BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 16:18 UTC 版)
「遺伝子組み換え作物」の記事における「BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復」の解説
遺伝子組換え技術により花粉が成熟できなくなるような人為的な雄性不稔系統と雄性不稔からの稔性回復系統が作られた。その実現には次の四つのものが重要な役割を果たす。 葯に存在する、花粉の成熟に関与しているタペート細胞において特異的に発現しているタバコ (Nicotiana tabacum) 由来の遺伝子TA29(配列)のプロモーター グラム陽性細菌Bacillus amyloliquefaciens由来のRNase(リボヌクレアーゼ)であるBARNASEの遺伝子barnase(配列) BARNASEと特異的に結合して阻害する、同じくB. amyloliquefaciens由来のタンパク質であるBARSTARの遺伝子barstar(配列) 除草剤耐性遺伝子 TA29のプロモーターとbarnaseのキメラ遺伝子(配列)によって、葯のタペート細胞特異的にBARNASEが生産されると細胞内のRNAが分解されてタペート細胞は死滅し、花粉が成熟できなくなり、その結果、その植物は雄性不稔系統となる。 種子親となる雄性不稔系統の近傍に花粉親となる品種を栽培すれば、雄性不稔系統に結実する種子は両者のF1であることが期待される。しかし、その種子から得られたF1植物体も雄性不稔である確率が高く、ダイズ、トウモロコシ、イネ、菜種などの子実を収穫する作物においては自家受粉できることが望まれるため、F1植物体においては雄性不稔形質が出現しない方がよい。そこで、花粉親が雄性不稔からの稔性回復系統である必要がある。そのためには、花粉親として用いる植物が、TA29のプロモーターとbarstarのキメラ遺伝子(配列)によって葯のタペート細胞特異的にBARSTARが生産されるように導入された遺伝子をホモ接合で保有していればよい。 これらのBARNASEとBARSTARを利用した系を説明する。F1の親品種としたいそれぞれ純系のAとBの品種を用意する。Aにはbarnaseと除草剤耐性遺伝子の双方を含むカセットを導入する。導入されてできた雄性不稔品種をAsとする。Asに導入されたカセットが1コピーであるならAsの遺伝子型は (barnase / -) となる。Asは雄性不稔であり自家受粉できないため雄性不稔維持系統として親品種Aを用い、その花粉で受粉させて結実させ、種子を播種する。種子の遺伝子型はAと同一のものとAsと同一の (barnase / -) とが1:1で分離してくる。Asと同一の (barnase / -) のものだけをbarnaseと同じ導入遺伝子カセットに存在している除草剤耐性遺伝子によって除草剤耐性で選択できる。そのため、Asを大量に増殖できる。Bにbarstarと除草剤耐性遺伝子の双方を含むカセットを導入する。できた品種Brは自家受粉可能であるため、除草剤耐性の後代をとってその中からホモ接合となった遺伝子型 (barstar / barstar) の株Brrを選択して増殖する。Brrを稔性回復系統として用いる。Asの近傍にBrrを植えてAsに結実したF1種子のみを採種する。F1種子の遺伝子型はbarnaseとbarstarに関して (barnase / -, barstar / -) と (- / -, barstar / -) が1:1で分離し、それぞれの種子から育ったF1植物体は自家受粉可能となる。 この手法の適用例は多数あるが、その一例としてバイエルクロップサイエンス社のカノーラについて挙げると「除草剤グルホシネート耐性及び雄性不稔及び稔性回復性セイヨウナタネ(改変bar, barnase, barstar, Brassica napus L.)(MS8RF3, OECD UI: ACS-BNØØ5-8×ACS-BNØØ3-6) の生物多様性影響評価書の概要」で公表されている。 なお、F1品種に結実した種子(F2世代)は発芽可能で栽培できるが、遺伝的に不均一な集団であるため、次回の栽培には新たに種子を購入する必要がある。これは、F1品種を栽培する場合、非組換えのF1品種でも毎作ごとにF1品種の種子を購入しなくてはならないのと同じ理由である。
※この「BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復」の解説は、「遺伝子組み換え作物」の解説の一部です。
「BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復」を含む「遺伝子組み換え作物」の記事については、「遺伝子組み換え作物」の概要を参照ください。
- BARNASEを用いた雄性不稔形質の付与とBARSTARを用いた雄性不稔からの回復のページへのリンク