n の移動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 09:16 UTC 版)
現代英語に至る歴史において、定冠詞「an」+母音で始まる単語、あるいは定冠詞「a」+「n」で始まる単語の連接(英語版)部分(juncture)で、「n」の移動が見られる。これは、単語あるいは音素の分かれ目(連接)を間違えたものが正しい言葉として定着した現象で、英語では「rebracketing」「juncture loss」「junctural metanalysis」「false splitting」「false separation」「faulty separation」「misdivision」「refactorization」など、日本語では異分析(metanalysisの訳語)などと呼ばれる(en:Rebracketing も参照)。 newt(イモリ) - 古英語の「efeta」が後期中英語までに「ewt(e)」になり、異分析によって「an ewt(e)」から「a newt(e)」になった。 nickname(愛称) - 後期中英語の「an eke-name」または「an ekename」(「eke」は「追加」の意)が異分析によって「a nekename」となった。 apron(エプロン) - ラテン語の「mappa」(布切れ、ナプキン)が、古フランス語の「naperon」(「nappe」/「nape」(テーブルクロス)の縮小辞)を経て中英語の「napron」になり、「a napron」が異分析によって「an apron」になった。 近代・現代英語でも類似の現象が起こることがあり、例えば、話者によっては a whole other(全く別のもの)を a whole nother と言う。「whole」は「全部揃った」「完全な」という意味の形容詞で、the whole family(家族全員)、a whole month(まる1か月)、a whole set(ひと揃い)などのように使用する。また、That's a whole different story.(「それはまるで異なる話だよ」)、A Whole New World(「ホール・ニュー・ワールド」=全く新しい世界)のように、「異なる」「新しい」という事実を強調する際にも用いられる。This is another movie.(「これは別の映画なんです」)を「whole」で強調して「これはまったく別の映画なんです」とするためには、That's a whole different story. と同様、不定冠詞+形容詞(「whole」)+名詞という語順を用いることになる。「another」(別のもの)は本来、「a(n)」+「other」から成っており、「whole」は子音で始まるため、その前に来る不定冠詞は「a」でなければならず、This is a whole... となる。しかし、話者によってはその後を ...other movie.(This is a whole other movie.)とせず、「another」の「n」を残したまま This is a whole nother movie. と言うのである。これは、「another」を「a」+「nother」と分けた異分析で、確認されている最古の使用例は1909年頃のものである。
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