労働者災害補償保険 保険給付

労働者災害補償保険

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/03 12:35 UTC 版)

保険給付

大きく3つに分けられ、

  • 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という)に関する保険給付
  • 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という)に関する保険給付
  • 二次健康診断等給付

がある。 そして、業務災害(通勤災害)に関する保険給付として

  • 療養補償給付(療養給付)
  • 休業補償給付(休業給付)
  • 傷病補償年金(傷病年金)
  • 障害補償給付(障害給付)
  • 遺族補償年金(遺族年金)
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • 介護補償給付(介護給付)

がある。通勤による災害は、直接には使用者側に補償責任はないため、業務災害の各給付(年金)名から補償という文字をはずした名称を用いる。

年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由の生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わる。年6回、偶数月にそれぞれの前月分までが支払われる(第9条)。

政府は、保険給付に関して必要であると認めるときは、保険給付を受け、又は受けようとする者に対し、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができるほか、当該医師等に対してその行った診療に関する事項について報告もしくは物件の提示を命じ、又は当該職員に物件を検査させることができる。その者が命令に従わないときは、保険給付の支払いを一時差し止めることができる。

年金たる保険給付の受給権者は、1月から6月生まれの者は毎年6月30日、7月から12月生まれの者は毎年10月31日までに、定期報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。傷病(補償)年金の受給権者の場合は、これに医師等の診断書(提出期限日前1月以内に作成されたもの)を添付しなければならない。

保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならず、事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない[注釈 19](施行規則第23条)。事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害または通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができ、これにより意見の申出があったときは、これを保険給付に関する決定にあたっての参考資料として活用することとされる(施行規則第23条の2)。

船舶・航空機の沈没・墜落・転覆・滅失・行方不明があった際現にその船舶・航空機に乗っていた労働者若しくは船舶・航空機に乗っていてその船舶・航空機の航行中に行方不明となった労働者の生死が3か月間わからない場合又はこれらの労働者の死亡が3か月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合には、遺族補償給付、葬祭料、遺族給付及び葬祭給付の支給に関する規定の適用については、その船舶・航空機の沈没・墜落・転覆・滅失・行方不明となった日又は労働者が行方不明となった日に、当該労働者は、死亡したものと推定する(第10条)。これにより、民法の規定による失踪宣告(危難失踪の場合は1年)を待たずして労働者の遺族が早期に給付を受けることができる。東日本大震災により行方不明となった労働者についても3か月間労働者の所在が不明の場合、震災日(平成23年3月11日)に死亡したものと推定して死亡に関する給付を行う(東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律第79条)。

2014年(平成26年)度の労災保険給付の新規受給者数は619,599人であり、前年度に比べ16,672人の増加(2.8%増)となっている。そのうち業務災害による受給者が545,007人、通勤災害による受給者が74,592人となっている[5]

療養補償給付・療養給付

業務災害・通勤災害により、労災病院(労災保険法に基づく社会復帰促進事業として設置された病院をいう。以下同じ)・労災指定医療機関等(都道府県労働局長の指定する病院又は診療所をいう。以下同じ)で療養(治療)を必要とする場合は、療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、死亡又は症状が固定化して療養の必要がなくなるまでの間、原則として必要な療養の給付(現物給付)が行われる(第12条の8第2項)。業務上の疾病が治って療養の必要がなくなってもその後にその疾病が再発した場合は、原因である業務上の疾病の連続であって独立した別個の疾病でないから、引き続き補償は行われる(昭和23年1月9日基災発13号)。給付請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受けたうえで、病院等を経由して所轄労働基準監督署長に提出することで行われる。指定病院等を変更する場合も同様の届出が必要である。給付の範囲は以下のとおり(政府が必要と認めるものに限る)である。

  • 診察
  • 薬剤又は治療材料の支給
  • 処置、手術その他の治療
    • 死後の診断又は医師の判断により死体に施した適宜の処置は療養の範囲に属するが、本来葬儀屋が行うべき処置(死体のアルコール清拭、口腔等への脱脂綿充填等)は医師が代行した場合は葬祭料の範囲に属する(療養の範囲に属さない)(昭和23年7月10日基災発97号)
    • 医師が直接の指導を行わない温泉療養については支給されない。ただし、病院等の付属施設で医師が直接指導のものにおいて行うものについてはこの限りでない(昭和25年10月6日基発916号)
  • 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
  • 病院または診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の監護
  • 移送(原則として片道2キロメートル以上の場合に給付対象となる)
    • 業務災害の発生直後に重症患者を災害現場から労災病院に病院備え付けの救急車をもって移送した場合、監督署長の承認の下に特に労災病院に転院のため救急車をもって収容する場合は移送の範囲に含まれる(昭和31年4月27日基収1058号)。病院の自家用車を用いた場合でも、請求額が社会通念上妥当と認められる場合は全額が支払われる(昭和31年9月22日基収1058号)。
    • 災害現場で医師の治療を受けずに医療機関への搬送中に死亡した場合、死亡に至るまでに要した搬送費用は移送費として支給される(昭和30年7月13日基収841号)
    • 遠隔地において死亡した場合の火葬料及び遺骨の移送に必要な費用は、療養補償費の範囲に属さない(昭和24年7月22日基収2303号)

