音声と音素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/05 01:40 UTC 版)
音声表記と音素表記はいずれもよく用いられ、俗には混同されることが少なくないが、両者間には明確な違いがある。以下に表の形で違いを対照しておく。 音声表記音素表記記述対象人類が発するあらゆる言語音 対象とする一言語の、話者が認識している言語音 意図言語音をありのままに記述し、記述したものから正確に音声を再現できること。→ 網羅的に、精密に、客観的に。 対象となる言語の音声を解釈・整理し、「話者が認識している音」の連なりとして再構成してみせること。ひいては、その言語の音韻構造、さらには統語構造などに内側から光をあてること。→ 話者の直観にかなう形で、かつ合理的に、体系的に。 記号の定義国際音声学会により国際音声記号としてあらかじめ定義されている。その数は150個以上。補助記号つきも数えれば、さらに数倍になる。 言語ごとに慣例的におおむね決まっているが、研究成果に応じて研究者が改訂を試みることも可能。記号の数は対象言語の音素数に等しい理屈だが、多くの場合たかだか数十個。 例日本語 「人格者」[ʥĩŋ̍kakɯ̥ɕa] - 音声表記は [ ] でくくって記述する。※厳密さの度合いなどによって異なる表記もあり得る。 /zinkakusja/ - 音素表記は / / でくくって記述する。※解釈や流儀により異なる表記もあり得る。 このように、音声表記がきわめて普遍的な性質をもち、他言語の音声同士を比較するようなことも頻繁に行われるのに対し、音素表記は個々の言語内でそれぞれに定義され完結しているもので、言語同士の比較に耐えるようなものではない。したがって、たとえば日本語の音素表記で /h/ は長音「ー」の記号として用いられることが多いが、別の言語ではこれが子音 [ħ] の音標に使われているとか、日本語、中国語、フランス語、イタリア語の /r/ がそれぞれ全く違う音に聞こえる、とかいったことが起こるが、そもそも他言語の音素表記同士を比較すること自体が無意味なことなのである。 多数の音標を扱わざるを得ない音声表記が独自の特殊な記号をあらかじめ多数用意しているのに対し、音素表記では記号の数は比較的少数で済むため、特殊な記号に頼る必要が比較的少ない。日本語の [ɯ]、[ɾ] をそれぞれ /u/、/r/ で記述するなど、扱いやすくて直観的にもわかりやすい「普通のアルファベット」を多用するのが一般的である。
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