当世書生気質 登場人物

当世書生気質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/06 03:40 UTC 版)

登場人物

小町田粲爾とその周辺人物

小町田 粲爾(こまちだ さんじ)
ある私塾の書生。21-22歳くらい。真面目で神経質な性格。
飛鳥山で、芸妓になっていた幼馴染で義妹のお芳こと田の次に偶然に再会する。その後逢瀬を重ねるが、二人の関係を知らない周囲からは、芸妓に溺れているものと誤解され、次第に追い詰められていく。第11回で品行不良として休学処分となるが、のちに復学。
立場上は主人公だが、特に活躍らしい活躍を見せず、結末でもほとんど傍観者にとどまっている。そのため発表当初、逍遥の友人であった高田早苗は、サッカレーの『虚栄の市』(副題「主人公のいない小説」)を引き合いに出して、本作を「主人公なきの小説」と評した[11]
モデルは高田早苗だとする説があるが、逍遥は「事件も虚構、性格も似てゐない」[12]「小町田の性格や履歴は全く半峯君(引用者注:高田早苗の号)とは無関係である」[13]と否定している。関良一は、実際のモデルは逍遥自身だと推定している[14]
小町田 浩爾(こまちだ こうじ)
粲爾の父。官吏やくにんだったが失職し、ある銀行の属吏したやくとなる。
鈴代 常(すずしろ つね)
小町田浩爾の妾で元芸妓。お芳の二人目の養母。のち、浩爾か失職したため妾として囲っておくことができなくなり、芸妓に復帰して「小常」(こつね)と名乗る。その後、園田の妾となる。優しい性格。
全次郎(ぜんじろう)
お常の兄。放蕩者でお秀の情夫。上野戦争の際に流れ弾に当たり死亡する。
田の次(たのじ)/お芳(およし)
本編のヒロイン。柳村屋(やなむらや)の芸妓。17-18歳くらい。利発な性格でしっかり者。
幼児のときに上野戦争に遭って孤児となり、ある50代の女性に引き取られて「お芳」と名付けられるが、その養母も死んだため家を追い出されたところを、偶然にめぐりあった浩爾とお常に引き取られ、粲爾とともに育てられる。のちに浩爾が失職したためお常を囲っておくことができなくなり、お常が芸妓に戻ったため、自らも芸妓の道へ進む。芸妓としては最初小芳こよし、のち二代目小常こつねと名乗ったが、歌舞伎役者の故沢村田之助に似ていると評判となったため「田の字」と呼ばれるようになり、のちに自らも「田の次」と名乗る。
実は守山友芳の生き別れの妹、お袖。末尾では脱籍して元の通り守山友定の娘となったことが語られる。
高田早苗によれば、当時、高田や逍遥、市島謙吉、山田一郎、石渡敏一らがよく通っていた神保町の「松月」という天ぷら屋に「お鶴」という美人の女中がおり、彼女がのちに芸妓になったのをヒントにした可能性があるという。逍遥はこれについて肯定も否定もしていない[15]。一方、関良一は、実際のモデルは根津遊廓大八幡楼の遊女で、のちに逍遥と結婚する花紫こと鵜飼セン(仙子)だと推定している[14][16]

守山友芳とその周辺人物

守山 友芳(もりやま ともよし)
小町田の同窓で親友。静岡県士族。在学中から東光学館という法学校で教授をしている。第8回で学校を卒業し、代言人となる。のち魁進党(モデルは立憲改進党[17])に入党。
モデルは岡山兼吉関直彦[18]
守山 友定(もりやま ともさだ)
守山友芳の父。旧名は亮右衛門(りょうえもん)。静岡県士族。貿易会社の社員で金満家。
お袖(おそで)
守山友定の娘で友芳の妹。3歳のとき、上野戦争の際に母親のおかくとともに行方不明となった。
三芳 庄右衛門(みよし しょうえもん)
銀行を経営する富豪。43-44歳くらい。守山友定の友人。任那透一は妻の甥にあたる。
関良一は、モデルは逍遥とセンの結婚式で媒酌人をつとめた掛川銀行頭取の永富謙八だと推定している[14]
園田(そのだ)
三芳庄右衛門の銀行の社員。35-36歳くらい。静岡県士族で、友芳とは縁続き。お常を引き取って妾とする。
関良一は、モデルは掛川銀行社員で逍遥夫人センの養父である鵜飼常親だと推定している[14]

顔鳥とその周辺人物

顔鳥(かおとり)/水野 民(みずの たみ)
角海老」の芸妓。19歳くらい。内気で気が弱く、芸妓でありながら嘘をつくのが苦手。梳攏しんぞう(女中)のお秀の言いなりになっている。
3歳のとき、上野戦争の際に母親を失い、偶然に通りかかった貞七の養女となる。のちに貞七が困窮したため角海老の娼妓となる。
実は全次郎とお秀の実の娘、お新。したがってお常の姪にあたる。
水野 貞七(みずの ていしち)
顔鳥の養父。故人。三河豊橋の豪農。
お秀(おひで)
顔鳥の梳攏しんぞう(女中)。40代。守山家がお袖の行方を捜していることを知り、顔鳥をお袖に仕立て上げて乗り込む。
実は三芳庄右衛門の元妾で、顔鳥ことお新の実の母親。お常の兄・全次郎と良い仲となり、お新を産む(表向きは庄右衛門の娘)。
源作(げんさく)
「角海老」の楼丁なかどん(下働き)。45-46歳。
お芳(田の次)の最初の養母の弟。元は神田同朋町の大工だったが、貧しさに負けて窃盗を働き逮捕され、楼丁に身を落とす。
お秀と顔鳥の密談を聞いて、田の次こそが本物のお袖であることに気づく。いったんはお秀に抱きこまれるが、改心して田の次のもとに駆け込み、真相を伝える。

