グリセリン 刺激性

グリセリン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/07 07:17 UTC 版)

刺激性

一般にアレルギーはまれとされ、比較試験ではグリセリンは偽薬として用いられ、グリセリンによるアレルギーの論文検索では4件の症例報告があり、うち2件では化粧品に配合された濃度の低い状態である[7]喘息既往歴の人を除いた大学生262人にグリセリンのパッチテストを行い、スギなどのアレルゲンより小さいものの約半数に紅斑や膨湿が生じた[8]

利用

化学原料としては、爆薬の成分や狭心症の薬となるニトログリセリンの原料として有名であるほか、有機合成で使うヨウ化アリルの原料である。

食品添加物
甘味料保存料保湿剤増粘安定剤などの用途がある。甘味料としては虫歯の原因となりにくいことや、エリスリトールキシリトールが持つ清涼感を打ち消す効果がある。砂糖より甘さが弱いにもかかわらず高カロリーである。
グリセリンの坐剤
医薬品
医薬品化粧品には、保湿剤・潤滑剤として使われている。浣腸、咳止めシロップ、うがい薬練り歯磨き石鹸、ローションなど幅広い製品に利用されている。チンキ溶剤として、あるいは降圧剤としても使われている。
機械工業など
エチレングリコールプロピレングリコールと同様に、不凍液を作るのに使われる。自動車用としては、より低温まで凍結しないエチレングリコールに取って代わられたが、安全面から再評価する意見もある[9]。実験室では、凍結保護剤として生物の凍結保存や、酵素の低温保存に用いられている。
また材料内部の欠陥を検査する超音波探傷試験に於いて、水溶液が探傷機と材料の間に塗布する接触媒質としても用いられるが、吸湿しやすい性質などからマシン油などと比べてが発生しやすく使用には注意が必要である。

機械式圧力計では、ケーシングの内部空間にグリセリン水溶液を充填した製品が存在する。これはグリセリンの粘性抵抗によって機械的振動を抑制して、ギア指針といった可動部が摩耗・破損することを防ぐためである。

バッテリー不凍液に使われることもある。かつては不凍液はグリセリンが主流であったが、後に不凍液としてより高性能であるエチレングリコールに取って代われた歴史がある。しかし、エチレングリコールは毒性が極めて強い物質であり自然界に漏洩した際の環境への悪影響の懸念から近年ではグリセリンが再び注目されている。

反応

ギ酸と加熱するとエステル化を経て脱離が起こり、アリルアルコールを与える[10]硫酸水素カリウムなどを作用させながら熱すると、脱水が起こりアクロレインに変わる[11]。酸触媒の存在下にアセトンと加熱すると、脱水して1,2位がイソプロピリデン基で保護された形の誘導体が得られる[12]

赤リン臭素とともに反応させると1,3位が臭素化された誘導体が得られ[13]酢酸中で塩化水素を作用させると、その当量により1-モノクロロ体[14]もしくは1,3-ジクロロ体[15]が生成する。後者や1,3-ジブロモ体をアルカリと加熱することにより、エピクロロヒドリン[16][17]、エピブロモヒドリン[17]が得られる。

