違法性と過失
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 18:11 UTC 版)
上述の通り、過失の要件は、主観的な要素(加害者の不注意等)ではなく、客観的な要素(予見可能性に基づく結果回避義務違反)を基礎として判断されるようになった。それに伴い、過失の要件と違法性の要件は、その内容にほとんど違いがなくなったことが指摘されている。 すなわち、違法性判断における違法性とは、〈結果を発生させた加害者の行為が不法行為法上違法と評価されるか〉の問題である。これを権利に重点を置いて言い直せば、〈侵害された被害者の権利・利益が不法行為法上保護されるべきか〉の問題であるとも表現できる。ここで「違法」や「権利侵害」の意義が問題となるが、判例によれば、ここにいう「違法」ないし「権利」は法律上の権利に限られないとされており、現在これに異論はないと思われる。そうすると、不法行為法上の違法とはいっても、不法行為法においては、刑事法のような違法な行為類型についての明文の規定があるわけではなく、また行政法のように行政行為に根拠規定が必要とされてそれを欠けば違法となるわけでもないので(刑事法では「殺人罪」「傷害罪」「窃盗罪」等、明文の規定がある。また、根拠規定を欠く行政行為は「違法な」行政行為である)、どこまでが不法行為法上の違法となるのか一義的には決まらない。結局、ここでは、損害の公平分担や被害者救済、不法な侵害の抑止といった不法行為法の基本理念に基づき、加害者側の行動の自由と被害者側の権利利益の保護との均衡点を探ることが期待されていると解される。具体的には、侵害された利益の性質や重要性、侵害の程度、加害者の立場・地位、あるいは侵害を避けるために必要な費用等の諸要素を総合衡量した上で、加害者の行為が違法か否か、あるいは、侵害された権利・利益が不法行為法上保護されるべきか否かの判断をすることとなる。 他方、過失の要件が客観化され、結果回避義務違反として捉えられた場合、その判断においても、上記と同様のことが言える。なぜなら、過失判断における結果回避義務とは、〈発生した侵害を避けるべき不法行為法上の義務があったか〉の問題であるが、こうした不法行為法上の義務は刑法や行政法のように明文で規定されているわけではなく、一義的には決まらないので、結局、上記のような総合衡量に基づき判断するほかないからである。 以上のような過失概念の客観化によって過失の要件と違法性の要件との関係が改めて問題となるに至った。 違法性・過失併存説 違法性と過失はともに不法行為の要件であるとする学説。従来からの通説の立場とされる。 違法性一元論(違法性重視説) 過失は結果回避義務違反にほかならないとみて不法行為の要件として違法性に一元化する学説。この学説に対しては違法性という本来ドイツ法特有の概念を規定上にも存在しない日本民法の解釈において大きな役割を担わせることは解釈論として難があるとの批判がある。 過失重視説 不法行為の対象が法律上保護される利益にまで拡張が図られた以上、違法性論はその役割を終え、不法行為の要件としては過失に尽きるとみる学説。
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