小町田粲爾の同窓の書生たち

作中では私塾の書生となっているが、実際は逍遥自身の出身校である東京大学をモデルとしている[19]

倉瀬 蓮作(くらせ れんさく)
新潟の出身。小町田の友人で、そそっかしく、なにかとよく食いよくしゃべる男。
モデルは逍遥自身に別の友人を足し合わせたもの[18]
任那 透一(にんな とういち)
小町田の親友。23-24歳くらい。飄々として磊落な性格で、自他ともに認める奇人。大食漢。
義伯父である三芳庄右衛門の援助で洋行することになる。末尾では、ドイツで哲学を研究していることが言及される。
モデルは、「天下之記者」の異名を持ったジャーナリストの山田一郎[20][21]
須河 悌三郎(すがわ ていざぶろう)
知勇いずれも欠けた無能者。桐山の友人。どこの方言ともつかぬ方言を話す。
自分の考えというものがなく、周囲に阿諛追従する性質。最後は桐山とも喧嘩別れしてしまう。
宮賀 匡(みやが ただし)
真面目な勉強家で世間知らず。継原とは同郷。
宮賀 透(みやが とおる)
宮賀匡の弟。兄とほとんど同じ性格。
桐山 勉六(きりやま べんろく)
須河の友人。23-24歳くらいだが後頭部が禿げている。勇壮かつ粗野で、豪傑を自認する。男色家で、男色小説『三五郎物語しずのおだまき』を愛読している。
守山を、紳士ぶっているという理由で嫌っている。
目が悪く、第10回では門限に遅刻したため板塀を乗り越えて戻ってきた須河を泥棒と間違えて殴りつける。
第11回で奮進党(モデルは自由党[17])に入党。末尾では奮進党の新聞に関係しており、国事犯の嫌疑を受けるのではないかと周囲から心配されていることが語られる。
モデルは三宅雪嶺だとする説があるが、逍遥は否定している[18]
山村(やまむら)
放蕩者。放蕩が過ぎて第11回で退校処分となり、新聞記者となる。第12回では『百科通覧エンサイクロピヂア』の翻訳の仕事に従事するが、よくわからないところを強引に意訳したり、原稿料稼ぎのため訳文を長くしようと「因テ以テ原因セシ所以ノ道理」などといった表現を多用したりして、継原を呆れさせる。
末尾では、ある地方の学校の教頭になったことが語られる。
継原 青造(つぎはら せいぞう)
山村の友人で同じく放蕩者だが、山村より若干まし。気の替わりやすい性格。山村と同じく、放蕩が過ぎて第11回で退校処分となる。
末尾では、放蕩が過ぎて困窮したところを守山友芳に助けられ、心を改めて復学したことが語られる。

その他

吉住 潔(よしずみ きよし)
代言人。26-27歳くらい。学問はあるが、軽躁で落ち着きのない性質のため評判はよくない。放蕩家で、嫉妬深く嫌味な性格。
田の次に岡惚れしていたが、小町田粲爾に横取りされたと思い込み、実兄の樫森(かしもり)が小町田の学校の教師をしていることをいいことに、樫森を通じて小町田の学校に悪い風評を流す。顔鳥ともなじみ。
小年(ことし)
芸妓。25-26歳くらい。田の次の先輩。
弁吉(べんきち)
千歳屋の芸妓で田の次の先輩。お転婆で周囲から持て余されており、評判は良くない。吉住に岡惚れし、田の次に嫉妬して悪口を言いふらす。
お豊(おとよ)
14-15歳くらい。楊弓場の女中で白首しろくび(私娼)。のちに本郷の牛肉店ビイフ・ショップの女中として再登場。活発なお転婆娘。須河と縁がある。
野々口 精作(ののぐち せいさく)
第6回のみに登場。22-23歳くらいの医学生で、倉瀬の友人。放蕩者だが外面の良い偽善者で、自分の放蕩ぶりを隠すのが巧みなため、両親や親戚、学校などからは真面目な学生だと思われている。50円の借金があるが、彼の通う医学校では比較的ましな方らしい。倉瀬からは、根は利発者なので医者になればきっとうまくやるに違いない、と思われている。

  1. ^ 柳田 1960, pp. 142–143.
  2. ^ 坪内 1926, p. 1, 神代種亮「解題」.
  3. ^ a b 柳田 1960, p. 147.
  4. ^ 坪内 1926, p. 4, 神代種亮「解題」.
  5. ^ a b 坪内 2006, p. 321, 宗像和重「解説 「小説」の誕生、「敗者」へのまなざし」.
  6. ^ 坪内 1926, p. 10, 神代種亮「解題」.
  7. ^ 柳田 1960, pp. 146, 159.
  8. ^ 坪内 2006, p. 161.
  9. ^ 坪内 2006, p. 130.
  10. ^ 関 1965, p. 7.
  11. ^ 坪内 1926, p. 付録7, 半峰居士「当世書生気質の批評」.
  12. ^ 坪内 1926, p. 付録37, 逍遥遊人「作者餘談」.
  13. ^ 高田 1927, p. 59.
  14. ^ a b c d 関 1965, p. 11.
  15. ^ 高田 1927, pp. 53-60.
  16. ^ 清水 1965, pp. 25–26.
  17. ^ a b 清水 1965, p. 31.
  18. ^ a b c 坪内 1926, p. 付録38, 逍遥遊人「作者餘談」.
  19. ^ 高田 1927, p. 60.
  20. ^ 薄田斬雲『天下之記者 一名 山田一郎君言行録』実業之日本社、1906年、43頁。NDLJP:782115 
  21. ^ 坪内 1926, pp. 付録37-38, 逍遥遊人「作者餘談」.






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