PFDS発症メカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/06 07:15 UTC 版)
「おしゃぶり誘発顎顔面変形症」の記事における「PFDS発症メカニズム」の解説
歯科医師は、歯列の不正を改善するために、歯列矯正治療を行う。この歯列矯正治療は、顎骨に植立している歯牙を移動して、歯列を改善する治療法であるが、歯牙を移動するために歯牙の植立している骨そのものを変形・移動させて治療しているのである。 通常、歯牙を強い力で短時間押しても移動するものではないが、微弱な力を長時間・長期間、歯牙に加えることによって、骨そのものを変形させ、歯牙を移動することを可能としている。その微弱な力として歯科医師が利用するものには、細い針金の弾力、ゴム・シリコンの弾力と伸縮力、ばねの伸縮力、口唇・舌の圧力、咬合力等が挙げられる。 また、歯牙が萠出するときは、わずかな力でその萠出方向を変えることが可能で、後戻りが少ないことや、成人の硬くなった顎よりも小児の柔らかい成長過程の顎の方が、歯牙の移動も早く矯正治療に向いているということは、広く知られている。 おしゃぶりの素材として、ラテックス・シリコーンゴムが使われているが、当然これらには歯列矯正治療で使用するラテックス・シリコーンゴムと同様の弾力・伸縮力がある。また新生児・乳幼児の顎は小児よりもさらに柔らかく、急激な成長過程の中にある。そのため、おしゃぶりの長時間使用によるゴム・シリコン等の弾力による矯正力は、新生児・乳幼児において劇的に作用し、急速に歯列・顎が変形する。 さらには、おしゃぶりにより口唇と舌の筋力バランスが崩壊するため、口唇・舌等軟組織は偏位・変形し、また低位舌・異常嚥下癖等の悪習癖の獲得が起こり、成長ベクトルが変化してしまうのである。 通常、舌の正しいポジションは、舌尖が上顎前歯のすぐ後ろに位置し、唾液を嚥下するたびに口蓋に密着する。舌の安静時圧と嚥下時圧は上顎骨と歯牙を前方・側方に押して上顎骨の成長を促している。一方、低位舌は舌尖の位置が低く、嚥下時に下顎前歯を裏側から押している状態である。 本来、上顎骨の成長を助けるべき舌が上顎骨を前方・側方に押さないため、舌圧不足により上顎骨は成長不全・劣成長となり、上顎歯列弓が狭窄し、反対咬合となる。さらに、本来嚥下時に舌が押してはいけない下顎骨と下顎の歯牙を前方に押すため、過剰舌圧による下顎の過成長が起こり、下顎前突がさらに顕著となるのである。 このように、おしゃぶりの使用を中止した後も、低位舌・異常嚥下癖等により、乳幼児の成長ベクトルが変化してしまい、さらに症状が悪化し、治療を困難にするのである。乳歯列期の下顎前突が、永久歯列期も下顎前突になる率は93.6%、乳歯列期の交叉咬合が、永久歯列期も交叉咬合になる率は、ほぼ100%である。
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