アニリン誘導体と酸化条件で縮合させるとキノリン骨格が構築できる[18][19]。この手法はスクラウプのキノリン合成と呼ばれる。


  1. ^ Viscosity of Glycerol and its Aqueous Solutions”. 2011年4月19日閲覧。
  2. ^ Lide, D. R., Ed. CRC Handbook of Data on Organic Compounds, 3rd ed.; CRC Press: Boca Raton, FL, 1994; p 4386.
  3. ^ a b 落合直文「ぐりせりん」 『言泉:日本大辞典』 第二、芳賀矢一改修、大倉書店、1922年、1174頁。 
  4. ^ a b c d e f g Christoph, Ralf; Schmidt, Bernd; Steinberner, Udo; Dilla, Wolfgang; Karinen, Reetta (2006). "Glycerol". Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry. doi:10.1002/14356007.a12_477.pub2. ISBN 3527306730
  5. ^ a b G. E. Gibson , W. F. Giauque (1923). “The third law of thermodynamics. Evidence from the specific heats of glycerol that the entropy of a glass exceeds that of a crystal at the absolute zero”. J. Am. Chem. Soc. 45 (1): 93-104. doi:10.1021/ja01654a014. 
  6. ^ Sims, Bryan (2011年10月25日). “Clearing the Way for Byproduct Quality: Why quality for glycerin is just as important for biodiesel”. Biodiesel Magazine. http://www.biodieselmagazine.com/articles/8137/clearing-the-way-for-byproduct-quality 
  7. ^ Suzuki R, Fukuyama K, Miyazaki Y, Namiki T (March 2016). “Contact urticaria syndrome and protein contact dermatitis caused by glycerin enema”. JAAD Case Rep (2): 108–10. doi:10.1016/j.jdcr.2015.12.011. PMID 27051845. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/27051845/. 
  8. ^ 島田均、吉田博一、田中晃、佐藤成彦、清水宏明、森朗子、馬場廣太郎「586 皮内反応におけるグリセリンの影響について : 獨協医大BST学生での皮内テスト調査結果から」『アレルギー』第44巻第8号、1995年、1045頁、doi:10.15036/arerugi.44.1045_2NAID 110002424545 
  9. ^ Hudgens, R. Douglas; Hercamp, Richard D.; Francis, Jaime; Nyman, Dan A.; Bartoli, Yolanda (2007). An Evaluation of Glycerin (Glycerol) as a Heavy Duty Engine Antifreeze/Coolant Base. doi:10.4271/2007-01-4000. 
  10. ^ Kamm, O; Marvel, C. S. (1921). "Allyl alcohol". Organic Syntheses (英語). 1: 15.; Collective Volume, 1, p. 42
  11. ^ Adkins, H.; Hartung, W. H. (1926). "Acrolein". Organic Syntheses (英語). 6: 1.; Collective Volume, 1, p. 15
  12. ^ Renoll, M.; Newman, M. S. (1948). "dl-Isopropylideneglycerol". Organic Syntheses (英語). 28: 73.; Collective Volume, 3, p. 502
  13. ^ Braun, G (1934). "Glycerol α,γ-dibromohydrin". Organic Syntheses (英語). 14: 42.; Collective Volume, 2, p. 308
  14. ^ Conant, J. B.; Quayle, O. R. (1922). "Glycerol α-monochlorohydrin". Organic Syntheses (英語). 2: 33.; Collective Volume, 1, p. 294
  15. ^ Conant, J. B.; Quayle, O. R. (1922). "Glycerol α,γ-dichlorohydrin". Organic Syntheses (英語). 2: 29.; Collective Volume, 1, p. 292
  16. ^ Clarke, H. T.; Hartman, W. W. (1923). "Epichlorohydrin". Organic Syntheses (英語). 3: 47.; Collective Volume, 1, p. 233
  17. ^ a b Braun, G. (1936). "Epichlorohydrin and epibromohydrin". Organic Syntheses (英語). 16: 30.; Collective Volume, 2, p. 256
  18. ^ Clarke, H. T.; Davis, A. W. (1922). "Quinoline". Organic Syntheses (英語). 2: 79.; Collective Volume, 1, p. 478
  19. ^ Mosher, H. S.; Yanko, W. H.; Whitmore, F. C. (1947). "6-Methoxy-8-nitroquinoline". Organic Syntheses (英語). 27: 48.; Collective Volume, 3, p. 568
  20. ^ ライアル・ワトソン『生命潮流―来たるべきものの予感』(工作舎、1981年)37刷pp.59-60
  21. ^ 菊池誠 (2005年5月21日). “グリセリンの結晶”. kikulog. 2010年8月24日閲覧。






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