3I/ATLAS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/25 10:20 UTC 版)
| ATLAS彗星 3I/ATLAS |
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|---|---|
| 仮符号・別名 | A11pl3Z[1] C/2025 N1 (ATLAS)[2][3] 3I/2025 N1[4] |
| 見かけの等級 (mv) | ≈ 18(発見時)[3] |
| 分類 | 非周期彗星[2] (恒星間天体) |
| 発見 | |
| 初観測日 | 2025年5月7日[5] |
| 発見日 | 2025年7月1日[3] |
| 発見者 | ATLAS-CHL[3] |
| 発見場所 | Río Hurtado ( |
| 軌道要素と性質 元期:TDB 2,460,890.5(2025年8月3.0日)[2] |
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| 軌道の種類 | 双曲線軌道 |
| 軌道長半径 (a) | -0.264 au[2][注 1] |
| 近日点距離 (q) | 1.356 au[2] |
| 遠日点距離 (Q) | 定義不可[2] |
| 離心率 (e) | 6.139[2] |
| 公転周期 (P) | 定義不可[2] |
| 最大軌道速度 | 68.3 km/s[6][7][注 2] (近日点通過時) |
| 最小軌道速度 | ≈ 58 km/s[6][7][8][9][注 3] (双曲線過剰速度) |
| 軌道傾斜角 (i) | 175.113°[2] |
| 近日点引数 (ω) | 128.010°[2] |
| 昇交点黄経 (Ω) | 322.157°[2] |
| 平均近点角 (M) | -635.924°[2] |
| 前回近日点通過 | TDB 2,460,977.982[2] (2025年10月29日) |
| 次回近日点通過 | 無し |
| 最小交差距離 | 0.363 au(地球軌道に対して)[2] |
| 物理的性質 | |
| 直径 | |
| 彗星核の直径 | 0.520 - 0.748 km[10] (非重力加速に基づく推定) 0.32 - 5.6 km[11] (ハッブル宇宙望遠鏡の画像に基づく推定) |
| コマの直径 | ≈ 700,000 km[12] |
| 質量 | 4.4×1010 kg[10] |
| 自転周期 | 15.48 ± 0.70 時間[13] (観測に基づく推定) 16.16 ± 0.01 時間[14] (光度曲線に基づく推定) |
| 絶対等級 (H) | >15.4[11] |
| 全光度 (M1) | 12.3 ± 0.8[2] |
| 色指数 (B-V) | 0.98 ± 0.23[15] |
| 色指数 (V-R) | 0.71 ± 0.09[15] |
| 色指数 (R-I) | 0.14 ± 0.10[15] |
| 年齢 | 70億年?[9] |
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3I/ATLAS または C/2025 N1 (ATLAS) は、2025年7月1日にチリのコキンボ州・Río Hurtadoで観測を行っていた小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) によって発見された、恒星間天体に分類される非周期彗星である[16][17][18]。発見直後は A11pl3Z と呼称されていた[1][19]。発見時は木星軌道のやや内側である太陽から約 4.5 au(約6億7000万 km)離れたところを内太陽系に向かって進んでいた。この彗星は、太陽に対して 58 km/s という非常に速い双曲線過剰速度で太陽系を通過する双曲線軌道を描いている[7][注 3]。高速で太陽系内を縦断していくが、地球から約 1.8 au(約2億7000万 km)以内に近づくことはないため、脅威となるような天体ではない[16]。オウムアムア (1I/ʻOumuamua) とボリソフ彗星 (2I/Borisov) に続いて太陽系外からの飛来が確認された観測史上3例目の恒星間天体であり[16][20][21][22]、名称には「3I」という接頭辞が付けられている。2025年11月頃に見かけの明るさが最も明るくなると計算されているが、それでも12等級程度であると予測されており[4][23]、近日点の通過前後でも肉眼で観測することはできないとされている[24]。
3I/ATLAS は活動的な彗星で、主に固体の氷で出来た彗星核と、そこから噴き出すガスと氷の塵から成るコマで構成されている。3I/ATLAS の彗星核の大きさは、彗星核からの光とコマ全体の光とを分離できないため、正確には求められていない[25]。太陽への接近がこの彗星活動の原因となっており、太陽は彗星核を加熱して表面の氷をガスに昇華させ、このガスが放出されて彗星の表面から塵を巻き上げ、コマを形成する[26]。ハッブル宇宙望遠鏡や様々な宇宙探査機によって撮影された画像からは、その彗星核の直径は 1 km 未満であると考えられている[10][11]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による観測では、3I/ATLAS の組成は二酸化炭素に異常に富んでおり、少量の水の氷、水蒸気、一酸化炭素、硫化カルボニルを含んでいることが示されている[27]。また、超大型望遠鏡VLTによる観測では、3I/ATLAS が太陽系内の彗星で見られる濃度と同程度のシアン化物ガスと原子状ニッケルの蒸気を放出していることも示されている[28]。