例外として[注釈 20]、療養の給付をすることが困難な場合、又は療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる(現金給付)。「相応の理由がある場合」とは、労災指定医療機関以外の医療機関に緊急の必要でかかった場合や、最寄りの医療機関が指定医療機関等でなかった場合をいう[注釈 21]。この場合、療養の費用は一旦自己負担となるが、療養の費用請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受け、「傷病名および療養の内容」「療養に要した費用の額」について診療担当者の証明を受けて、直接所轄労働基準監督署長に提出することで、後日償還される。

この支給は、業務災害の場合は自己負担なしで受けられるが、通勤災害の場合は以下の者を除き、200円(健康保険法による日雇特例被保険者は100円)の一部負担金がある(療養に要した費用が200円(100円)に満たない場合は、その現に療養に要した費用の総額が一部負担金となる)。この一部負担金は、休業給付の最初の支給額から控除されることで徴収される。

  • 第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者
  • 療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者
  • 同一の通勤災害に係る療養給付についてすでに一部負担金を納めた者
  • 特別加入者

なお、労災の対象になる場合は、健康保険等の対象外となり、第三者行為の如何に関わらず、初めから健康保険を適用して受診することができない。療養の給付に関して、労災の対象となるかどうかは、労働基準監督署長が諸事情を考慮して決定する(未決期間は業務上として取り扱う)。ただ後日、「初回から労災として認めない」との決定を受ける場合がある(労災は申請してもすぐに決定が出るわけではない)。この場合、初回分から改めて健康保険等での受診として計算し直し(健康保険を適用しない場合は原則自由診療となり、医療機関は比較的自由に診療費用を設定できる)、患者は医療機関に自己負担金(自由診療の場合の費用や健康保険適用の場合の差額など)を支払う必要が生じる。この決定が、数年後という場合もあるため、自己負担金が高額となり、患者の経済的な負担や、医療機関の未収金などの問題となる場合もある。

療養の給付は現物給付なので時効にかからないが、療養の費用の給付は、療養に要する費用を支払った日の翌日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。

休業補償給付・休業給付

業務災害又は通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき、休業の4日目から休業の続く間、支給される(第14条)。

給付は休業日が途中で断続していても、休業の続く限り支給される。日々雇入れられる者についても、補償請求権は労働関係の存在を権利の発生要件としているので、これに対する反対解釈の余地をなくするために労働基準法第83条(補償を受ける権利)に明記したものであって、当然補償費を支払うべきものである。従って労災保険法においても何等異なる取扱いをなすものではない(昭和23年8月9日基収2370号)。ただし、労働者が刑事施設労役場少年院その他これらに準ずる施設に拘禁収容されている場合には支給されない(第14条の2)。また、傷病(補償)年金を受けることとなった場合は打ち切られる(傷病(補償)年金を受給後に障害の程度が該当しなくなった場合は、再度休業(補償)給付を請求する)。

支給要件として要求されるのは以下の通りである。

  • 療養のためであること
    • 治癒後の処置により休業する場合には支給されない。例えば、業務上の負傷が治癒した後に義肢等装着のため整形外科診療所に入所しても、その入所期間中の休業に対しては休業補償給付は支給されない(昭和24年2月16日基収275号、昭和24年12月15日基収3535号)。なおこの場合は、社会復帰促進等事業の対象となる。
  • 労働不能であること
    • 被災した事業場で、被災直前の作業に限らず、他の作業ができる場合には支給されない。
    • 学生のアルバイト等で、労務不能でありながら登校受講する場合は、休業(補償)給付を支給すべきものとされる(昭和28年4月6日基収969号)。
    • 特別加入者の場合、療養のため「業務遂行性が認められる範囲の業務または作業について」全部労働不能であれば、所得喪失の有無にかかわらずその支給事由となる。
  • 賃金を受けない日であること
    • 賃金を全く受けない日はもちろん、平均賃金の60%未満の賃金しか受けられない日も含む。また懲戒処分等のため雇用契約上賃金請求権のない日も含む(浜松労基署長事件、最判昭和58年10月13日)。
    • 特別加入者の場合は、基本的に賃金という概念はないので、「賃金を受けない日」という要件は不要である(平成11年2月18日基発77号)。
  • 待期期間を満了していること
    • 休業の最初の3日間は待期期間となり、支給されない(業務災害の場合は労働基準法による休業補償(平均賃金の60%以上)を事業主が支払う義務を負う(昭和40年7月31日基発901号)。通勤災害の場合は、事業主に休業の最初の3日間の分の補償義務がないため、支給を受ける権利はない。そのため、休業1〜3日目に年次有給休暇を取得する場合がある)。この待期期間は継続していると断続しているとを問わない。したがって実際に休業した日の第4日目から支給される(昭和40年7月31日基発901号)。またその間金銭を受けていても成立する。
    • 傷病が当日の所定労働時間内に発生し、所定労働時間の一部について労働することができない場合には、当日は「休業する日」に該当し、待期期間に算入される。いっぽう、所定労働時間終了後の残業中に傷病が発生した場合は、当日は休業日数に参入しない(昭和27年8月8日基収3208号)。
    • 待期期間中に平均賃金の60%以上の金額が支払われた場合は、使用者が労働基準法上の休業補償を行ったものとして取り扱われる。傷病が当日の所定労働時間内に発生し、所定労働時間の一部について労働することができない場合に、平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金との差額について60%以上の金額が支払われている場合であっても、特別な事情がない限り、労働基準法上の休業補償が行われたものと取り扱い、その日を休業する日として待期期間に算入する(昭和40年9月15日基災発14号)。

