新卒一括採用 新卒一括採用の概要

新卒一括採用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 16:05 UTC 版)

明治期に下級ホワイトカラーの採用から始まり第二次世界大戦前ごろまでには定着しており、戦後復興期の人手不足によって大企業高卒者を大量に採用したことから確立され、21世紀現在の日本では一般的な雇用慣行である。企業では「定期採用」とも呼ばれる。

合同企業説明会の様子
会社説明会の様子
会社説明会の様子

歴史

ホワイトカラー

明治から第二次世界大戦まで

新規学卒者の一括採用制度が始まったのは1895年三菱(当時の日本郵船)と三井銀行からであるとされているが、一般的になるのは20世紀に入ってからである[2][3]。 この当時、職員の採用は随時必要に応じておこなわれていたが、採用には試験や学歴よりも関係者の紹介が重視されており縁故採用が多かった[4]

1914年から第一次世界大戦が始まり日本は大戦景気に沸いたが、それによる人手不足から来る就職売り手市場によって学校卒業前に入社選考と採用を行う慣行が始まった[5]。 卒業前の採用慣行は第一次世界大戦後も続けられた。

1927年には昭和金融恐慌と、それに続く世界恐慌から学生の就職難が社会問題となった(当時の映画「大学は出たけれど」も参照)。このような恐慌下で、1928年に三井三菱などの大手銀行を中心とする頭取重役の集まりである常盤会の意向により、大学および文部省に働きかけが行なわれ、翌年1929年の学生の定期採用は卒業後に行なうこととする協定が結ばれた[6][7]。就職協定の原型である。

にもかかわらず、優秀な学生を確保したい企業による、学生の就職難への不安につけこんだ早期の選考は、この協定後も改まらなかった。その後、景気が回復しても企業・学生双方による協定破りは続いた。

1935年6月、三菱の提案で協定は正式に破棄されることとなった[8]。なお、今日まで使われる「内定」という言葉は、この協定によって使われるようになったのだと言われている[9]。つまりは、協定によって「採用決定」が卒業後ということに決められたため、在学中の事実上の採用決定を「内定」と呼ぶことになったのである。

その後第二次世界大戦に入り、戦時統制のなかで1938年の学校卒業者使用制限令により、大学の工学部と理工学部、工業専門学校、工業実業学校の学生の就職は国家によって統制されることとなった[10]

戦後から現在

第二次世界大戦終戦後も、大卒者の新卒一括採用の慣習は続いた。終戦直後の卒業生の就職は厳しかったようだが、翌年以降はそれほどでもなかったようである。敗戦という政治経済状況に極限の変化を迫られる状況下においても、「卒業前の定期採用という慣行は、会社と大学にとってもはや変更不可能なまでに根づいていた[11]」のである。続いて起きた戦後復興1950年に起きた朝鮮戦争は、日本国内に莫大な特需を生み出し、人手を必要とした企業は多くの新卒者を雇用した[12]

採用の早期化傾向に懸念を抱いた文部省は1953年6月に教育財界関係者を集め懇談会を開き、「採用試験は10月中旬から1か月くらいとすること」を決定した。これが1996年まで続いた就職協定の始まりである[13]

しかし、就職協定は1996年の廃止に至るまで、ほぼ有名無実な協定であった。抜けがけ採用が発覚しても協定破り企業として新聞に公表されること以外にペナルティーがなく、企業側はマジメに就職協定を守っていては良い学生を採用することができなくなり、学生もそれに従わざるを得ないからである。

特に1960年代からの高度経済成長期には更に採用が早期化し、大企業では卒業一年以上前の3年生の採用を決めるという事態にまで発展し、「青田買い」のみならず「早苗買い」「種もみ買い」とまで称されるほどになった[14]。以後も景気状況による変動はあるものの、基本的には在学中に採用が内定する状況は変化していない[12]

21世紀初頭現在においても状況はそれほど変わらず、大学生の就職活動は3年生の秋、9月から10月ごろに始まる。経団連の倫理憲章では、正式な内定日は10月1日[15]とされているが、内定の決定、いわゆる内々定は早ければ4年生になったばかりのごろから出され始める場合もある。

ブルーカラー

戦前には、ホワイトカラーではない現場の職工は、必要に応じて必要な人員を補充するという方法で採用されていた。また、労働者側の意識としても、より良い待遇を求めて職場を短期間で移動するのがあたりまえであったとされている[16]。日本において現場ブルーカラーの一括採用が定着したのは、高度経済成長期の1960年代における労働力不足を背景としている。また、この時期に高校進学率が高まったことによる人手不足も、高卒者の一括採用を進めた原因とされている。それ以前までは、高卒者はホワイトカラーとして採用されており、定期採用が主であった。同じ高卒者を採用する以上はブルーカラーも定期採用をする必要があったのだとされる[17]

