遺伝性決定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/18 07:50 UTC 版)
遺伝性決定("genetic sex-determination" or "genotypic sex-determination", GSD)は、染色体性決定(chromosomal sex-determination, CSD)とも呼び、通常は雌雄で異なる性染色体構成を持つ生物で観察される。しかし、遺伝性決定の生物種の中には、雌雄で性染色体の形状に見分けが付きにくい例も含まれている。この場合、その性決定に関与する染色体を、「分化初期の性染色体」とみなす例と常染色体的に取り扱う例とがある。 脊椎動物では、哺乳類がXY型、鳥類がZW型の性染色体を持ち、専ら遺伝性決定を行う。しかし両者の性染色体の相同性は低く、共通の祖先と考えられる有羊膜類(哺乳類・鳥類・爬虫類およびその祖先を含むタクソン)からそれぞれが分化したのち異なった性決定様式を作り上げてきたことが示唆される(図3)。他の脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類)および節足動物(昆虫類など)では、遺伝性決定の雄ヘテロ型と雌ヘテロ型が混在しており、同時に遺伝によらない性決定も観察される(表1)。 一口に性染色体が関わる性決定といっても、その機構は一様ではない。哺乳類とショウジョウバエはともにXY型の遺伝性決定を行うが、前者では性染色体上の特定の遺伝子(SRY遺伝子)が片側の性だけで働くことによって性決定するのに対し、後者では両性で同じ遺伝子を持っており性染色体数/常染色体セット数の比(X/A)によって性決定がなされる。この違いは、正常個体よりX染色体が1本過剰あるいは1本不足した個体での性表現での違いを見ると明確になる(表2)。 表2. ヒトとショウジョウバエの性決定様式の違い生物XXXYXXYX-(XO)ヒト 女 男 男 女 ショウジョウバエ 雌 雄 雌 雄 植物においても、Y染色体が雄性化に大きな作用をするヒロハノマンテマ型と、X染色体と常染色体との比率で雄・間性・雌が変化するスイバ型(表3)の性決定機構が知られている。 表3. X染色体数と常染色体セット数の比率(X/A)での性決定の例性X/A常染色体セット数(A)X染色体数(X)雄 0.33 3 1 0.50 2 1 0.50 4 2 間性 0.67 3 2 0.75 4 3 0.86 7 6 雌 1.00 2 2 1.00 3 3 1.00 4 4 小野知夫「高等植物の性決定と分化」(『最近の生物学』第4巻, 1951年)37ページの表「スイバの染色体組合せと性型」、東京農工大学農学部蚕学研究室『性決定』5ページの表「キイロショウジョウバエの染色体構成と性」より作成。「キイロショウジョウバエの染色体構成と性」の元データはFrost(1960), Goldscmidt(1955)による。 Y染色体数は性決定に関係が無いので省略した。X/A ≧ 1.0 では雌、1.0> X/A >0.5では間性、0.5 ≧ X/Aでは雄になる。
※この「遺伝性決定」の解説は、「性決定」の解説の一部です。
「遺伝性決定」を含む「性決定」の記事については、「性決定」の概要を参照ください。
- 遺伝性決定のページへのリンク