支給額は、

  • 所定労働時間の全部が労働不能の場合は、給付基礎日額の60%
    • 全部労働不能の場合、差額支給の問題は生じない。つまり、平均賃金の60%未満の賃金を支払った場合でも、給付は全額支給される。一方、60%以上の金額を支払った場合は使用者が労働基準法上の休業補償を行ったものとして取り扱われるため、給付は受けられない。
  • 所定労働時間の一部について労働不能の場合は、給付基礎日額から当該労働に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(労働不能部分に対応する給付基礎日額)の60%
    • 最高限度額が適用される場合、最高限度額の適用がないものとした給付基礎日額から、当該労働に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(その額が最高限度額を超えるときは、当該最高限度額に相当する額)の60%
  • 労働者が船員保険の被保険者である場合は、以下の金額が休業手当金として休業補償給付に上乗せされ、船員保険から支給される。
    • 休業の最初の3日間は、標準報酬日額の100%
    • 休業4日目から4か月目までは、標準報酬日額の40%(休業補償給付の60%と併せると、実質上100%給付となる)
    • 療養開始日から1年6か月を経過した日以後の期間で、休業補償給付の額が標準報酬日額の60%相当額より少ない場合、標準報酬日額から休業補償給付の額を控除した額の60%(限度額の適用により休業補償給付が標準報酬日額の60%を下回る場合、その差額が支給され60%相当額が保障される)

休業補償給付・休業給付は、労働不能の日ごとにその翌日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。

なお、労災の休業補償給付・休業給付とは別枠で社会復帰促進等事業休業特別支給金(後述)を申請すれば、休業の4日目から給付基礎日額の20%が追加で支給される。休業特別支給金の申請は、原則として休業補償給付・休業給付の支給申請と同時にしなければならない(申請書も同一の用紙である)。

傷病補償年金・傷病年金

業務災害又は通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治らない(固定化しない)場合に、傷病等級(6か月以上の期間にわたって存在する障害の状態によって、1〜3級に認定する)に応じ支給される(第12条の8第3項)。なお、傷病(補償)年金は、休業(補償)給付に切り替えて支給される給付なので、傷病(補償)年金を受給した場合は、休業(補償)給付は受給できない。労働者が、1年6か月経過後1か月以内に「傷病の状態等に関する届」を所轄労働基準監督署長に提出し、(労働者の請求がなくても)所轄労働基準監督署長の職権により支給が決定・変更される。よって時効にかかることはない(昭和52年3月30日基発192号)。平成28年1月からは、「傷病の状態等に関する届」には、申請者の個人番号の記載が必要となる。また、労働基準法にこれに対応する災害補償はなく、労災保険独自の規定である。

年金支給額は、1級の場合は1年につき給付基礎日額の313日分、2級は277日分、3級は245日分となる。障害の程度に変更があった場合は、その翌月から新たな傷病等級に対応した年金額となる(第18条の2)。賃金等の調整規定はないので、事業主から一定の手当等の支払いを受けていたとしても減額されることはない。

療養の開始後3年を経過してなお傷病補償年金を受けている場合(業務災害の場合)は、労働基準法に定める打切補償との関係の問題が生じる。労働者が傷病補償年金を受けている場合、使用者は、療養開始日から3年経過後(3年経過後に受給権が発生した場合は、その受給権発生日)に打切補償を支払ったものとみなして労働基準法第19条に定める解雇制限が解除される。ただし実際の解雇に当たっては労働基準法第20条に定める手続きが必要である。なお、傷病年金の場合(通勤災害の場合)は、3年経過しても解雇制限は解除されない。

その他、社会復帰促進等事業としての傷病特別支給金、傷病特別年金がある。実務上は傷病補償年金・傷病年金の支給決定を受けた者については、傷病特別支給金の申請があったものとして取り扱われている(傷病特別支給金、傷病特別年金については職権で支給決定されるものではない、昭和56年6月27日基発393号)。

障害補償給付・障害給付

業務災害又は通勤災害による傷病が治った(症状が固定化した)後に、一定の基準により障害等級に基づき、年金(障害等級1〜7級)または一時金(障害等級8〜14級)が支給される(第15条)。年金を受けている者が就職して賃金を得た場合であっても、年金の支給が停止・減額されることはない。障害による労働能力(一般的な平均労働能力のことを指し、個々の労働者の特有の諸条件は含まない)の喪失に対する損害の填補が目的とされる。1〜3級はおおむね労働能力の永久的全部喪失、4〜7級は労働能力の永久的過半喪失に該当する。同一の事故による身体障害が2以上ある場合は、原則としてそのうち重いほうを適用する(併合)。

