能力・学習方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 02:58 UTC 版)
森田はフランス人28名、日本人フランス語教師18名に、「舌打ち」研究について述べた。最初フランス人は全員、「舌打ち」の存在自体を否定したが、森田が実例を挙げると「言われてみると普段からしているかもしれない」といった見解を示した。一方日本人教師は、以前気になったことがあるという者が4名居たが、残りの14名はその存在にすら気づいていなかった。 森田は日本人女性のフランス語学習者、A~Eの6人を調査した。学習者の一人、20代後半の女性社会人D(渡仏理由は「フランスに住みたいから」)は、「フランス人と話すのが怖いんです。特に女の人」と述べ、その理由として「自分のフランス語が通じないからか、よく舌打ちされる」ことを挙げた。Dは渡仏して約2ヶ月ホームステイをしながらフランス語学校に通ったが、ホストマザーと上手くコミュニケーションできず、それがトラウマになっているという。Dの話を聞いてEも「そんなに気にはしてないけど、あるかも」と述べた。そこで森田が「舌打ち」の正体を伝えると、Dは非常に驚いていた。 A~Cは「舌打ち」が「聞こえていなかった」、D・Eは「聞こえていた」。学習者は、共通して20代女性だが、いくつかの相違点が見られる。 一つ目は学習期間である。A~Cが毎週180分の授業を約2年受けているのに対し、D・Eは毎週90分の授業を約1年~1年半しか受けておらず、渡仏を控えた学習者としては不十分と言える。 その次は、フランス語学習への動機づけである。動機づけを調査した結果、A~Cはフランス語自体に興味があり、学習を楽しんでいるが、それに対してDは憧れのフランスに住むため、Eは仕事のため、フランス語学習を余儀なくされている。動機づけの心理学研究をリードし、現在もその中核を成している「自己決定理論」から、これらの動機づけを捉えると、前者(A~C)は「内発的動機づけ (motivation intrinsèque)」、後者(D・E)は「外発的動機づけ (motivation extrinsèque)」と分類できる。要約すると、「内発的動機づけ」の特徴は「自己目的性」である。すなわち「内発的動機づけ」は、学習自体が目的になっている意欲であり、それは「知識を深めたり技能を高めたり」「自ら進んで学習に取り組む」特徴がある。それに対し「外発的動機づけ」は、学習以外の目的を達成するための手段・道具として学習を行う、というような意欲である。 最後は、フランス語能力のレベルである。A~Cは渡仏前から、簡単なフランス語が運用できるレベルだった。また、学内で選抜されていることからも、成績優秀者であることがわかる。他方、D・Eは自己紹介と挨拶程度はできるが、その他は話すことも聞くこともできない。先述のように、Dはフランス人と話すことさえも恐れており、Eは「基礎文法をちゃんと勉強していないのにフランス人の接客をしなければならない」という状況で「英語と簡単なフランス語をミックスしたむちゃくちゃで喋っている」と述べているような、最初歩レベルである。 それぞれの特徴をまとめると、「舌打ち」が「聞こえる」者とは、外発的に動機づけられた学習歴の短い入門レベルに達していない学習者である。他方、「聞こえない」者は内発的に動機づけられており、4技能(「聞く」「話す」「読む」「書く」)をバランス良く学習し、ある程度運用できるレベル以上の学習者である。
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