視覚情報処理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/10 01:53 UTC 版)
光学系を通じて網膜に投影される網膜像は、三次元世界の物理法則である光学によって決定される。視覚は、網膜像をもとに外界の三次元構造を復元する情報処理とみなせる。そのため、光学によって三次元世界の構造から網膜像が生じるのに対して、視覚は網膜像から外界の三次元構造の推定という逆問題を解いていることになる。このことから、視覚情報処理は逆光学とよばれる。ところが、光学は三次元の外界から二次元の網膜像への対応を決定するため、網膜平面に対して奥行き方向の情報は、網膜像では完全に失われてしまう。したがって、網膜像から外界の構造復元という逆問題は、そもそも理論的に解くことのできない問題である。そのため、視覚情報処理は不良設定問題である。おおまかには不良設定問題は、正しい解を一意に求めることができない問題のことである。不良設定問題は、何らかの制約条件を設けなければ解くことができない。視覚系は外界の構造に関するさまざまな仮定を設けることで、逆問題を解いている。ところが、そもそも視覚情報処理は不良設定であるため、こうした仮定が常に正しいとは限らない。そのため、視覚系が用いている外界についての仮定が、物理的世界での規則と異なっていた場合には、物理的世界の構造を反映しない知覚が得られることになる(錯視)。 網膜像は、外界の構造、光源の位置と性質、観察者と外界の位置関係などによって変化する。ところが多くの場合では、網膜像の変化にも関わらず、外界の構造を反映する一定した知覚が得られる。視覚のこのような性質を恒常性とよぶ。たとえば照明光の光量が変化して網膜像における平均輝度が上昇しても、物体表面の明るさの知覚は変化しない(明るさの恒常性)。あるいは、物体の網膜像における大きさは、物体と観察者との距離(観察距離)に応じて変化する。しかし、知覚される物体の大きさは、観察距離の影響を受けにくい(大きさの恒常性)。このように、視覚では近刺激そのものの物理的性質が知覚されるのではなく、遠刺激の性質を反映した知覚が得られる。
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