新卒一括採用の見直し

2007年に安倍内閣労働ビッグバン閣議決定し、その中で「新卒一括採用システムの見直し」が検討されたが頓挫した[18]

新卒一括採用システムの見直しが進まない状況を受け、2010年の「青少年雇用機会確保指針」の改正により、「卒業後、少なくとも3年間は新卒者として応募できるように」という内容が盛り込まれた。さらに翌2011年には厚生労働大臣と文部科学大臣、経済産業大臣が連名にて主要経済団体などに対して通年採用の拡大を図っていくよう要請を出した。2013年度より、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の3省連携による未内定就活生支援策として「未内定就活生への集中支援」が開始された。

2016年8月4日、安倍晋三の側近である世耕弘成は、経済産業大臣就任にあたってのNHKのインタビューに対し、「新卒一括採用を見直す時期にきている」という見解をはっきりと示し[19]、これ以降、閣僚から新卒一括採用から通年採用へ変えていこうとする発言が相次いでいる。

2018年10月9日に日本経済団体連合会が、2021年度から就職活動の日程についてのルールを廃止すると発表すると、茂木敏充経済再生担当大臣は、「未来投資会議では、中途採用の拡大であったり、新卒一括採用の見直しといった雇用問題についても、全世代型社会保障への改革の1つのテーマとして、集中的に議論を進めたい」と述べ、就活ルールの廃止を受け、新卒一括採用自体の見直しに踏み込む意欲を強調した[20]

2022年春から通年採用になる予定。

日本的雇用慣行との関わり

新卒一括採用制度は、終身雇用年功序列賃金といった日本的雇用システムの一部をなしているという指摘がある[21][22]。というのは、ある程度の長期間に渡って採用した新卒者が会社に残ることが労使双方によって想定されていない限り、組織の年齢構成維持、忠誠心の育成のために新卒者を多人数雇用したとしても無意味だからである。 長年に渡って新卒一括採用制度が維持された結果、外部労働市場(中途採用市場)が未発達であり、日本の労働市場は内部労働市場(企業内におけるジョブローテーション、出向、転籍等)によって支えられている。


  1. ^ OECD Economic Surveys: Japan 2019, OECD, (2019), Chapt.1, doi:10.1787/fd63f374-en 
  2. ^ 野村 (2007) p.57
  3. ^ リクルート p.6
  4. ^ 野村 (2007) p.92
  5. ^ 野村 (2007) p.58
  6. ^ 野村 (2007) p.59
  7. ^ リクルート p.9
  8. ^ 野村 (2007) p.61-62
  9. ^ 野村 (2007) p.60
  10. ^ 野村 (2007) p.64
  11. ^ 野村 (2007) p.67 より引用
  12. ^ a b リクルート p.7
  13. ^ 野村 (2007) p.67
  14. ^ 野村 (2007) p.68
  15. ^ http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/087.html
  16. ^ 野村 (2007) p.70
  17. ^ 野村 (2007) p.70-71
  18. ^ 日本経済の進路と戦略 ~新たな「創造と成長」への道筋~』(プレスリリース)経済財政諮問会議、2007年1月25日、17頁https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/2007/decision0710.html  - 閣議決定
  19. ^ 世耕大臣が唱える新卒一括採用の見直しは本当に必要か?ダイヤモンド・オンライン2016年8月10日付
  20. ^ 茂木内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成30年10月10日内閣府
  21. ^ a b 関口 (1996) p.55
  22. ^ リクルート p.10
  23. ^ 関口 (1996) p.55-56
  24. ^ 【2030年】第1部 働く場所はありますか(5)30代社員の憂鬱 「企業は老化する一方だ」” (Japanese). 産経ニュース. 2010年3月18日閲覧。
  25. ^ 日本は若年層が安定的な職に就けるよう更なる対策が必要” (Japanese). OECD. 2010年3月18日閲覧。
  26. ^ 野村 (2007) p.69
  27. ^ http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/06/__icsFiles/afieldfile/2010/06/22/1294984_06_2.pdf
  28. ^ https://news.livedoor.com/article/detail/9151298/
  29. ^ シューカツ2010 新卒になりたくて…希望留年 大学側も支援の制度”. 朝日新聞社 (2010年3月31日). 2010年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月20日閲覧。
  30. ^ 不本意な内定より留年…「卒業せず」10万人超”. 朝日新聞社 (2014年7月20日). 2014年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月20日閲覧。
  31. ^ 「学歴フィルター」が炎上中、新卒採用も炎上中! なぜ違和感を覚えるの?(オトナンサー).2021年12月19日閲覧。
  32. ^ サムスングループが新卒採用スタート 今年1万人規模の見通し”. 聯合ニュース (2019年3月11日). 2019年3月15日閲覧。


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