  • 13級以上の身体障害が2以上あるときは重いほうの障害等級が1〜3級繰り上げる(併合繰り上げ)。
    • 13級以上の身体障害が2以上あるときは重いほうの障害等級が1級繰り上げる[注釈 22]
    • 8級以上の身体障害が2以上あるときは重いほうの障害等級が2級繰り上げる。
    • 5級以上の身体障害が2以上あるときは重いほうの障害等級が3級繰り上げる。
  • すでに身体障害(業務上であるか否かを問わない)を有する者が業務上・通勤による傷病により同一の部位について障害の程度を加重した場合は、加重後の障害の程度の障害等級とする。この場合、
    • 加重前・加重後とも7級以上の場合、「加重前の障害(補償)年金」と「加重後の障害(補償)年金額から加重前の障害(補償)年金を引いた額」の2つの障害(補償)年金が重ねて支給される。
    • 加重前・加重後とも8級以下の場合、加重前後の差額が一時金として支給される。
    • 加重前が8級以下、加重後が7級以上の場合、加重後の年金額は加重前の一時金額の1/25が引かれた額となる。

年金支給額は、1級の場合は1年につき給付基礎日額の313日分、2級は277日分であり、7級は131日分となる。一時金支給額は、8級の場合は給付基礎日額の503日分、9級は391日分であり、14級は56日分となる。年金受給者の障害の程度に変更があった場合は、その翌月から新たな傷病等級に対応した年金額となる(一時金の支給を受けた者の障害の程度が自然的に増悪・軽減した場合については、変更の取り扱いは行われない)(第15条の2)。平成28年1月からは、障害(補償)給付の申請には申請者の個人番号の記載が必要となる。

年金の受給者の負傷又は疾病が再発した場合は、年金の受給権は消滅し、再度療養(補償)給付を受けることになる。そして、再度治癒・症状の固定化があったときに、あらためてその該当する年金または一時金が支給される。一時金の受給者の負傷又は疾病が再発した場合は、再治癒後に残った障害の程度が従前より悪化したときのみ、差額支給が行われる。

障害(補償)年金受給権者の障害の程度に変更があった場合、遅滞なく所轄労働基準監督署長に文書で届出なければならない。一方、当該障害にかかる負傷又は傷病が治った場合(再発して治った場合を除く)は、届出は不要である。

当分の間、年金を受ける権利を有する者は、請求により1回に限り障害(補償)年金前払一時金の支給を受けることができる(附則第59条)。前払一時金支給額は、1級の場合は給付基礎日額の1340日分、2級は1190日分、7級は560日分までの範囲で受給権者が選択する。この請求は、治癒した日の翌日から起算して2年以内かつ年金の支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。前払一時金を受給した場合、障害(補償)年金はその額に達するまで[注釈 23]の間支給が停止される。また、年金の権利者がその限度額に満たない額しか受けないまま死亡した場合は、遺族(生計を同じくしている者が優先)の請求により障害(補償)年金差額一時金が支給される(附則第58条)。

障害補償給付・障害給付は、傷病が治った日(症状が固定化した日)の翌日から起算して5年(前払一時金は2年)の時効にかかる(第42条)。

その他、社会復帰促進等事業としての障害特別支給金、障害特別年金(一時金)がある。(後述)

遺族補償年金・遺族年金

業務災害又は通勤災害により労働者が死亡した場合、遺族(労働者の収入によって生計を維持していた(労働者の収入によって生計の一部を維持されていれば足りる。したがって共稼ぎ等もこれに含まれる。昭和41年1月31日基発73号)[注釈 24]受給資格者のうち最先順位者が受給権者となる)に年金、遺族(補償)年金の支給対象となる遺族がいない場合(受給権者の権利が消滅した場合を含む)は一時金が支給される(第12条の8第2項)。

対象となる遺族(受給資格者)の順位は次のとおりである。ここでいう「障害の状態」とは、労働者の死亡当時に障害等級5級以上または傷病が治らないで身体の機能もしくは精神に労働が高度の制限を受けるか、もしくは労働に高度の制限を加えることを必要とする程度以上の状態をいう。遺族(補償)年金・遺族補償一時金を受ける権利を有する者が2人以上あるときは、これらの者は、そのうち1人を、遺族補償年金の請求及び受領についての代表者に選任しなければならない。ただし、世帯を異にする等やむをえない事情のため代表者を選任することができないときは、この限りでない(規則第15条の5、第16条、第18条の9)。