2025年10月29日に太陽に最も接近する近日点に達し、地球軌道と火星軌道の間である太陽から約 1.36 au(約2億300万 km)の距離にまで接近した[2]。3I/ATLAS は銀河系の薄い円盤か厚い円盤と呼ばれる領域のいずれかに起源を持つと考えられている[29]。仮に厚い円盤に起源を持つ場合、3I/ATLAS は形成されてから少なくとも70億年が経過しているとみられ、つまり太陽系の天体よりも古い天体である可能性がある[9][30][31]。
歴史
発見
3I/ATLAS は、チリのコキンボ州・Río Hurtadoにて観測が行われている小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) の望遠鏡によって2025年7月1日に発見された[3][20][32]。発見当初の見かけの明るさは約18等級、太陽に対する相対速度は約 61 km/s(約 220,000 km/h)[16]、太陽からの距離は木星軌道のやや内側である約 4.51 au であり[33]、天の川付近のいて座とへび座の境界付近をゆっくりと移動していた[22]。この新たに発見された天体は、直後に暫定的な仮称として A11pl3Z と呼称され[1]、発見時の観測データは国際天文学連合 (IAU) が運用している小惑星センター (MPC) に提出された[32][34]。これらの観測結果から、当初この天体は地球軌道に接近する可能性のある非常に軌道離心率の高い軌道を描く天体である可能性が示され、小惑星センターは確認待ちの地球近傍天体候補の天体が掲載される地球近傍天体確認ページ (Near Earth Object Confirmation Page, NEOCP) に A11pl3Z を掲載した[32]。
天文学者やアマチュア天文家などによって行われた他の観測施設による追跡観測により、この天体は地球に接近するような軌道ではなく、星間空間から飛来してきて二度と太陽へ接近しない双曲線軌道となっている可能性があることが明らかになり始めた[21][32][35]。そして正式な発見の前に行われていた観測データも用いてこの天体が実際に星間空間から飛来してきた恒星間天体であることが確認されるようになった。これらの観測記録には、同年6月14日から6月21日にかけて行われた Zwicky Transient Facility による観測や[3][36]、6月25日から6月29日にかけて行われた ATLAS による観測の結果が含まれている[22][21][32]。アマチュア天文家の Sam Deen は、同年6月5日から25日までの ATLAS による正式な発見前に行われた観測の結果にも注目し、A11pl3Z が早期に発見されなかったのは、銀河系中心部の恒星が高密度で分布している領域の前を通過していたためと推測している[23]。
初期観測では、A11pl3Z が小惑星なのか彗星なのかは分かっていなかった[22][35][36]。2025年7月2日にチリの Deep Random Survey やアメリカ・アリゾナ州のローウェル・ディスカバリー望遠鏡、ハワイ島・マウナケア山のカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡による観測では、A11pl3Z の周囲にコマと見かけの長さが約3秒角の短い尾が観測され、A11pl3Z で彗星活動がみられることが示唆された[3][23]。一方で、アラン・ヘールを含む多くの天文学者は、A11pl3Z に彗星のような特徴は見られないとも報告されていた[23]。2025年7月2日21時31分(協定世界時、日本標準時では翌3日6時31分)、小惑星センターは小惑星電子回報 (Minor Planet Electronic Circular) にて A11pl3Z の発見を正式に発表し、最初に発見を報告した「ATLAS」とこれまでに確認された3番目の恒星間天体であることを示す符号「3I」を付した 3I/ATLAS という名称を正式に命名した[3][23]。また、同時に非周期彗星としての符号である C/2025 N1 (ATLAS) という名称も付与された[3]。3I/ATLAS の発見・命名が正式に発表されるまで、小惑星センターには31ヵ所の異なる観測施設で記録された122の観測データが収集された[3]。
更なる観測
2025年7月2日、天文学者のデビッド・C・ジューイットとジェーン・ルーがノルディック光学望遠鏡を用いた観測を行ったところ、3I/ATLAS は「明らかに活動的」であり、拡散した尾を伸ばしていることが明らかになった[37]。同日に Miguel R. Alarcón とカナリア天体物理学研究所の研究者らによる研究チームも、スペインのテイデ天文台にある口径 2 m の望遠鏡2台による観測から、3I/ATLAS には少なくとも約 25,000 km の長さの尾が伸びていることが確認された[38]。複数の異なる望遠鏡による観測から、3I/ATLAS のコマは塵の存在を示唆する赤みがかった色をしており、2019年に発見された観測史上初の恒星間彗星であるボリソフ彗星に似ていることが分かった[14][15][39]。2025年8月に Toni Santana-Ros らが発表した研究では、3I/ATLAS のコマが2025年7月を通して赤みを増してきており、3I/ATLAS の彗星活動が活発になった結果として表面またはコマの組成が変化していることを示していると報告されている[14]。
さらに同年7月6日には、Zwicky Transient Facility による5月22日から6月21日までの期間に行われた10回分の観測データ内からも 3I/ATLAS が検出されたことが小惑星電子回報にて公表されている[40]。7月18日にはそれよりもさらに早い5月21日以降にイスラエルのワイツマン天文観測所 (Weizmann Astrophysical Observatory) によって観測されていた記録が公表された[41]。
