行列および線型作用素の冪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 00:51 UTC 版)
正方行列 A に対して A 自身の n 個の積を行列の冪と呼ぶ。また A0 は単位行列に等しいものと定義され、さらに A が可逆ならば A−n := (A−1)n と定義する。 行列の冪は離散力学系(英語版)の文脈でしばしば現れる。そこでは行列 A は適当な系の状態ベクトル x を次の状態 Ax へ遷移させることを表す。これは例えばマルコフ連鎖の標準的な解釈である。これにより、A2x は二段階後の系の状態であり、以下同様に Anx は n 段階後の系の状態と理解される。つまり行列の冪 An は現在と n 段階後の状態の間の遷移行列であって、行列の冪を計算することはこの力学系の発展を解くことに等しい。便宜上、多くの場合において行列の冪は固有値と固有ベクトルを用いて計算することができる。 行列を離れてより一般の線型作用素にも冪演算は定められる。例えば微分積分学における微分演算 d / dx は函数 f に作用して別の函数 df / dx = f' を与える線型作用素であり、この作用素の n-乗は n-階微分 ( d d x ) n f ( x ) = d n d x n f ( x ) = f ( n ) ( x ) {\displaystyle {\Bigl (}{\frac {d}{dx}}{\Big )}^{\!n}f(x)={\frac {d^{n}}{dx^{n}}}f(x)=f^{(n)}(x)} である。これは線型作用素の離散的な冪の例であるが、作用素の連続的な冪が定義できたほうがよい場面が多く存在する。C0-半群の数学的理論はこのような事情を出発点としている。離散冪指数に対する行列の冪の計算が離散力学系を解くことであったのと同様に、連続冪指数に対する作用素の冪の計算は連続力学系を解くことに等しい。そういった例として熱方程式、シュレーディンガー方程式、波動方程式あるいはもっとほかの時間発展を含む偏微分方程式を挙げることができる。このような冪演算の特別の場合として、微分演算の非整数乗は分数階微分と呼ばれ、分数階積分とともに、分数階微分積分学の基本演算の一つとなっている。
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