小田急1900形電車 登場の経緯

小田急1900形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/19 04:39 UTC 版)

登場の経緯

1948年10月に1600形により再開された「週末温泉特急」は、予想を上回る好成績となった[1] が、ロングシートにシートカバーをかけて通路に灰皿を置いただけであった[2]。このため、新形車両を製造するにあたっては、特急用にふさわしいクロスシート車を要望する意見があった[2]

一方、当時の日本経済は敗戦後の粗鋼生産の低迷等で極端な物資不足の状況にあり、かろうじて運輸省モハ63形の私鉄各社への割り当てを強要せずとも済む程度には状況は回復しつつあったが、依然として各種機器や部材の調達・生産には困難が伴う状況にあった。

そこで運輸省は車両や機器のメーカー、それに私鉄各社と「郊外電車設計打合会」を開いて今後の車両製作について討議した。

その結果、各部材の寸法や形状について徹底した規格化を行って生産上の非効率と部材の納入遅延を最小限に抑制すべく、私鉄各社の車両限界等を考慮した上で高速電車についてはA型とB型に大別される最大公約数的な規格型車両設計案を1947年に運輸省で制定し、搭載される機器についてもメーカー各社の製造能力や得意とする技術などを勘案の上で、ユーザーである電鉄各社の要望も考慮して、馬力ごとに適応する既存品を標準機種として認定し生産の効率化を図ることとした。

こうして、1947年に俗に運輸省規格型電車と呼ばれるこれらの仕様を満たす車両を、前年にモハ63形が受け入れ不能であった各社線から優先的に割り当てて新造を認可する、という方針が定められた。

これにより、主として車体長や車体幅の制約からモハ63形の導入が困難であった大都市近郊の私鉄各社線の大半が久々の新造車投入の恩恵を受けたが、1947・1948年度の2年間に実施された割り当てで各社の輸送状況が一応の改善を見たことから、1948年度の後半よりモハ63形を受け入れた各社についてもこの規格型電車の導入が認められるようになった。

この際、最優先で認可された[注釈 2] のは山陽電気鉄道であり、これに続いたのが小田急電鉄であった。

これは、資材難が最悪の状況にあった1946年の最も困難な時期に運輸省の方針に忠実に従ってモハ63形の割り当てを受け入れた[注釈 3] これら2社に対する報奨の意味合いがあったと考えられる[要出典]。これには、粗鋼生産量の回復に代表される日本の工業界の急速な復興に伴う鉄道車両生産にかかわる周辺状況の改善も背景にあったが、これら両社は規格型とは言いながらともに当時他社には認められなかった2扉クロスシート車の新造が特別に認められており、当時の運輸省はこれら2社を自らの政策による東西の私鉄の輸送状況改善のモデルケースあるいはシンボル的存在と考えていたとみられる。

こうした事情から運輸省規格A'型に準拠して設計されたのが本形式である。編成中間に挿入されるサハ1950形については規格設計に従いつつ戦災省電からの台枠流用で製造された。




注釈

  1. ^ ABFは三菱電機の直流電車用自動加速形制御装置の形式名で、本来は三菱電機の提携先であるアメリカウェスティングハウス・エレクトリック (WH) 社製制御器の形式名に由来し、A:Automatic acceleration(自動加速) B:Battery voltage(低電圧電源) F:Field Tapper(弱め界磁制御)の各機能に対応することを示す。
  2. ^ 1948年12月に820形が神戸の川崎車輛で竣工している。
  3. ^ しかも、いずれも従来は車体長14mから16m級の車両を運行しており、その受け入れに当たっては大規模な地上設備の改修を要した。中でも山陽が優先されたのは、それに加えて受け入れ線区の半分が路面電車上がりで、架線電圧軌間の相違、それに変電所の容量不足を解決する、というほとんど新線建設に等しい過酷な受け入れ作業が必要であったことに理由があろう。
  4. ^ これは1600形に使用されていた三菱電機製MB-146系主電動機が上述の規格型電車用125馬力級規格型電動機の1つとして選定されたことによるところも大きい。
  5. ^ これは規格型の基本方針として、入手の容易な規格寸法のガラスを使用することで資材調達の便を図るという目的もあったが、それと同時に混雑時の換気を改善する目的で側窓を完全上昇式の2段窓としたため、窓寸法をやや縮小せざるを得なかった、という事情も関わっていた。
  6. ^ 1900形の項でも記した通り、私鉄向け2扉セミクロスシート車としては同じ川崎車輛が製造した山陽電気鉄道820形が戦後初であり、本形式はそれに続く2番目の事例であった。なお820形の方が、窓寸法が若干大きく、連結面が切妻となるなど、若干違いがある。
  7. ^ 進駐軍専用車両が白帯を入れていた事例は除く。
  8. ^ 端子電圧750V時定格出力93.3kW/750rpm。WH社製WH-556-J6(端子電圧750V時定格出力74.6kW、定格回転数985rpm)を基本とする。
  9. ^ 初期製造分のデハ1900形とは多少スタイルが異なっていた。
  10. ^ 制御線をABFと互換性を持つように結線して使用された。

出典

  1. ^ 『鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション1 小田急電鉄1950-60』p58
  2. ^ a b c d 『鉄道ピクトリアル』通巻491号 p10
  3. ^ a b c 『鉄道ピクトリアル』通巻491号 p11
  4. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻546号 p56






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