2025年7月から8月にかけて超大型望遠鏡VLT、北欧光学望遠鏡、ロジェン天文台による偏光観測により、3I/ATLAS のコマは小さな位相角で異常に高い負の偏光度を示していることが明らかとなった。つまり、3I/ATLAS のコマから反射された光の大部分が、太陽-彗星-観測者間の平面に沿って振動しているということになる[42]。3I/ATLAS の負の偏光は、太陽系外縁天体で見られるものと似ており、コマが氷と暗い物質の混合物でできていることを示唆している[42]。
2025年6月にファーストライトが公開されたばかりであるヴェラ・C・ルービン天文台も、同年6月21日から7月3日までの科学的検証の観測中において 3I/ATLAS を偶然観測することに成功していた[43]。これらの観測により、中心部のコマがわずかに大きくなっていることが示され、想定される核の直径に制約を課すことが出来た。ヴェラ・C・ルービン天文台による検証観測がさらに2週間早く始まっていれば、ATLAS よりも先に 3I/ATLAS を発見できていた可能性がある[43]。アメリカ航空宇宙局 (NASA) が打ち上げたトランジット系外惑星探索衛星 (TESS) でも、正式に発見される前である2025年5月7日から6月3日にかけて 3I/ATLAS が観測されていたことが分かっている[5]。これらの観測により、2025年5月に太陽から約 6.4 au(約9億5700万 km)離れた時点でも、3I/ATLAS は既に明るく活動していたことが示されており、この彗星活動は水以外の揮発性物質の氷が昇華によって引き起こされた可能性が高いことが示唆されている[5]。
7月20日には、3I/ATLAS のコマから初めて水の氷が検出されたと報告された。これは、ジェミニ南望遠鏡とNASA赤外線望遠鏡施設による同年7月5日と7月14日の近赤外線による分光観測に基づいている[44]。スウィフト望遠鏡による紫外線観測からは、 同年7月30日と8月1日に 3I/ATLAS のコマに水蒸気と水酸化物イオンが存在していることが示唆された[45]。8月21日には、NASAのSPHERExミッションとカリフォルニア工科大学の天文学者らは、8月中旬からのSPHERExによる観測で水の氷と明るい二酸化炭素ガスの放射を検出したと報告した[12][46]。8月22日にはローウェル天文台の天文学者らは、3I/ATLAS でシアン化物の放射の兆候が暫定的に検出されたと初めて報告した[47]。その前日の8月21日に超大型望遠鏡VLTによって行われた分光観測で実際にシアン化物の存在が確認され、さらに 3I/ATLAS のコマからはニッケルも検出された[28]。
7月21日には初めてハッブル宇宙望遠鏡による 3I/ATLAS の観測が行われ、そのコマの様子がとても詳細に分かるようになり、その彗星核の直径は 5.6 km 以下であると制限された[11][48]。ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像は同年8月7日にNASAと欧州宇宙機関 (ESA) によって公開された[17][18]。同年8月6日には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) に搭載されている近赤外線観測機器 NIRSpec を用いた初めての 3I/ATLAS の観測が行われ[26][49][50]、その結果は8月25日にNASAによって発表された[51]。また、同年11月にはハッブル宇宙望遠鏡は 3I/ATLAS の紫外線分光観測を行って核から放出されているガスの組成とそれに含まれている硫黄と酸素の比率を調査する予定となっており[26][52]、それ以降も太陽から離れていく 3I/ATLAS の様子を観測する見通しである[53]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は近日点通過後の12月にも 3I/ATLAS を観測する予定となっている[26][54]。
3I/ATLAS が太陽から約 2.33 au(約3億4900万 km)の位置にあった同年9月7日にはジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡によって 3I/ATLAS の観測が行われ、この時のシアン化水素の分子の生成率が (1.5 ± 0.5)×1025 個/秒と測定された。しかし1週間後の9月14日には、生成率は (4.5 ± 1.9)×1025 個/秒(約 2 kg/秒)にまで増加したことが天文電報中央局が発行する Central Bureau Electronic Telegram (CBET) にて報告された[55]。9月15日時点のシアン化水素のコマは直径が約 180,000 km に及ぶ非対称の形状をしており、太陽がある方向とは反対方向に伸びていた。同日には、見かけの直径が50秒角(実際の距離にして約 100,000 km に相当する)の塵の尾も観測された[56]。9月14日時点の 3I/ATLAS の見かけの等級は14.2等級であった[55]。
エクソマーズ計画で打ち上げられた火星探査機であるトレース・ガス・オービターに搭載されている Color and Stereo Surface Imaging System (CaSSIS) を使用して、3I/ATLAS が火星に最接近した際にそのコマの撮影を行った[57]。この探査機で観測を行うのに適している対象よりも 3I/ATLAS は約50,000倍暗かったため、5秒間の露出時間で画像が撮影された[57]。
軌道
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太陽系を通過する 3I/ATLAS の軌道(青)を真上から見た図。各惑星の軌道と位置も表示されている(クリックでアニメーション再生)。
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太陽系を通過する 3I/ATLAS の軌道(青)を斜めから見た図。各惑星の軌道と位置も表示されている(クリックでアニメーション再生)。
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