静電エネルギーに基づく計算
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/26 15:40 UTC 版)
「格子エネルギー」の記事における「静電エネルギーに基づく計算」の解説
格子エネルギーは結晶格子の静電エネルギーにより理論的に推定することができる。この式は1918年にマックス・ボルン(Max Born)とAlfred Landéにより導出されたものである。まず、 r 0 {\displaystyle r_{0}} の距離で結合している電荷 z + {\displaystyle z^{+}} の陽イオンと電荷 z − {\displaystyle z^{-}} の陰イオンを無限遠に引き離すために必要な静電エネルギーは以下のようになる。ここで ε 0 {\displaystyle \varepsilon _{0}} は真空の誘電率、 e {\displaystyle e} は電気素量である。 E = − z + z − e 2 4 π ε 0 r 0 {\displaystyle E=-{\frac {z^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r_{0}}}} 1モルの陽イオンと陰イオンからなる結晶を気化させて、互いに無限遠に引き離すときに必要なエネルギーは以下の式で表される。ここで N A {\displaystyle N_{A}} はアボガドロ定数、 M {\displaystyle M} は結晶格子中のあるイオンに対する周囲のイオンとの静電気力の総和を表した係数でマーデルング定数と呼ばれる。 E e = − N A M ( z + z − e 2 4 π ε 0 r 0 ) {\displaystyle E_{e}=-N_{A}M\left({\frac {z^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r_{0}}}\right)} またイオンは剛体球ではないため、互いに接近すると反発力が働き、反発力は距離 r {\displaystyle r} に対して N A B r n {\displaystyle {\frac {N_{A}B}{r^{n}}}} で表される。結晶中ではイオン間の静電引力と反発力の合計が最小となる距離 r 0 {\displaystyle r_{0}} で平衡となり、結晶全体の静電引力と反発力は以下のようになる。ここで n {\displaystyle n} はイオンの大きさに関連し、ハロゲン化アルカリの場合、イオンが以下の希ガス電子配置を取るとき(He:5, Ne:7, Ar:9, Kr:10, Xe:12)のようになり、陽イオンおよび陰イオンについての n {\displaystyle n} の平均値を用いる。また n {\displaystyle n} は実験的な測定値である結晶の圧縮率から求めたものを用いてもよい。 U = − N A M ( z + z − e 2 4 π ε 0 r 0 ) − N A B r 0 n {\displaystyle U=-N_{A}M\left({\frac {z^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r_{0}}}\right)-{\frac {N_{A}B}{r_{0}^{n}}}} イオン間距離が平衡状態 ( r = r 0 {\displaystyle r=r_{0}} ) となったとき U {\displaystyle U} が極小となるため、この状態は上式を r {\displaystyle r} で微分したものが0となるときに相当し、上式の定数 B {\displaystyle B} は以下のようになる。 ( d U d r ) r = r 0 = N A M z + z − e 2 4 π ε 0 r 0 2 + n N A B r 0 n + 1 = 0 {\displaystyle \left({\frac {dU}{dr}}\right)_{r=r_{0}}={\frac {N_{A}Mz^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r_{0}^{2}}}+{\frac {nN_{A}B}{r_{0}^{n+1}}}=0} B = − M z + z − e 2 4 π ε 0 n r 0 n − 1 {\displaystyle B=-{\frac {Mz^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}n}}r_{0}^{n-1}} これらの式より格子エネルギーは以下の理論式で表される。ただし、CaF2あるいはNa2Oのような1:2あるいは2:1のイオン結晶についてはマーデルング定数に電荷が含まれているため、共に陽イオンおよび陰イオン電荷はそれぞれ z + {\displaystyle z^{+}} = 1, z − {\displaystyle z^{-}} = −1 と置く。 U = − N A M z + z − e 2 4 π ε 0 r 0 ( 1 − 1 n ) {\displaystyle U=-{\frac {N_{A}Mz^{+}z^{-}e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r_{0}}}\left(1-{\frac {1}{n}}\right)} この式による計算値は以下のようになる。 U / kJ mol−1F−Cl−Br−I−Li+LiF 1033 LiCl 845 LiBr 798 LiI 740 Na+NaF 904 NaCl 756 NaBr 731 NaI 686 K+KF 799 KCl 692 KBr 667 KI 631 Rb+RbF RbCl RbBr RbI Cs+CsF 748 CsCl 652 CsBr 632 CsI 601 これらの計算値はほぼ実験値に近い値を与えるが、実際の結晶は必ずしも完全なイオン結合ではなく、ある程度の共有結合性を持つため完全なイオン結晶とする仮定が正しいわけではない。さらに計算の精度を向上させるためには反発力についての理論式の改良、ファンデルワールス力による寄与、および絶対零度でも存在する振動エネルギーである零点エネルギーも考慮する必要がある。
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