  1. 配偶者(妻は年齢等の要件なし。は60歳以上又は障害の状態にあること)
  2. 子(18歳の年度末までの間にあるか、障害の状態にあること)
    労働者の死亡当時胎児であった者が出生した場合は、将来に向かってその子は労働者の死亡当時にその収入によって生計を維持していた子とみなされるが、障害の状態で出生したとしても障害の状態にあったものとはみなされない。なおこのとき、胎児の母が労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたかどうかは問われない。
    遺族基礎年金、遺族厚生年金とは異なり、「現に婚姻をしていないこと」は要件とされていない。したがって既婚者であってもその他の要件を満たす限り受給権者となる(孫、兄弟姉妹も同様)。
  3. 父母(60歳以上又は障害の状態にあること)
  4. 孫(18歳の年度末までの間にあるか、障害の状態にあること)
  5. 祖父母(60歳以上又は障害の状態にあること)
  6. 兄弟姉妹(18歳の年度末までの間にあるか、60歳以上又は障害の状態にあること)
  7. 上記太字の者(55歳以上60歳未満の者で障害の状態にないもの。ただし受給権者となっても60歳に達する月までの間は支給が停止される(若年支給停止)また60歳になっても順位は繰り上がらない)

18歳の年度末までにある子・孫・兄弟姉妹は18歳の年度末に、障害の状態にあるものはその事情がなくなった場合に、受給権は消滅する(失権)。なお労働者の死亡当時に18歳の年度末までにある子・孫・兄弟姉妹が障害の状態にあった場合、子・孫・兄弟姉妹が18歳の年度末に達してもその事情がなくならない限り失権しない。

年金額は、受給権者及びその者と生計を同じくしている受給資格者(若年支給停止者を除く)の人数により、1人の場合は給付基礎日額の153日分(55歳以上又は障害の状態にある妻については175日分)、2人の場合は201日分、3人の場合は223日分、4人以上の場合は245日分である。平成28年1月からは、遺族(補償)年金の申請には、申請者の個人番号の記載が必要である。

遺族の数に増減を生じたときは、その翌月から年金額が改定される。遺族(補償)年金を受けている者が老齢厚生年金を受けるようになっても年金額は減額されない。受給権者が死亡、婚姻等により失権した場合、後順位者がいれば次順位者に支給される(転給)。また、労働者の死亡当時に遺族(補償)年金の受給資格者がないときは、所定の受給権者(生計を維持していない配偶者等)に給付基礎日額の1000日分の遺族(補償)一時金が支給される。遺族(補償)年金の受給権者が失権した場合において既に受給した遺族(補償)年金が給付基礎日額の1000日分に満たない場合はその差額が所定の受給権者に遺族(補償)一時金として支給される。

当分の間、年金を受ける権利を有する遺族(若年停止者を含む)は、請求により1回に限り遺族(補償)年金前払一時金の支給を受けることができる(附則第60条)。前払一時金支給額は、給付基礎日額の200〜1000日分の範囲で受給権者が選択する。この請求は、年金の支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。

遺族補償年金・遺族年金は、労働者の死亡の日の翌日から起算して5年(前払一時金は2年)の時効にかかる(第42条)。

その他、社会復帰促進等事業としての遺族特別支給金、遺族特別年金(一時金)がある(後述)。なお労働者が令和8年3月26日までに石綿による業務上の疾病により死亡した場合、石綿救済法により、要件を満たせば令和14年3月27日までに請求することにより、死亡から5年経過後であっても遺族特別支給金が支給される[6]

遺族補償年金における男性差別問題

遺族(補償)年金の受給において、妻には年齢制限が存在しない一方、60歳未満の夫(障害の状態にある者を除く)はたとえ無収入であっても遺族(補償)年金を受給できないため、性差別が存在するのではないか、とされる問題につき、大阪地方裁判所は2013年11月25日判決で、同趣旨の規定を持つ地方公務員災害補償法の当該規定を憲法違反であると判断したが[7]、二審の大阪高等裁判所は2015年6月19日判決で「不合理な差別とはいえない」として一審の違憲判決を取り消し、合憲と判断した。最高裁判所も2017年3月21日判決で大阪高裁の判決を支持し、当該規定が合憲であることが確定した。

葬祭料・葬祭給付

業務災害又は通勤災害により労働者が死亡した場合、葬祭を行なう者(通常は遺族であるが、遺族がいない場合に社葬を行った場合は当該会社になる。昭和23年11月29日基災収第2965号)に支給される(第12条の8第2項)。支給額は、「給付基礎日額の30日分に315,000円を加えた額」「給付基礎日額の60日分」のいずれか高い方である(第17条)。

葬祭料・葬祭給付の請求をする者が遺族補償年金の受給権者である必要はなく、また請求の際に葬祭に要した費用を証明する書類等の提出は必要ない。なお、傷病補償年金を受給していても、私傷病が原因で死亡した場合は葬祭料・葬祭給付は支給されない。

葬祭料・葬祭給付は、労働者の死亡の日の翌日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。

介護補償給付・介護給付

障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であって、1級又は2級(2級は精神神経、胸腹部臓器の障害に限る)のものにより、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ、常時又は随時介護を受けているときに、当該介護を受けている間(入院中や障害者自立支援法による施設等において生活介護を受けている場合を除く)、介護費用が当該労働者に対し実費支給される(第12条の8第14項)。上限は常時介護を要する状態にある場合は月105,290円、随時介護を必要とする状態にある場合は月52,650円である。親族等による介護を受けた日のある月は、介護費用を支出していなくても最低保障額として常時介護を要する状態にある場合は月57,190円、随時介護を必要とする状態にある場合は月28,600円が支給される(規則第18条の3の4)。なお介護を要する状態にあっても実際に介護を受けている場合でなければ支給されない。労働基準法にこれに対応する災害補償はなく、労災保険独自の規定である。なお介護を受け始めた月については、以下の取扱いとなる。

