浜ホト貢献 真空管カメラ、福島原発投入へ 静岡新聞 2018年3月15日閲覧
- ^ https://gigazine.net/news/20140626-nasa-vacuum-transistor/ 半導体に取って代わられた真空管に復権の兆し、超高速のモバイル通信&CPU実現の切り札となり得るわけとは? GIGAZINE 2018年5月18日閲覧
- ^ Bijl著「The Thermionic Vacuum Tubes and It's Applications」、1920年
- ^ タイン著「Saga of Vacuum Tube」、1977年
- ^ 浅野勇著「魅惑の真空管アンプ 上巻」
- ^ a b c 甘田, 早苗『初級ラジオ工作』誠文堂新光社、東京、1949年10月10日、86頁。doi:10.11501/1169566 。
- ^ a b c ラジオ科学社 編『真空管の話』ラジオ科学社、東京〈ラジオ・サイエンス・シリーズ ; 第1集〉、1953年1月20日、29頁。doi:10.11501/2461951。 NCID BA65558749。NDLJP:2461951 。(要登録)
- ^ Donovan P. Geppert, (1951). Basic Electron Tubes, New York: McGraw-Hill, pp. 164 - 179. Retrieved 10 June 2021
- ^ Winfield G. Wagener, (May 1948). "500-Mc. Transmitting Tetrode Design Considerations" Proceedings of the I.R.E., p. 612. Retrieved 10 June 2021
- ^ Staff, (2003). Care and Feeding of Power Grid Tubes, San Carlos, CA: CPI, EIMAC Div., p. 28
- ^ GE Electronic Tubes, (March 1955) 6V6GT - 5V6GT Beam Pentode, Schenectady, NY: Tube Division, General Electric Co.
- ^ J. F. Dreyer, Jr., (April 1936). "The Beam Power Output Tube", Electronics, Vol. 9, No. 4, pp. 18 - 21, 35
- ^ R. S. Burnap (July 1936). "New Developments in Audio Power Tubes", RCA Review, New York: RCA Institutes Technical Press, pp. 101 - 108
- ^ RCA, (1954). 6L6, 6L6-G Beam Power Tube. Harrison, NJ: Tube Division, RCA. pp. 1,2,6
- ^ エレクトロニクス術語解説 1983, p. 256.
- ^ “自動車用電球ハンドブック 第6版” (PDF). 日本照明工業会. p. 26. 2022年9月24日閲覧。
固有名詞の分類
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