SCAの分類と歴史的変遷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 16:45 UTC 版)
「脊髄小脳変性症」の記事における「SCAの分類と歴史的変遷」の解説
1863年にフリードライヒは脊髄癆や多発性硬化症と異なり同胞間にみられる遺伝性の脊髄性失調を呈する疾患の存在を初めて報告し「遺伝性運動失調症」の概念を提唱した。これは2014年現在では常染色体劣性遺伝のフリードライヒ運動失調症として知られる疾患であることが明らかになっている。フリードライヒ運動失調症は小児期発症で脊髄性失調、深部反射消失、構音障害、足変形、脊柱彎曲などの臨床的特徴をもち、脊髄後索、錐体路および脊髄小脳路の変性を病理所見の中核とする疾患であると理解されている。 フリードライヒの報告に対してMarieは先行論文の症例報告を総括して1983年にフリードライヒ運動失調症とは異なり発症年齢が遅く、深部反射が亢進し、眼球運動麻痺や視力障害を伴う新しい疾患として「遺伝性小脳失調症」という概念を提唱した。この論文は当時にあってフリードライヒ運動失調症のような脊髄性ではなく、小脳性のしかも常染色体優性遺伝性の運動失調症に注意を向けた点では評価されている。しかしMarieがまとめた症例が病理学的に極めて不均一な疾患の集合であることがDejerineとThomasやSwitalskiやHolmesらによって明らかにされ単一疾患としては確立しなかった。 1891年Menzel(メンツェル)による遺伝性小脳失調症の報告や1900年のDejerineとThomasによるオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)の報告、1907年のHolmes(ホームズ)による小脳限局型の報告、さらには1922年のMarie(マリー)らによる晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)の報告などを受けて、次第にSCAの典型像は明らかになってきた。しかし多彩な臨床像や病理学的所見に基づく幾多の分類は次第に複雑なものとなり相互関係やお互いの区別が困難となってきた。 1954年にGreenfieldは病理学的な観点からこのような従来の分類を大別整理し、小脳型、脊髄小脳型、脊髄型の3基本型に分類して臨床所見との整合性をはかり、今日にいたる分類上の基礎を築いた。1982年にはHardingにより成人発症型の常染色体優性遺伝性SCDが4型に分類されておりしばしば引用される。 日本では厚生省の運動失調調査研究班によって脊髄小脳変性症の診断基準が作られている。1996年の基準では病型はオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、皮質小脳萎縮症、マチャド・ジョセフ病、遺伝性OPCA、遺伝性皮質小脳萎縮症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、遺伝性痙性対麻痺、フリードライヒ運動失調症、シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質変性症に分類された。皮質小脳萎縮症は晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)に相当する病型であり、遺伝性OPCAはかつてのMenzel型遺伝性運動失調症を拡張した概念である。遺伝性皮質小脳萎縮症はかつてのHolmes型遺伝性運動失調症と同様の概念である。その後原因遺伝子が明らかになるにつれて原因遺伝子による分類がされるようになった。例えば遺伝性OPCAのMenzel型の中からSCA1、SCA2、SCA3、SCA4、SCA5と次々と疾患が命名された。特に遺伝性OPCAのほとんどはSCA1、SCA2、SCA3であると言われている。また分子病態からポリグルタミン病、非翻訳リピート伸長によるSCAといった分類もされることがある。
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