  • 介護費用を支出して介護を受け始めた月については、実費が最低保障額に満たない場合でも、実費のみを支給する。
  • 介護費用を支出しないで親族等による介護を受け始めた月については、給付を行わず、翌月より支給する。

障害(補償)年金を受ける権利を有する者が介護(補償)給付を請求する場合には、当該障害(補償)年金の請求と同時に、又は請求をした後にしなければならない。傷病(補償)年金の受給権者の場合は、当該傷病(補償)年金の支給決定を受けた後に請求を行う。

介護補償給付・介護給付は、介護を受けた月の翌月の初日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。

二次健康診断等給付

近年、定期健康診断における有所見率が高まっているなど、健康状態に問題のある労働者が増加している中で、業務による過重負荷により基礎疾患が自然経過を超えて急激に著しく増悪し、脳血管疾患及び心臓疾患を発症して死亡又は障害状態に至ったものとして労災認定された件数は、増加傾向にある。脳及び心臓疾患は生活習慣病といわれ、偏った生活習慣に起因することが多い疾病であるが、業務に起因するストレスや過重な負荷により発症する揚合もあるところである。脳及び心臓疾患の発症は、本人やその家族はもちろん、企業にとっても重大な問題であり、社会的にも様々な問題を惹起している。今後、労働者の高齢化がさらに進展し、脳及び心臓疾患に係る労災請求事案の増加が懸念される中、労働者に起こり得る甚大な被害の発生を防ぐことの重要性が増しているところである。一方、医療の分野においては、予防の重要性が広範に認識されるようになっているところであるが、脳及び心臓疾患については、労働安全衛生法で定める定期健康診断等により、その発症の原因となる危険因子の存在を事前に把握し、かつ、適切な保健指導を行うことにより発症を予防することが可能である。こうした観点から、平成13年4月の改正法施行により「二次健康診断等給付」を創設することとしたものである(平成13年3月30日基発第233号)。

二次健康診断等給付は、労働安全衛生法による健康診断のうち、直近のもの(一次健康診断)において、血圧検査、血液検査その他業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査であって、厚生労働省令で定めるものが行われた場合において、当該検査を受けた労働者がそのいずれの項目にも異常の所見があると診断されたとき[注釈 25]に、当該労働者の請求により行う(第26条1項)。二次健康診断等給付はその性質上、脳血管疾患等及び心臓疾患を予防するための給付であるため、一次健康診断の結果その他の事情によりすでに脳血管疾患等及び心臓疾患の症状を有する労働者は給付を受けることはできない[注釈 26]。また特別加入者は労働安全衛生法でいう労働者ではないため同法の適用を受けず、二次健康診断等給付は受けることができない(平成13年3月30日基発第233号)。「血圧検査、血液検査その他業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査であって、厚生労働省令で定めるもの」は、以下の通りである(施行規則第18条の16第1項)。

二次健康診断等給付の給付の内容は、以下の通りである(現物給付。第26条2項、平成13年3月30日基発第233号)。

二次健康診断
血管および心臓の状態を把握するために必要な検査のこと(一次健康診断の検査は除く)で、厚生労働省令で定めるものを行う医師による健康診断(1年度につき1回に限る)。
  • 「脳血管及び心臓の状態を把握するために必要な検査であって厚生労働省令で定めるもの」とは、以下の通りである(施行規則第18条の16第2項)。
    • 空腹時の低比重リポ蛋白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査
    • 空腹時の血中グルコースの量の検査
    • ヘモグロビンA-c検査(一次健康診断において当該検査を行つた場合を除く)
    • 負荷心電図検査又は胸部超音波検査
    • 頸部超音波検査
    • 微量アルブミン尿検査(一次健康診断における尿中の蛋白の有無の検査において疑陽性(±)又は弱陽性(+)の所見があると診断された場合に限る。)
特定保健指導
二次健康診断の結果に基づき、脳血管疾患等及び心臓疾患の発生の予防を図るために、面接により行われる医師又は保健師の保健指導(二次健康診断ごとに1回に限る[注釈 27])。二次健康診断の結果その他の事情によりすでに脳血管疾患等及び心臓疾患の症状を有すると認められる労働者については、療養を行うことが必要であるため、当該二次健康診断に係る特定保健指導は行われない(第26条3項、平成13年3月30日基発第233号)。

二次健康診断等給付は、労災病院、又は労災指定医療機関等で行われる[注釈 28]。二次健康診断等給付の請求は、天災その他やむをえない理由がある場合を除き、一次健康診断を受けた日から3か月以内に、以下の事項を記載した請求書に、一次健康診断において上記の検査のいずれの項目にも異常の所見があると診断されたことを証明することができる書類(事業主の証明が必要)を添えて、当該病院等を経由して所轄都道府県労働局長に対して行わなければならない(施行規則第18条の19)。

