境界値問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/01/22 08:31 UTC 版)

数学の微分方程式の分野における境界値問題(きょうかいちもんだい、英: Boundary value problem)とは、境界条件と呼ばれる付帯的な制限が与えられている微分方程式のことである。境界値問題の解とは、与えられた境界条件を満たすような微分方程式の解のことである。
境界値問題は、物理学のいくつかの分野によく現れる。「正規モードの決定」のような波動方程式を含む問題はしばしば境界値問題として記述される。境界値問題に関する一つの重要な理論としてスツルム=リウヴィル理論がある。その理論における境界値問題の解析には、微分作用素の固有関数の計算が含まれる。
応用上意義のあるものであるために、境界値問題は良設定問題でなければならない。これはすなわち、問題に与えられた入力に対して、その入力に連続的に依存するような解がただ一つ存在することを意味する。
偏微分方程式の分野における多くの理論的な研究は、科学的あるいは工学的な応用上実際に良設定であるような境界値問題の解決を目的としている。最も早い境界値問題の研究として、ラプラス方程式の解である調和関数の発見についてのディリクレ問題が挙げられる。その解はディリクレの原理により与えられた。
解説
境界値問題は初期値問題と類似なものである。境界値問題は、方程式の独立変数の全端点(境界)における条件の与えられたものであるのに対し、初期値問題は、独立変数のある一点(そしてそれは領域内での最も小さな境界点、すなわち初期点)における条件の与えられたものである。
例えば、独立変数として領域 [0,1] に含まれる「時間」を考えた場合、境界値問題は
もし問題の法線微分に対する値が境界で定まるなら、そのような境界条件はノイマン境界条件と呼ばれる。例えば、鉄の棒の一端に熱源が置かれ、実際の温度は不明であるが一定の割合で熱が加え続けられるような場合が考えられる。
もし問題の値自体が境界において定まるなら、そのような境界条件はディリクレ境界条件と呼ばれる。例えば、鉄の棒の一端が絶対零度に固定されている場合などが考えられる。
もし境界が曲線や曲面であり、その法線微分と問題自体の値がその境界において定まるなら、そのような境界条件はコーシー境界条件と呼ばれる。
境界条件とは別に、境界値問題はその微分作用素の形状によっても分類される。楕円型作用素に対しては、楕円型境界値問題と、双曲型作用素に対しては、双曲型境界値問題と、それぞれ呼ばれる。これらの分類はさらに作用素の線形・非線形の別によって細分される。
関連項目
数値計算:
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参考文献
- A. D. Polyanin and V. F. Zaitsev, Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations (2nd edition), Chapman & Hall/CRC Press, Boca Raton, 2003. ISBN 1-58488-297-2.
- A. D. Polyanin, Handbook of Linear Partial Differential Equations for Engineers and Scientists, Chapman & Hall/CRC Press, Boca Raton, 2002. ISBN 1-58488-299-9.
外部リンク
- Linear Partial Differential Equations: Exact Solutions and Boundary Value Problems at EqWorld: The World of Mathematical Equations.
境界値問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 18:27 UTC 版)
「常微分方程式の数値解法」の記事における「境界値問題」の解説
常微分方程式 d y d x = f ( x , y ) {\displaystyle {\frac {dy}{dx}}=f(x,y)} の解 y ( x ) {\displaystyle y(x)} で, a ≠ b {\displaystyle a\neq b} に対する境界条件 r ( y ( a ) , y ( b ) ) = c {\displaystyle r(y(a),y(b))=c} を満足するものを求める問題を境界値問題 (boundary-value problem) と呼ぶ。初期値問題と異なり、境界値問題では複数の解が存在すること、あるいは解が存在しないことがあり得る。また、スツルム=リウヴィル型微分方程式のように常微分方程式にパラメータ λ {\displaystyle \lambda } が含まれ、境界値問題に解が存在するようにパラメータ λ {\displaystyle \lambda } を同時に定める問題もある。 これらの問題を数値的に解く最も単純な方法が狙い撃ち法 (shooting method) である。一方の端点(例えば x = a {\displaystyle x=a} )において初期条件 y ( a ) {\displaystyle y(a)} を適当に定めて微分方程式をもう一方の端点 x = b {\displaystyle x=b} まで解き、境界条件を満たすように未定の初期条件(および固有値)を適切に選ぶ。これはニュートン法などの関数の根を求めるアルゴリズム(これはしばしば逐次反復を伴う)を常微分方程式の数値解法と組み合わせることを意味する。ただし初期条件によっては区間 [ a , b ] {\displaystyle [a,b]} 全体で定義された解が存在しないことがあり、そのために改良された手法がある。あるいは有限要素法 (finite element method) などの手法も用いられる。
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