  • 労働者の氏名、生年月日及び住所
  • 事業の名称及び事業場の所在地
  • 一次健康診断を受けた年月日(事業主の証明が必要)
  • 一次健康診断の結果
  • 二次健康診断等給付を受けようとする健診給付病院等の名称及び所在地
  • 請求の年月日

事業主は、二次健康診断の日から3か月以内に労働者からその結果を証明する書面の提出を受けたときは、提出の日から2か月以内に、結果に基づいた労働者の健康保持のための意見を医師に聴かなければならず、聴取した医師の意見は健康診断個人票(労働安全衛生規則第51条)に記載しなければならない(平成13年3月30日基発第233号)。

二次健康診断等給付は、労働者が一次健康診断の結果を了知しうる日の翌日から起算して2年の時効にかかる(第42条)。もっとも、二次健康診断等給付の請求は、原則一次健康診断を受けた日から3か月以内に行わなければならないことから、時効が問題となるのは特定保健指導を受ける場合に限られる。


注釈

  1. ^ 労働者災害補償保険法では「労働者」の定義規定を置いていないが、法律の目的・趣旨等から、労働基準法上の労働者を指すと解される(平成23年厚生労働省「労使関係法研究会報告書(労働組合法上の労働者性の判断基準について)」)。最高裁判所も同様の立場をとっている(横浜南労基署長事件、最判平成8年11月28日)。
  2. ^ 「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」第3条において「労災保険法第三条第一項の適用事業(=労働者を使用する事業)の事業主については、その事業が開始された日に、その事業につき労災保険に係る労働保険の保険関係が成立する」と定められており、労災保険が自動的に適用される規定となっている。なお、これにより労災保険への加入漏れは存在しないこととなるので、全ての労働者が労災補償を受けることができるようになっている。
  3. ^ 船員法国土交通大臣の所管のため、厚生労働大臣は労災保険の施行のために必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、船員法にもとづき必要な措置を取るべきことを要請することができる(第49条の2)とされる。
  4. ^ ただし、労災保険と同時徴収される石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく一般拠出金は外交特権の対象となり納付の義務を負わない。
  5. ^ 類似の任意加入制度を持つ雇用保険では「労働者の2分の1以上の希望」となっている。したがって、常時4人の労働者を使用する個人事業主が任意加入する場合、雇用保険では2人の希望、労災保険では3人の希望があったときに任意加入しなければならない。
  6. ^ 保険料の対象となる賃金は、「役員報酬」の部分は含まず、労働者としての「賃金」部分のみである。
  7. ^ 使用する場合であっても、使用する日の合計が年100日未満の場合を含む。
  8. ^ 特別加入者の具体的な範囲は、派遣元の団体又は事業主が申請書によって確定する。海外派遣者の特別加入制度では中小事業主等の特別加入制度の場合と異なり、加入者の範囲は、派遣元の団体又は事業主が任意に選択することが可能であるが、制度の運用にあたっては、できる限り包括加入するよう指導すること(昭和52年3月30日基発192号)。
  9. ^ この承認は、早くても特別加入申請書提出の翌日以降となるため(提出当日の承認は不可。昭和52年3月30日基発192号)、加入しようとする者が海外に渡航するまでの間に提出を行わなければ、承認までの間労災保険の対象外となる可能性がある。
  10. ^ 労働基準法第87条1項、および徴収法第8条1項が適用される事業。当該事業においては、事業主と雇用関係にない労働者の労災保険料も事業主が支払う。
  11. ^ 令和3年4月の保険料率改定では変更なしとされた。ただし、「水力発電施設、ずい道等新設事業」については特例がある[1]
  12. ^ 法文上は「労災保険率と同一の率から労災保険法の適用を受けるすべての事業の過去3年間の二次健康診断等給付に要した費用の額を考慮して厚生労働大臣の定める率を減じた率」(徴収法第13条)であるが、現在「厚生労働大臣の定める率」はゼロとされているので、結果的には一般保険料率と同一の率になるのである。
  13. ^ 平成23年度以前に保険関係が成立した事業については、100万円以上。
  14. ^ 平成26年度以前に保険関係が成立した事業では、1億2千万円以上。
  15. ^ 労働基準法に定める災害補償の価額の限度で行われる。したがって、平均賃金よりも給付基礎日額が高額な場合、平均賃金を用いて費用徴収に係る保険給付の額を計算する。なお労働基準法上規定のない二次健康診断等給付については費用徴収は行わない(平成13年3月30日基発第233号)。
  16. ^ なお、このような場合には、各事業場毎に労働保険関係を成立させ労働保険料を申告・納付するか、(事業の種類が同じ場合に限り)本社等主たる事業場に手続を一括する申請(=継続事業の一括)を労働局長あてに申請し承認を受ける必要がある。
  17. ^ 事業の存在については運輸局、法務局、日本年金機構等と定期的に情報交換をしている。
  18. ^ 労働組合の非専従者である労働者が会社の業務に従事中災害を蒙った場合の災害補償費の算定基礎となる平均賃金は、会社よりその労働者に対して支払った賃金額についてこれを計算するのであって、この場合労働組合より支払を受けたものは平均賃金算定の基礎とはならない(昭和24年11月11日労収第8377号)。
  19. ^ 実務上は、事業主証明を拒否された申請書が労働者から提出された場合、労働基準監督署は受理したうえで、事業主に対して「証明拒否理由書」を提出するよう求めている。労災か否かの判断はあくまで労働基準監督署が諸事情を考慮して行うものであり、事業主証明の有無が直接労災認定の可否につながるものではない。
  20. ^ 療養の給付と療養の費用の支給のいずれを受けるかが、労働者の選択に委ねられているのではない。あくまで療養の給付が原則で、療養の費用の支給は例外的な措置である。療養の給付を原則としたのは、業務上の傷病を回復するための給付を指定病院において直接に行なうことによって補償の実効と適正を期そうとしたものである。昭和41年2月の改正法施行により、それまでの「療養の費用の支給が原則」から転換した(昭和41年1月31日基発73号)。
  21. ^ 療養の費用の支給を強いて制限する趣旨のものではないので、上に述べた原則の適用については、被災者の便に支障を生ずることのないよう配意する必要がある(昭和41年1月31日基発73号)。
  22. ^ 13級と9級を併合する場合、8級となるが、支給額はこのケースのみ例外として13級の額(101日分)と9級の額(391日分)との合算額である492日分となり、8級の額(503日分)とはならない。
  23. ^ 最初の支払期日から1年経過月以後の分は年5分の単利で割り引いた額となる。
  24. ^ 「生計維持」の認定は厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行う(規則第14条の4)。
  25. ^ 「異常の所見」とは、検査の数値が高い場合(高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)にあっては低い場合)であって、「異常なし」以外の所見を指すものであること。ただし、一次健康診断の担当医が各項目について異常なしの所見と診断した場合であっても、産業医(労働安全衛生法第13条1項)や労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師(地域産業保健センターの医師、小規模事業場が共同選任した産業医の要件を備えた医師等。労働安全衛生法第13条の2)が、一次健康診断の担当医が異常なしの所見と診断した検査の項目について、当該検査を受けた労働者の就業環境等を総合的に勘案し異常の所見が認められると診断した場合には、産業医等の意見を優先し、当該検査項目については異常の所見があるものとすること(平成13年3月30日基発第233号)。
  26. ^ 二次健康診断を受診した結果、既に脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有していると診断されたことにより、療養補償給付等の他の保険給付の請求がなされた場合は、通常の脳及び心臓疾患に係る労災請求事案と同様に平成7年2月1日基発第38号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」に基づき業務上外の判断を行うこと(平成13年3月30日基発第233号)。
  27. ^ 一次健康診断を実施した次の年度に当該一次健康診断に係る二次健康診断等給付を支給することは可能である。ただしその場合は、当該年度に実施した定期健康診断等について、同一年度内に再度二次健康診断等給付を支給することはできないものであることに留意されたい(平成13年3月30日基発第233号)。
  28. ^ 二次健康診断を勤務中に受診せざるを得ない揚合においても、その受診に要した時間に係る賃金の支払いについては、当然には労働者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものではあるが、脳及び心臓疾患の発症のおそれのある労働者の健康確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業主が支払うことが望ましいこと(平成13年3月30日基発第233号)。
  29. ^ コック食品事件(最判平成8年2月23日)では、「特別支給金が被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできない」としている。
  30. ^ 同項に定める「臨時に支払われた賃金」「通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの」は含まない。
  31. ^ 2022年3月末をもって、福祉医療機構による年金を担保とする貸付の新規受付は終了し、4月以降は既存債権の管理回収業務のみである。
  32. ^ じん肺と認めなかった国の決定取消を求める訴訟を起こした原告が死亡した場合、死亡した者の遺族が当該訴訟を承継することができるかどうかが争われた事件において、最高裁判所は、未支給の労災保険給付を受けることができる遺族であるなら、訴訟承継することができると判断した(最判平成29年4月6日)。似た趣旨の規定を持つ国民年金法においては訴訟承継できないとの最高裁判例があり(最判平成7年11月7日)、法令により扱いは異なる。
  33. ^ この規定は、2人以上が同時に請求した場合に、請求人の人数で等分して各人に支給することを排除する趣旨のものではない(昭和41年1月31日基発73号)。
  34. ^ ここで言う第三者とは、請求者(被災労働者)、保険者(政府)以外の第三者。交通事故の相手方の場合もあれば、同僚、事業主等の場合もある。

出典

  1. ^ a b c d 令和3年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がります厚生労働省
  2. ^ 令和4年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました厚生労働省
  3. ^ 令和4年7月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました厚生労働省
  4. ^ 令和元年7月31日厚生労働省告示68号
  5. ^ 平成28年版厚生労働白書 p.326
  6. ^ 石綿健康被害救済法が改正されました厚生労働省
  7. ^ 遺族年金、受給資格の男女差「違憲」 大阪地裁が初判断日経新聞 2013年11月25日
  8. ^ 労働保険審査制度の仕組み(厚生労働省HP)






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